日本語文法:「する」と「やる」の区別
日本語文法:「する」と「やる」の区別
2013/06/20(木)
(1)「する」/「やる」の違いは?
前回、読書中だった図書を読み終えた。
『日本語を「外」から見る ~留学生たちと解く日本語の謎~』
佐々木瑞枝:小学館:2010年2月6日
留学生の会話:
〇「日光へ旅行をやりました」
というやり取りのあとで、「する/やる」談義がはじまった。
・「する」と「やる」の使い分けを合理的に納得させる教授法・
文例が書かれてある。
・最少ルールで文法則を説明できるといいですね。
〇佐々木本では、
①「する」:自分の意思で行う=意志動詞。
(旅行する、洗濯する、発表する、スタートする)
②また、状態変化(自動詞的)の表現動詞。
(上達する、合格する、成功する)
これらを「やる」に置き換えできない。
③「やる」:基本は授受動詞。(物や行為をやらせる、やらされ
る関係)(餌をやる、一杯やりましょう)
これらを「する」に置き換えできない。
④両方使える:共同動作。
(PTA活動をする/やる、留学生祭りをする/やる、会議を
する/やる、試合をする/やる)
(2)寝も「やらず」に考えて、二晩「する」と、ようやくわか
った。(↑国語辞典の用例を応用しました)
当方も幾晩か寝ながら考えて、最少ルールにたどりついた(か
も)。
〇辞典には
・「する」:サ変他動詞:行う。なす:サ変自動詞(自然):
(音がする、3千円もする、五年もすると)。
・「やる」:五段他動詞:行かせる、遣わせる、相手の利益とし
て与える。
(使いをやる、金をやる、(飲食)一杯やる、書いてやる)
<ここから思考実験をはじめる。
・「やる」の原意には、行為や物の授受をする動作や、使役的動
作(行かせる、遣わす)が想起され、行為者以外に相手が存在
するのだと推測できる。
・この使役感覚が変化して、話者自身が「やらされる」と思い込
んで、『すぐ宿題をやるから、おやつ、ちょうだい!』などと
言うかもしれない。
・何度も「やりなさい!」「やりなさい!」と言われていると、
相手は「やります!」と応答してしまう。
・自分が使役の請負をしたつもりになって、「やる」、「やりま
す!」という言い方がでてきたと推測したわけです。
・つまり、義務感や責任感をもって(成果を期待して)行なう=
「やる」の意味へ拡張されたのか。
(「やらされる」感じが薄まり、「する」と同義に近づいた理由
なのでしょう)
・「やる」=自分をしてやらせるという再帰的動詞なのかもしれ
ない。>
(3)「やる」の原意を大切に
「やる」=授受動詞、使役動詞、を使う場面での「登場人物」
を想定することが大事です。
〇登場するのは、
①行為者、②被行為者(使い、受け手)、③使命・餌・課題(明
確な目標)の3つです。
この情景を必ず思い浮べることができれば、「やる」が仕事や
課題を仕上げる、あるいは、相手に「ものをやる」とか推測で
きるのではないか。
〇行為者、被行為者がともに「やる」、「やりましょう」と言い
うる。どちらが話者であっても成立する言回しと受け止められ
たのではないか。
〇さらに重要な点は、③やるべき事柄が①行為者、②被行為者と
もに「理解しあえる明確な内容」だということ。
〇この2つの条件で、「やる」表現が「共同で、グループで、特
定目的のために行動する」意味にも活用しやすくなったのだろ
う。
話が飛躍するが、
・たとえば、不正行為や犯罪行為が発覚した際には、『なんで、
そんなことをしたのか?』ではなく、『なんで、そんなことを
やったのか?』を追求する。
・「双方が理解しうる説明」、「納得がいく説明』が必要だから
だろう。
・念のために「する」場面の登場人物について考察しておくと、
①行為者、②動作目的、の二者(補語)があれば十分な状況説
明になる。
だから、行為者だけの「する」説明では、うその理屈で動作を
言い繕うかもしれない。
ネット上の「する/やる」区別に関する書込みを調べてみると
、文例として佐々木本に近いものが多い。が、
・「やる」を考察した書込みに、「再帰動詞」を指摘するものも
、「登場人物」分析のようなものも見当らない。
(次回に続く)
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