日本語動詞:受動態の多面性-3
2014/01/08(水)
(1)動詞態の復習
日本語動詞の態(ヴォイス)について、手持の新書本を調べ直してみました。
○『日本語の文法を考える』大野晋:岩波新書:1978年7月20日第一刷/2001年11月5日第44刷
○『日本語の構造-英語との対比-』中島文雄:岩波新書:1987年05月20日第一刷
○『日本語』新版(下):金田一春彦:岩波新書:1988年3月22日第一刷/1997年4月7日第24刷
要点を抜粋すると、
○大野本:講演録の口述内容を元にした構成で、説明用の各種語形表なども加筆されている。
・態については、「ル・ラルとス・サスの役目」と項立したが、
・着眼は「自発か作為かの区別」におかれ、自動詞と他動詞の対生成に「ル・ス」が係わる点に力が入っている。
(また、他の助動詞接辞の説明とも同列的あつかいにとどまる感じ)
○中島本:日本語の構造を考察した文法書で、英語と対比させた考察なので両者の差がわかりやすい。
・動詞の種類:「ある/する/なる/なす」が基礎にあり、自発動詞と行為動詞が自動詞/他動詞の対形式となるものが多い。自・他動詞の生成例を詳しく提示。
・使役態:文語での「す」は使役態接辞に、「る」は受動態接辞に転用されたと推察する。
・日本語動詞の性格-自発・可能・受動・尊敬:日本語的発想は「事が起こるのは自然の成り行きによるもの」と見る傾向がつよい。
・「動作主が事を起す」陳述ではなく「事柄を主観的に受け止めて陳述する」形式だから、事柄が自動詞であれ他動詞であれ、能動態や受動態で陳述できる。
(英語の受動態では他動詞の目的語を主語にした構文となる)
・江戸時代に行為動詞+eru:可能接辞で「産める」「立てる」など可能動詞できて、多義の受動態から区別できるようになった。 戦後「来れる/見れる/食べれる」など可能形が広がっている。
・受動態:自発・受身(・迷惑)(・可能)・尊敬と多面的に使われるが、自発表現が拡張されたものと解釈できる。
○金田一本:日本語の特徴を多面的、博学的に説明した内容で、「文法からみた日本語」の項目で態について記述がある。
・受動態:自・他動詞に「れる/られる」を接辞して使う。
・自動詞の受動態は東アジアの諸言語で多く、日本語が珍しいわけではない。
・使役態:「せる/させる」を接辞して使う。
使役の意味は、①他のものを動かす②他の意志どおりの行動を許す、の二面性がある。
・使役態用法:受動態と同様、非情物を主格とする例は少ない/他動詞・能動態で代用することがある。
・態の項目冒頭に『世界の言語』書籍のなかの「日本語」項を紹介してある。 動詞:「打たれさせる」が受動態+使役態の連結で珍しいと。こういう言語は地球上に少ないものと見える。
(2)思考実験の復習
中島本での使役態の説明は少ないので、思考実験で復習してみよう。
また、金田一本の「打たれさせる」受動態+使役態も思考実験してみたい。
思考実験復習:
①中島本:使役態の生成(思考実験:態の双対環方式)
○「す/する」:単音なので動詞語幹:「S」と想定(実験前提)。
能動態 ・・・・・・・・・・ 強制態
す(su) さす(s・asu)
/ \ 強制/ \強制
結果態 可能態 結果態 可能態 (使役態)
さる せる ささる させる
\ / \ 強制 /
受動態 受動態
される さされる
○使役態は必ず強制系の強制可能態として生成されるものです。
「使役態:+(r/s)as・eru:が接辞の正式記法。つまり五段動詞:(+a・)せる/一段動詞:させる」
○能動系例(発見す/発見せる/発見さる/発見される)のごとく、能動系の可能態は使役の意味を持たない。
②金田一本:受動・使役態「打たれさせる」の解析(思考実験:態の双対環方式)
○受動態「打たれる」をまず「強制態」に乗せてから「使役態」にする。
能動態 (受動+)強制態
打つ(A者) 打たれさす(+S・asu)(B者)
/ \ 強制/ \強制
結果態 可能態 結果態 可能態 (使役態)
打たる 打てる 打たれささる 打たれさせる(?B者/?C者)
\ / \ 強制 /
受動態 受動態
打たれる(Z者) 打たれさされる(Y者=Z者)
○態の双対環で考察する利点は構文中の登場人・物を把握できることです。
能動:打つ(A者)と受動:打たれる(Z者)、
強制:打たれさす(B者)と強制受動:打たれさされる(Y者=Z者)
のように、最低限3人が登場します。
○一段の強制態の使役態:「打たれさせる」では、
・「打たれさせて・やる」(?B者)、「打たれさせて・ください」(?C者)のどちらにも解釈できます。
使役者が別人格のC者だと明示するのが、二重強制態、二重強制使役態になるのですね。
○(受動+)強制受動態:「打たれさされる」を(受動+)使役受動態:「打たれさせられる」に変換する方法は態の双対環でも表記できますが、省略します。
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