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日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7

2014/09/24(水)

(1)『曲がり角の日本語』水谷静夫4へ一部訂正と重要な追記

 水谷本の読後感想4回目の記事で、司馬遼太郎『坂の上の雲』での用語例を引用して解説した部分での文庫本引用頁番号に当方の間違いがありました。
〇第一巻の288頁と訂正します。(誤:1288頁)
〇これを確認して新たな問題点を発見しましたので、追記したい。
・水谷本で『坂の上の雲』からの引用はさらに2つ続いています。
〇受身の形についての誤用例と正用例ですが、誤用例との指摘に疑問を感じました。
・司馬遼太郎『坂の上の雲』第2巻225頁:(誤用例というが)
-<水谷本引用はじめ>
 例 日本でいう黄海海戦のことを、世界では鴨緑江海戦と称されていた。
(正用例を省略)
水谷本地文「称される」という受身は、私は「称せられる」であって、「称される」は使いません。
この場合「世界では称していた」と言うべきでしょう。受身にする必要は何もないんです。
もちろん「される」には敬語の例もありますが、ここで誰に対して尊敬しているわけでもありません。次の例では、ちゃんとそういう格好で、正しい使い方になっています。
-<水谷本引用おわり>
〇思考実験して水谷本に疑問を感じることは、2つあります。
①「称される」受身形にする目的は、動作主格を明示しないための手立てであり、通常用法の範囲にあるはずです。
・これを誤用扱いにする必要はありません。
②私は「称せられる」であって、と何気なく語彙を選択されているが、この語彙は簡単に辞典から調べられるものではありません。
国語学者による水谷本ですから、厳密な語彙を述べられているのでしょうか。
が、「称せる/称せられる」の派生方法を一般大衆へ教える文法はどこにあるのでしょうか。

(2)辞書の見出し語は「称する」だけ

 辞書見出し語に「称する」があり、説明の最後に文語:「称す」とある。
〇「称せる」は簡単に探し出せない語彙ですから、「態の双対環」に助けてもらいましょう。
〇不規則動詞:「する」の態活用:
・能動:する/可能:せる/結果:さる/受動:される (基本・本家筋の活用)
・可能能動:せる/可能:せれる/結果:せらる/受動:せられる (分家筋の活用)
・強制:さす/可能:させる/結果:ささる/受動:さされる (強制・本家筋の活用)
・可能強制:させる/可能:させれる/結果:させらる/受動:させられる (使役・分家筋の活用)

〇司馬の「称する/称される」は本家筋の受動態ですが、水谷本の「称せる/称せられる」は分家筋の受動態だということが分かります。
〇さらにまずいことには、「称せる」の意味について、水谷本では何も説明していませんが、間違いに気づいていないようです。
・「称せる」は通常の他動詞で意味が2つあります。
①称することができる:可能の意味、
②「称せる」は通常の強制、使役ではなく、「やってみせる」という意味の「称してみせる」が深層の意味でしょう。
(見せる、着せる、似せる、乗せる と同類の動詞態だと思います)
・使役「させる」が「他人にやらせる」の意味で、態接辞(r/s)as・eruが付加されたもの。
・「する→せる」は「自分が動作して相手にも促す」という意味で、態接辞(r/s)eruが付加されたものです。(見せる/見させる、着せる/着させる、似せる/似させる:意味の違いを深く考察して得た結果です)
〇語彙をひらがな解析している学校文法の段階に留まっていては、国語学者、文法学者といえども正しい理解に到達できないのです。

(3)水谷本では受動態、使役態の本質が語られていない

 水谷本:「称せられる」を使うと記述したことで、図らずも間違いを露呈してしまったように感じます。
・司馬「称される」が本家本元の受身表現であり、動作主格を言わずに済む構文です。
・水谷「称せられる」は本家から分派した分家筋の受身であり、意味が「やってみせ・られる」なので、「動作主格がやっている姿を」思い描かせる要素が大きい。動作主を隠したいなら避けるべき用法です。
〇学校文法が「さる/される」を嫌い、「せる/せられる」を何故勧めるのか。何故国語学者や文法学者が本質を見逃しているのでしょうか。
大いに不思議です。
〇思考実験のなかで「態の双対環」、「態の双対多重環」に思い至ってはじめて、動詞語彙の本質が見渡せるようになりました。
・「態の双対環」を操作していると、多数の動詞を産み出せます。それぞれが固有の意味を産み出し、決して意味が重複するものではありません。

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日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫6

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