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2013/12/21

日本語動詞:受動態の多面性-1

2013/12/21(土)

(1)受動態の生立ち

日本語に限らず各種言語でも、受動表現には多面的な意味合いがあるようです。
まず、受動態の多義性を調べる前に、受動態の生立ちを簡単に確認しておきます。
思考実験中の態双対環を元にして解釈を進めます。
○学校文法の受動態接辞:
・れる/られる:ひらがなでは音素解析には不向きな表記です。
○思考実験では受動態接辞:
・+(r/s)ar・eru:動詞語幹に接続する接辞。
・+(r/s)の意味は、母音語幹にはrかsかが挿入され、子音語幹にはr/s不要で直接+ar・eruが接辞する。
(基本的には、動詞未然形+れる:五段/られる:一段 が接辞するのと同形ではある。しかし)
○思考実験では、受動態を単一接辞ではなく、
・結果態接辞:+aru(:ある)と
可能態接辞:+eru(:得る)と
の合成でできたものと考える。
○国語辞典後尾付録の文語助動詞一覧表をみると、
・文語受動態:る/らる:→:+(r/s)aru であり、ついでに
・文語使役態:す/さす:→:+(r/s)asu と記載がある。
・口語使役態:せる/させる:→+(r/s)as・eru となり、
○思考実験では、使役態を単一接辞ではなく、
・強制態接辞:+asu(:さす)と
可能態接辞:+eru(:得る)と
の合成でできたものと考える。

以上の考察をもとに動詞の態全体を見直しましょう。
○「動詞の態双対環」模式表記:

    能動態   ・・・・・   強制態     ・・・・・・・   二重強制態
   /   \         /   \(使役態)   二重 /   \二重
 結果態  可能態  強制結果態 強制可能態    強制結果態 強制可能態
   \   /         \   /             \   /
    受動態   ・・・・・  強制受動態   ・・・・・・   二重強制受動態

○模式表記の最後の二重強制態とは、
・二重強制態接辞:さす/ささす:→:+(r/s)as・asu です。
(二重強制くらいまでは必要な世の中になっていると感じています)

受動態の構造上の生立ちを分析しました。 受動態、強制受動態、二重強制受動態という3種類の受動態を提起しましたが、その基本構造は「結果態接辞+可能態接辞」ですから、以後の考察では「受動態」を中心に分析します。
「受動態」には多面的な意味合いがありますが、受動態接辞(構造)は一つです。
○あえて言うなら、受動態の根源的な意味も一つです。

(2)受動態の意味は何種類?

○文法書では、受動態の意味合いを分類して
①私は父に叱られた(受動・受身)
②この魚は生で食べられる(可能)
③母の苦労がしのばれる(自発)
④社長はまもなく来られます(尊敬)
⑤雨に降られる/母に死なれる(迷惑・困惑)
などが例示される。
○一方、思考実験でいろいろ考察した結果は、
①父に叱られた/雨に降られる/母に死なれる(受身・困惑)
②母の苦労がしのばれる/この魚は生で食べられる(自発・規範)
③社長はまもなく来られます(尊敬)
の3種類に解釈するのが合理的と考えたいです。

○受動態述語の根源的な意味合いは、
・動作・変化が行われた結果状態を受け取る。
ということです。
○受動態述語と補語(格助詞付き)との統語的関係で意味が分かれてくるのでしょう。
補語(登場人・物)と受動態述語との関係が、
①「被行為者が」、「行為者による」 受動態述語関係となる→受身・迷惑・困惑を意味する。
②「ものごとが」、「被行為者に」あるいは「世間一般に」受動態述語関係を与える→自発・規範・世間常識を意味する。
③「目上の行為者が」、「被行為者に」あるいは「世間一般に」受動態述語関係を与える→尊敬を意味する。
○受身表現は、相手の他動詞動作から発生するだけではなく、相手の自動詞動作からでも発生すると考察すれば、迷惑も困惑も「受身」としてまとめられます。
○自発・規範表現は、「ものごとが」自然に、あるいは普遍的に「人間の感情や理性に」行為想念を起させることを意味します。
・「この魚は」生で食べられる(規範・世間常識)
・わたしは「この魚を」生で食べれます(可能態:可能態は「ら抜き」ではなく「ら無し:ar無し」でよい)
○つまり、可能表現を受動態で代用しないで、可能態そのものを使うほうがよい。
○世間常識として可能なこと、許可できることを表現する場合のみに規範受動態表現を使うという整理が必要です。

○整理のため、可能態の意味と受動態の可能表現の意味の違いを際立たせましょう。
・可能態表現とは「動作(開始すること)が可能だ」ということを表します。
 (読める/書ける/開けれる/傾けれる:可能だから行為をしますの意味)
・受動態で表す可能表現は、本来「動作し終って結果が出た段階で異常なく無事に達成できる」ことを意味します。
 「くり返しおこなっても問題ありません」という規範・世間常識として「可能です」の意味です。
・「おれはこの魚を食べれるよ」は個人の食事開始の言葉です。
・「この魚は(汚染がない、食用魚だから)食べられます」は行政のお墨付・規範として発表する言葉です。
・受動態=結果+可能の原意があり、結果を得たうえでの可能判断の意味だからです。
○もっと可能態(動作開始が可能)をひんぱんに使うべきですね。
 もちろん、受動態での結果可能判断も尊重しながら、峻別して使い分けるとよいですね。

○行かない/行けない/行かれない ○飲まない/飲めない/飲まれない
 の「行けない/飲めない」が可能態(可能否定)です。
・一方、受動態の「行かれない/飲まれない」が表現する意味は、何でしょう。
考察するに、規範・常識として「行かれる/飲まれる」はずなのに、それを不可能にする条件が出来したのだという意味なのでしょう。
本来なら「できるはずのこと」が不本意ながら「できない状態になった」というニュアンスです。

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