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2014年2月

2014/02/24

日本語動詞:「態の双対環」で蘇る伝承文法4

2014/02/24(月)

(1)「学校文法」が失ったもの

 「学校文法」で失ってしまったものを「態の双対環」で取り戻せたらなあと思いめぐらしています。
「学校文法」で受動態、使役態しか習っていない世代が「態の双対環」方式になじむのに時間がかかりますね。
 そこで、今回のシリーズでは、可能態、結果態、強制態に焦点をあてて、「学校文法」の落し物を拾い直してみたい。

(2)「強制態」の怪

 中学参考教材、国語辞典には使役の助動詞として、「子音語幹接辞:せる/母音語幹:させる」が記述されている。
○寺村本では、導入で「使役態」を態全体の右端におき、左端から受動態、可能態、自発態、自動詞、他動詞と並び、最後が使役態だという順序を述べている。
○「態の双対環」方式ならば、
・能動系統とは別に、相似の「双対環」を想定する。
(動詞態が受動態から自・他動詞、使役態へと連続線とはならないし、特段の学習実利もない)

○寺村本では、使役態接辞:ase(ru)の-e-が落ちて省略され、接辞:asu が生れて、関西語など方言として
・行かす/飲ます/食べさす/さす/来さす になったと、旧来説を記述している。
○強制態が先か、使役態が先かを議論するつもりはないが、今の文法解釈で弱点があります。
・接辞:+eru(可能態)の動詞活用では語幹として残るのが、+e(ru)(-e-)だけです。しかも、この-e-が落ちて省略されて、+asuが残ったというが、もともと文語体の使役接辞であったもの。あまりにも手抜かりな・・・
・受動態の場合、+are(ru)の形態で辛うじて(+areで)残ったが、(+ar・e)とは見られなかった。
・接辞:eru/aru/asuの3つは重要な動詞語彙の生成要素だが、下一段活用となる(eru)だけが、(e)しか残らない。なんとか文法ですくいあげてやらなければ浮ばれないだろう。
○「態の双対環」方式では、使役態は「強制+可能」の合成態と想定する。
・能動系と相似の「双対環」で、接辞もすべて強制+結果、強制+結果+可能のように合成態となる。

(3)「態の双対環」強制態接辞:+(r/s)asu

 「態の双対環」方式では、強制態を(法則として)明示します。
・子音語幹、母音語幹を問わずにすべての動詞を強制態にできます。
・「強制態の双対環」(模式表記)  ・念のため「二重強制態の双対環」も記述する。

・    強制態(r/s)asu              二重強制態(r/s)as・asu
・   ↙     ↘               二重↙    二重↘ 
・強制結果態 強制可能態(使役態)   強制結果態  強制可能態 
・(r/s)as・aru (r/s)as・eru        (r/s)as・as・aru (r/s)as・as・eru
・   ↘     ↙                  ↘      ↙ 
・    強制受動態                二重強制受動態 
・   (r/s)as・ar・eru               (r/s)as・as・ar・eru

という、「強制態の双対環」、「二重強制態の双対環」を想定する。

・例:「強制態の双対環」
・強制:休m・asu/使役:休m・as・eru/強結:休m・as・aru/強受:休m・as・ar・eru
・強制:調べ・(s)asu/使役:調べ・(s)as・eru/強結:調べ・(s)as・aru
/強受:調べ・(s)as・ar・eru
・強制:飲m・asu/使役:飲m・as・eru/強結:飲m・as・aru/強受:飲m・as・ar・eru

・例:「二重強制態の双対環」
・二重強制:休m・as・asu/二重使役:休m・as・as・eru/二重強結:休m・as・as・aru
/二重強受:休m・as・as・ar・eru

(4)強制態の意味

 強制態(接辞:+(r/s)asu)は動作を相手にやらせるという行為を意味します。
・相手が「物・無情物」の場合、他動詞となります。(乾く→乾かす)
・相手が「人・有情物」で動作をやらせる場合、「強制」の動詞になります。(読む→読ます)
・「強制系統の双対環」方式の各態の意味は、「強制状態」の意味が加わりますが、可能・結果・受動の基本的意味に同じです。
○意味を理解するうえで、着眼すべきことは、文に登場する人物の数が増えるということです。
・相手に動作をやらせると、最低でも(一段階の強制)二人です。
・仲介を立てる構成で、三人になったら(二段階の強制)「二重強制態」でなければ正確な表現ができません。
・少なくとも「二重強制態」まではしっかり「学校文法」に組み入れてほしい。
○寺村本の「使役態」では多くの論文を併記してありますが、核心がありません。
○「教師に保護者が子を休m・as・as・eてください」と連絡するのは、登場人物・三人で「二重強制態」の正しい使い方です。
・「休・(ま・さ)せ・てください」の(ま・さ)が二重強制の表現です。
○こういう話し方ができる人がいて、伝承文法がまだまだ根強いし威力があるということですね。

 ただし、間違って二重強制態を使う人もいますから、要注意ですね。
○たとえば、式典で来賓挨拶を代読する場合、「~、読(ま・さ)せていただきます」も二重強制の表現ですから、辛うじてOKでしょう。(何段階かの下請け、孫受けで代読者が決まったのかもしれません)
・ただ、来賓側近者が代読するなら、「読・ませていただきます」の一段強制で十分に通じます。
・自分の意見、挨拶を表明するために、「読(ま・さ)せていただきます」と二重強制で表現するのが、世に嫌われる「さ入れ言葉」というわけです。この二重強制態の表現を文字どおりに解釈すると、「自分が読むのではなく、自分が誰か(聞手?)に「読ませる」動作を強制するぞ」と言っているわけです。
・自分の意志で読むならば「自分をして「読ます:読m・asu」と、自分に強制する」という言葉で、「読ませてください」と表現するはずです。

追記:2014/02/28(金)
○強制受動態と使役受動態の違い
・以前ネット上で見つけたサイトで、「泣かされる:強制受動態」と「泣かせられる:使役受動態」との意味合いの違いを引用したことがありました。
・このサイト氏の感性にたいへん納得させられました。
 ・「泣かされる」:泣かす人間の憎らしい顔が目に浮ぶ。
 ・「泣かせられる」:可哀想な泣く人の姿が目に浮ぶ。 という差を感じているとのこと。
○「強制態の双対環」では、強制受動態:「泣k・as・ar・eru:泣かされる」を本来のものとします。
・使役受動態:「使役+受動:泣kase+(r/s)areru」ですから、
 ・泣kase(r)areru:泣かせられる と
 ・泣kase(s)areru:泣かせされる の 2通りの生成があるはずです。
・後者:泣かせ(強制の含意あり)+される(s:強制の含意あり)の生成が本来的な意味での合成でしょう。
 「泣か(せ)される:使役受動態」は、「泣かされる:強制受動態」と同義です。
・前者:泣かせ(強制の含意あり)+られる(r:能動の含意あり)の生成は、「強制性+やり抜く能動性」変換を含んだものです。(強制性の意味が強く、後続の能動性の意味が不明確になり、ぎくしゃくした表現です)
 強制性と能動性を一語に濃縮したような表現です。
○試しに使役受動態の否定形:「泣か・せ・られ・ない」では違和感が少ないようです。
・これは「られない」部分が全体を打ち消す意味の能動性を発揮しているからでしょう。
・強制受動態の否定形:「泣・か・され・ない」が想起させる登場人物としては被強制者なのでしょうね。

○日本語の伝承文法の底辺にある「(r/s)接辞の使い方」を再確認しておきましょう。
・通常の場合、(r/s)の切り替りは、能動系統から強制系統への変り目で行います。(語彙的「態」)
 ・泣く:能動態→泣かす:強制態(これで語幹はS付き。語彙的「態」変換)
 ・寝る:能動態→◎寝さす:◎寝かす:×寝らす:強制態(眠る状態で被強制者が寝る能動意識を保てないと想定するから、R付き不採用。また赤ん坊など能動意図がはっきりしない場合、×寝さす、◎寝かすを採用する)
 ・蒸す:自他能動態→◎蒸らす:×蒸さす:強制態(◎蒸らす:他動詞明確化。×蒸さす:人への強制ケースは少ない)
・語彙的「態」の階層で(r/s)接辞を自・他動詞の対応で使い分けるのが伝承文法にかなうわけです。
・日本語文法としては、文法的「態」での能動態/強制態の対応に「(r/s)接辞の使い分け」が如何に関わるのかを解明したいですね。

2014/02/21

日本語動詞:「態の双対環」で蘇る伝承文法3

2014/02/21(金)

(1)「学校文法」が失ったもの

 「学校文法」で失ってしまったものを「態の双対環」で取り戻せたらなあと思いめぐらしています。
「学校文法」で受動態、使役態しか習っていない世代が「態の双対環」方式になじむのに時間がかかりますね。
 そこで、今回のシリーズでは、可能態、結果態、強制態に焦点をあてて、「学校文法」の落し物を拾い直してみたい。

(2)「受動態」の怪

 中学参考教材、国語辞典には「受動態」という括りではなく、「受身・可能・自発・尊敬」の用途に使われる助動詞としての説明があります。
○寺村本の「態」では、受動態(直接受身・間接受身)、可能態、自発態、使役態の節立てのなかで、
・受動態としては「受身(直接・間接)」だけの意味に限定しています。しかし、受動態の「接辞」がほかの可能態や自発態にも使用されることを「態の連続性」と見なして寛容的なので、法則性を弱めています。

○「態の双対環」方式では、自・他動詞を問わず、動詞語幹の子音/母音を問わずに、「可能態」、「結果態」、「強制態」を明確に接辞定義をしてあります。
・「態の双対環」方式の「受動態」とは、「受動態接辞:+(r/s)ar・eru」の形態を持つものだけを認めます。
この接辞形態で表現する受身態、尊敬態、規範態、成就(可能)態などをそっくり包含しています。
つまり、「態の双対環」でいう「受動態」とは、他人が行った行為、自分が行った行為の「結果の達成、未達成に対する反応、反省、感情」を表現するものです。

○ここでもう一度、「可能態」について確認しておきしょう。
・「学校文法」、寺村本でいう「可能態」形態:、
 ・子音語幹に+eru/母音語幹に+rareru を接続する。(母音語幹に+reruを付ける選択が合理的なのに、、、)
・「態の双対環」方式の「可能態」は、「動作開始時点の可能態」と見なして、
 ・子音(母音)問わず語幹+(r/s)eru が接辞です。 (つまり「ら抜き」可能態を推奨します)
 ・「動作した結果の可能態」は、「態の双対環」方式の「受動態」にあり、当然「ら有り」形態です。

(3)「態の双対環」受動態接辞:+(r/s)ar・eru

 「態の双対環」方式では、受動態を(法則として)明示します。
・子音語幹、母音語幹を問わずにすべての動詞を受動態にできます。
・例:能動:起き・(r)u/可能:起き・(r)eru/結果:起き・(r)aru/受動:起き・(r)ar・eru
・能動:休m・u/可能:休m・eru/結果:休m・aru/受動:休m・ar・eru
・能動:調べ・(r)u/可能:調べ・(r)eru/結果:調べ・(r)aru/受動:調べ・(r)ar・eru
・強制:飲m・asu/強制可能:飲m・as・eru/強制結果:飲m・as・aru/強制受動:飲m・as・ar・eru
○受動態の形態:子音語幹、母音語幹に関わりなく、
・受動態接辞:+(r/s)ar・eru が接続されています。 (「学校文法」、寺村本も同様)

(4)受動態の意味

 受動態接辞の構造が「結果態」+「可能態」の合成で生成されています。(と分析するのが「態の双対環」方式ですが)
・基本的な意味は、
 自分や他人が行った行為での「動作の結果状態:達成、未達成」を認識して、どう「反応することが可能」か という意味です。
・または、単に「動作の結果状態」に「なるのを開始します」という構造だと解釈します。

例:起き・れる:可能態/起き・られる:受動態(=結果可能態)
・夜「明日、早く起き・れるかなぁ」 翌朝「や、起き・られたぁ」
例:受動態(=規範:反復行為)
・「明日までは、ここから出・れますが、明後日からは出・られませんのでご了承ください」
例:受動態(=尊敬態)
・先生が来・られます。
例:受動態(=尊敬/受身)
・先生が君の絵を褒め・られていましたから、その場に君もいたら、直接褒め・られたでしょう。
例:受動態(=自発・共感)
・亡き父のことが偲・ばれる。
例:受動態(=規範から外れるほどのことの表現:否定形が多い、結果に到達できない!)
・「熱うて飲・まれへん」→(飲むことを完遂できない)
・「どうしても行・かれない」→(行って帰るための条件が閉ざされた)
・止むに止・まれぬ気持から・・・→(止めてしまって放り出すわけにいかない)
・食わなければ生き・られない→(生き抜く手段)。
 比較:食わなければ生き・れない→(今日、明日の手段)。
例:受動態(=受身)
・先生に叱・られた。
・雨に降・られて、雨宿り。
○受動態の意味による区分けを簡単に示しました。
・どの分類の受動態に対しても、「動作の結果状態」を共感すると意味が分ってくるように思います。
・日本語学習者にも共感してもらいやすい方法は?
・「態の双対環」要領で、「先生に叱らる」:結果態で一度止って情景を思い浮べてから「叱らr・eru」、「叱られた」と続ける。
・日本語は比較的に「動詞文法」に例外がないので、練習すれば応用が効きます。

次回、強制態、使役態を解説します。

2014/02/19

日本語動詞:「態の双対環」で蘇る伝承文法2

2014/02/19(水)

(1)「学校文法」が失ったもの

 「学校文法」で失ってしまったものを「態の双対環」で取り戻せたらなあと思いめぐらしています。
「学校文法」で受動態、使役態しか習っていない世代が「態の双対環」方式になじむのに時間がかかりますね。
 そこで、今回のシリーズでは、可能態、結果態、強制態に焦点をあてて、「学校文法」の落し物を拾い直してみたい。

(2)「結果動詞」の怪

 中学参考教材、国語辞典には「結果動詞」や「結果態」に関する説明がありません。
・ないことが怪です。
○日本語の文法界ではまったく着目していない動詞態のようです。
・しかし、日本語の語彙生成の仕組を考察すると、自動詞・他動詞の相対生成の接辞が、短い音素の組み合せながら文法的に強力な法則性を発揮していることがわかります。
○語彙段階の生成で
・他動詞とその動作結果の状態を表す自動詞との対構成が数多くあります。
・寺村本例:重ねる→重なる、固める→固まる、決める→決まる、備える→備わる、高める→高まる、伝える→伝わる、集める→集まる、変える→変わる、助ける→助かる、曲げる→曲がる、見つける→見つかる など。
・語尾を一見して、:eru:他動詞/:aru:自動詞(結果表現)だと感じます。
○無理やり共通語幹を比べると、
・kasan(e)/kasan(ar)、 katam(e)/katam(ar)、 kim(e)/kim(ar)、、、
のようになります。
・仮に共通語幹だとして、「態の双対環」風に表現すれば、
・能動:重(さ)ぬ/可能:重ねる/結果:重なる/受動:重なれる
・能動:固む/可能:固める/結果:固まる/受動:固まれる
と言うような推測ができますが、まったくダイナミックな感じがしません。
○他動詞に注目して、
・能動:重ねる/可能:重ねれる/結果:重ねらる/受動:重ねられる
・能動:固める/可能:固めれる/結果:固めらる/受動:固められる
というふうに双対環を操作する方がわかりやすいですね。
・もしかすると、文語体時代に語彙変化の波が起きて、結果:重ねらる→重なる/固めらる→固まる と一連の「結果動詞」が誕生したのかもしれない。
○以上の考察から、「重なる、固まる、決まる、助かる」などの自動詞が「動作や変化を受けた結果状態」を表すためのほぼ専用の動詞形態だということがわかります。
・日本語には「動作の結果」を表す動詞が多数ありますが、なぜか「結果動詞」との呼び方がありません。
・さらに、なぜか「結果態」という概念が文法に定着していません。(受動態=結果態+可能態=動作の結果を受けて、どう対応するか、の意味が十分理解されていません)
・「結果動詞の怪」の間違いとは、
文法的な「結果態」を見落していることです。
(「結果動詞」命名は不必要ですが)

(3)「態の双対環」結果態接辞:+(r/s)aru

 「態の双対環」方式では、結果態を(法則として)明示します。
・子音語幹、母音語幹を問わずにすべての動詞を結果態にできます。
・例:能動:開k・eru/可能:開け・(r)eru/結果:開け・(r)aru/受動:開け・(r)ar・eru
・能動:起き・(r)u/可能:起き・(r)eru/結果:起き・(r)aru/受動:起き・(r)ar・eru
・能動:休m・u/可能:休m・eru/結果:休m・aru/受動:休m・ar・eru
・強制:飲m・asu/強制可能:飲m・as・eru/強制結果:飲m・as・aru/強制受動:飲m・as・ar・eru

○動詞「結果態」を口語で使う場面は、自動詞の動作の結果:
・休まる(ゆっくり休んだ結果の状態)、
・つかまる(しっかりつかんだ結果として態勢を保持する)、
・わかる(仕分けして区別ができる)、
とか少ないのですが、受動態につながる態ですから重要です。
・また、結果態:「なさる」、「なはる、~はる」が直接(受動態を経ずに)、尊敬態として使われる例もあります。


(4)結果態の意味

 すべての動詞が「結果態」になれます。
 (結果動詞をさらに結果態にすると意味不明になりますが)
・基本的な意味は「その動詞の動作が行われた結果の状態」を表すことです。
・「態の双対環」方式で、結果態、可能態を明示する理由は、受動態への合成生成のほかに、動詞の「動作の開始」、「動作の結果」を表現すべきだと考えたからです。
・動作の開始:可能態で表現する。
・動作の結果:結果態で表現する。動作を続けたあとの結果状態を推論した表現の場合もある。
 すべての動作の開始と結果が対ペアで表せるとなれば、「態の双対環」がダイナミックな形式になります。
 「動詞の働き」を確実に理解できるはずだと推測しました。
・「結果動詞」を「態の双対環」方式で操作しても、ダイナミックさが感じられません。操作をして不思議な感じがするものにはなにか理由があります。思考の道具としても双対環操作は役立ちます。

次回、結果態、受動態を解説します。

2014/02/17

日本語動詞:「態の双対環」で蘇る伝承文法1

2014/02/17(月)

(1)「学校文法」が失ったもの

 「学校文法」で失ってしまったものを「態の双対環」で取り戻せたらなあと思いめぐらしています。
「態の双対環」方式には、動詞の自・他対応の形態を生成するための接辞:可能態、結果態、強制態などを盛り込んで、受動態(結果+可能)、使役態(強制+可能)を解説できるようにしました。
「学校文法」で受動態、使役態しか習っていない世代が「態の双対環」方式になじむのに時間がかかりますね。
 そこで、今回のシリーズでは、可能態、結果態、強制態に焦点をあてて、「学校文法」の落し物を拾い直してみたい。

(2)可能動詞の怪

 中学参考教材、国語辞典に可能動詞の説明がある。
・例:書く→書ける:書k・eru/読む→読める:読m・eru/立つ→立てる:立t・eru
 (動詞・子音語幹:五段活用に+eruを付けた動詞形態を可能動詞という)
・それ以外(母音語幹の)動詞には「られる」をつけて可能の意味を表す。 とある。
 (+(r)ar・eruをつけるとは、受動態になってしまいます!)

 この可能動詞の説明には、間違いが3つあります。文法家も間違いを指摘しませんから、大いに困ります。
①子音語幹の動詞に接辞:+eruをつけて可能動詞とするが、
 なぜ一般化しないのですか?(動詞の態の一つ)
②母音語幹の動詞にも接辞:+(r/s)eruの形態にして可能態として一般化できるはずです。
 (母音語幹動詞には接辞「れる(せる)」を付ければよいのに、「られる」を付加するという間違いを続けている)
・「れる」ならば、双対環方式と同形態になるのに、、、
・例:開ける→開けれる:開け・(r)eru/食べる→食べれる:食べ・(r)eru/起きる→起きれる:起き・(r)eru
③可能態の意味と受動態可能の意味では大きな差があり、違いを峻別すべきなのに、許容してしまうとは!
・書ける/書かれるの違いを感得できない?/・読める/読まれる の違い/・食べれる/食べられる の違い
・起きれる/起きられる の違い
 (夜「起きれますように」、翌朝「起きられたぁ」と言う)
・「受動態の可能表現」が、行動した結果の表現ですから、行動する前の「可能態」とは基本的に峻別すべきで、それぞれ異なる動詞態表現です。
○寺村秀夫本でも、受動態と同じく可能態も文法の態の一つととらえるべきものだろうと記したが、3つの間違いを踏襲する範囲から抜け出していない。
・そもそも、子音語幹の動詞だけが「可能動詞」になれて、母音語幹の動詞は受動態で可能を表す。という発想自身が非文法的なことです。

(3)「態の双対環」可能態接辞:+(r/s)eru

 「態の双対環」方式では、可能態を(法則として)明示します。
・子音語幹、母音語幹を問わずにすべての動詞を可能態にできます。
・例:能動:書k・u/可能:書k・eru/結果:書k・aru/受動:書k・ar・eru (子音語幹には(r/s)不要)
・能動:食べ・ru/可能:食べ・reru/結果:食べ・raru/受動:食べ・rar・eru (母音語幹には(r/s)が必要)
○可能態接辞:+(r/s)eru を設定して子音・母音語幹に接続すれば、可能態を生成できます。
・例:立つ→立てる(可能態のほか、自動詞→他動詞転換された能動の意味もあり)では、もう一度可能態接辞を付加して、
 他動詞能動:立てる/可能:立て(r)eru:立てれる と2回目で他動詞・可能態を作り出せます。
○このように、「態の双対環」方式では、すべての動詞が同一の態接辞で文法的な「可能態」を持てることを示しました。(小さな文法で、幅広く活用できるわけです)

(4)可能態の意味

 すべての動詞が「可能態」になれます。
・基本的な意味は「その動詞の動作ができる」、「できる状態にある、その能力がある」です。
・動詞語幹(子音・母音とも)+可能態接辞:(r/s)eru による可能態、(読める、食べれる、生きれる)
 自他変換動詞(動詞語幹+可能態接辞)語幹+可能態接辞:(r/s)eru による可能態、(開けれる)
 共に可能態として機能します。
・単独の可能態の意味はすべて上記の基本意味で解釈できるでしょう。

○「態の双対環」方式で可能態に注目した理由は、もう一つ別にあります。
・「受動態」は、「結果態+可能態」の直接合成だと思考したので、「結果態」との組み合せでの意味をも考察する必要があります。(結果態を次回解説してから、可能態の合成時の意味を考察しましょう)
・「結果態」=文語体受動態と同じ形態ですから、文法的「態」としては「受動態」の意味合いが含まれますが、まず語彙的「態」としては、「動作の結果に到達した状態を表す」ものですから、「結果態」と名付けました。
・「学校文法」や文法書のなかで見かけないもので、独創的な概念・命名なのでしょうか。これは残念なことです。

 次回、結果態を解説します。

2014/02/10

日本語動詞:文法的「態」と語彙的「態」

2014/02/10(月)

 寺村秀夫本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の第3章:態:受動態・可能態の節を読んで、思考実験:「態の双対環」を使う練習をしてきました。
前回で練習シリーズを終えるつもりでしたが、7回シリーズを読み返しても疑問が晴れません。
○なぜ「日本語の動詞文法」が「動詞態の形態」をきちんとした図表化で表現しないのか?
(通常、国語辞典の助動詞活用表の筆頭に「受動態」、「使役態」を掲げているが、他の助動詞接辞と扱い方は同じです)
○古来より自動詞/他動詞の対応研究が地道に続けられてきたにもかかわらず、さらに、語彙的「態」の形態・意味が文法的「態」にも浸透しているにもかかわらず、その実態を見抜けないのはなぜか?
(「態」と言えば、受動態、使役態しか記述しない伝統が文法の立ち遅れを招いているのだろう)
○もし見抜けているのなら、なぜ図表化しないのか? 最初の疑問にもどってしまう。

 この疑問の循環から抜け出すために思考実験したものが、「態の双対環」図表です。
(図表参照)
Photo

○図1(金谷本より)、図2(寺村本より)佐久間鼎の自動詞他動詞対応図です。
○図3「態の双対環」思考実験図です。
・古来よりの研究成果:自・他動詞の語彙的「態」を現代の文法的「態」に活かす方法を考えたものです。
・文語体の受動態:-aruは、「結果態」として明示します。
・文語体の使役態:-asuは、「強制態」として明示します。
・可能態:-eruは、-eruの形態で明示します。
・「態の双対環」の文法的「態」の図表では、「能動態」:-(r/s)uと上記の「可能態/結果態/強制態」が重要な態の接辞です。

○一方、文法家の解析では、
・可能態:-e(ru) -え・だけ?
 (下一段活用の可能態:-e(ru)の接辞語幹は-eしか残らないからという理由です)
・受動態:-ar・e(ru)→-are(ru)
・使役態:-as・e(ru)→-ase(ru)
 と考えるようです。
・学校文法ではなぜか、受動態と使役態しか考慮していませんから、これで「態の文法」が終ってしまいます。

○この「態の文法則」では、態の深階層(語彙的「態」)から導かれる機能・意味がほとんど引き継がれませんし、「ら抜き、さ入れ」、「飲まされる/飲ませられる」などの簡単な問題にも応えられません。
○一日も早くこの状態から抜け出せるとよいのですが・・・
 「態の双対環」方式になじんでいただきたいなぁ。
・なぜかと言えば、「小さい文法」で「大きい学習効果」を生み出せます。
ひとつの動詞:「休む」から態の学習と親類動詞の意味まで含めてすべて理解できるのです。
 能動:休む/可能・(他):休める/結果:休まる/受動:休まれる
 強制:休ます/可能(使役):休ませる/結果:休まさる/受動:休まされる
 二重強制:休まさす/可能(二重使役):休まさせる/結果:休まささる/受動:休まさされる
また、可能態は
 動詞・能動:開く(自動詞)/可能:開ける(他動詞)となりますが、もう一度、可能態を上乗せすれば、
 二重可能態:開けれる(可能動作を表す)となり、可能態接辞の威力がわかります。
これを「ら抜き言葉」と言ってしまっては「小さい文法」の効果が削がれてしまいます。
・この例文だけで、「ら抜き、さ入れ」、「飲まされる」に対する説明ができるので、まさに「小さい文法」と言えるでしょう。

○「態の双対環」には、能動態←・→受動態の対立ペア対と、結果態(動作の結果)←・→可能態(動作の開始)の対立ペア対で構成しました。後者のペア対になじみがないと思いますが、
・受動態=結果態+可能態の合成ですから、本来必要不可欠のものです。
・受動態は、受動態接辞がついた動詞のすべてを含みます。「可能態」には受動態接辞を流用しないのです。
・受動態は、自分の行なう行為、他人の行なう行為の「動作の結果状態:達成、未達成」を認識して、どう「反応することが可能」か という意味です。

 受動態受身表現:動作の結果が生起する事態で身に何らかの影響を受けること。(自他動詞を問わない)
 受動態可能表現:動作の結果が出た段階で異常なく無事に達成できる、くり返しおこなっても問題ありません、
という規範・世間常識として「可能判断する」の意味です。(可能態の可能は動作開始・能力のことです)
 受動態自発・尊敬表現:動作の結果が見えています、感じています。という意味ですね。

追記:2014/02/28(金)
○強制受動態と使役受動態の違い
・以前ネット上で見つけたサイトで、「泣かされる:強制受動態」と「泣かせられる:使役受動態」との意味合いの違いを引用したことがありました。
・このサイト氏の感性にたいへん納得させられました。
 ・「泣かされる」:泣かす人間の憎らしい顔が目に浮ぶ。
 ・「泣かせられる」:可哀想な泣く人の姿が目に浮ぶ。 という差を感じているとのこと。

○「強制態の双対環」では、強制受動態:「泣k・as・ar・eru:泣かされる」を本来のものとします。
・使役受動態:「使役+受動:泣kase+(r/s)areru」ですから、
 ・泣kase(r)areru:泣かせられる と
 ・泣kase(s)areru:泣かせされる の 2通りの生成があるはずです。
・後者:泣かせ(強制の含意あり)+される(s:強制の含意あり)の生成が本来的な意味での合成でしょう。
 「泣か(せ)される:使役受動態」は、「泣かされる:強制受動態」と同義です。
***
・前者:泣かせ(強制の含意あり)+られる(r:能動の含意あり)の生成は、「他動性+やり抜く能動性」変換を含んだものです。
(強制性の意味が強く、後続の能動性の意味が不明確になり、ぎくしゃくした表現です)
○試しに使役受動態の否定形:「泣か・せ・られ・ない」では違和感が少ないようです。
・これは「られない」部分が全体を打ち消す意味の能動性を発揮しているからでしょう。
・強制受動態の否定形:「泣・か・され・ない」が想起させる登場人物としては被強制者なのでしょうね。
***

○日本語の伝承文法の底辺にある「(r/s)接辞の使い方」を再確認しておきましょう。
・通常の場合、(r/s)の切り替りは、能動系統から強制系統への変り目で行います。(語彙的「態」)
 ・泣く:能動態→泣かす:強制態(これで語幹はS付き)
 ・寝る:能動態→◎寝さす:◎寝かす:×寝らす:強制態(眠る状態で被強制者が寝る能動意識を保てないと想定するから、R付き不採用。また赤ん坊など能動意図がはっきりしない場合、×寝さす、◎寝かすを採用する)
 ・蒸す:自他能動態→◎蒸らす:×蒸さす:強制態(◎蒸らす:他動詞明確化。×蒸さす:人への強制ケースは少ない)
***
・語彙的「態」の階層で(r/s)接辞を自・他動詞の対応で使い分けるのが伝承文法にかなうわけです。
・日本語文法としては、文法的「態」での能動態/強制態の対応に「(r/s)接辞の使い分け」が如何に関わるのかを解明したいですね。
***

2014/02/04

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-7

2014/02/04(火)

(1)動詞態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」の連係を解明する(つづき)

 寺村本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の第3章:態:受動態・可能態の節にある解説、例文を題材にして「態の双対環」を使う練習をしてみよう。
 前回の内容骨子は、
○態接辞冒頭にある「+(r/s)」の用法と意味を思考実験しました。
・動詞語幹が母音終り(上、下一段活用動詞)の場合に、母音連続を避けるため、+(r)か+(s)か選択して接辞します。
・動詞語幹が子音終り(五段活用動詞)の場合には、(r/s)を使いません。
○+(r/s)の意味、選択判断は
・(r):能動性を表す接辞です。
 たとえ、強制的な場合でも相手の能動意図を勘案した表現です。
・(s):相手に動作を強制する接辞です。
 相手の能動意図を越えた強制力を想定した表現です。
・どちらも相手が無情物なら他動詞となるわけです。
以上が前回の概要です。

(2)関西語の+(r/s)接辞

 <典Bのホームページ>にある関西語文法を読んでの知識しかありませんが、いままでの考察を少し広げてみます。
○関西語では「強制態」を態の機能として意識した使い方が定着しているようです。
・当然、+(r/s)冒頭接辞もきっちりしています。

○ところで、尊敬態の接辞・動詞(~なはる/~はる)には関西語の独自性がでています。
(誕生の経緯を推測する)
・動詞:「成る:na・(ru)/為す:na・(su)」の自・他双対の動詞と見るか、
 「成る:n・(aru)結果態/為す:n・(asu)強制態」という双対と見るか、
これ自体も語彙的「態」の領域で深く関わる課題かもしれない。
○「態の双対環」方式で操作すると
・能:「為す」/可:なせる/結:「なさる」/受:なされる と双対環ができます。
 あるとき、結果態は文語受動態なので、尊敬態の意味で「なさる:+(nasaru)」を汎用的に活用できないかと(先人が)考えた。
・東京圏では、
 立ちなさる/食べなさる/歩きなさる/信じなさる(連用形つながり)で動詞形で使われた。
・「~なさい」用法も多いから、動詞形だとしても年少者にとっては尊敬態では使いにくいものでした。

・関西圏では、強制態の使い方に感度が高いですから、尊敬態に「な(さ)る」の(さ音)が邪魔になります。
 尊敬態接辞で使うなら:「+(n)as・aru」という形態になりますが、これでは、子音語幹の動詞では、「立たさる/歩かさる」(強制結果態)と同形態になり「強制色」が飛び出してきます。
 そこで「な(は)る:+((n)a)haru」と(さ音→は音)に変換するという関西語の伝統を生かしたのですね。
・立たはる・立ち(な)はる/食べ(な)はる/歩かはる・歩き(な)はる/信じ(な)はる という表現ならば尊敬態接辞としても、連結動詞としても便利に使えるようになったわけですね。

○推測実験のついでに、「為す」の類推から、
・動詞「成る」=「語彙的態と見なして結果態接辞:+(n)aru」が尊敬態に変身可能か?と試してみた。
 立たる・立ちなる?/食べなる?/歩かる・歩きなる?/信じなる?
・やはり中途半端ですね。 
・動詞「ならる」=「結果態接辞:+(n)araru」が尊敬態になれるか?試してみよう。
 立たらる・立ちならる/食べならる/歩からる・歩きならる/信じならる
・「お立ちにならる」のような動詞形ならつながるが、尊敬表現力があるとは言えない。

○思考実験して再確認できるは、
・「な(ら)る」の(r):自動詞(動作主自身が動作する)の意味合いを持つ。
・「な(さ)る」の(s):他動詞(動作主が他を動かす)の意味合いを持つ。
・「な(は)る」の(h):五十音表で見ても、まさに「サ行」と「ラ行」の中間が「ハ行」だから!?自・他動詞のどちらとも相性がよいのかもしれない。
(実際、「ハ音」選択の幅は、なかる・なたる・ななる・なはる・なまる・なやる・なわるの中に限定されるわけですから、「なはる」が一番据わりがいいですね)
○関西語の底力ですね。
・語彙的にも文法的(構文的)にも日本語の「態」が相互に関連していることを学習する上でも「態の双対環」方式が役立つように思います。

(3)態の全体構成を習熟するには

 日本語は、いわゆる関係代名詞節を使わずに、連体修飾節などで複文化(原因結果など主文・従属文を連結して一文化)します。
○関係代名詞節の方式では、主文と副文の動詞態は相互依存せずに勝手に選択できます。
・「コウモリ」が勝手に主文に飛んでいき動作を報告し、また、勝手に副文に飛んでいき動作を報告する。それをつなげて複文構成にします。
(勝手命名:「コウモリ文」ですね)
○連体修飾節で複文化する日本語では、「コウモリ方式」の動作報告で従属文を作りません。
・因果関係などを説明する従属文は、主文と同じ立場・視点で見た動詞態で動作報告することが求められます。
・観察者が見る主文が基点となりますから、修飾節文(従属文)の動作も主文側視点からの「態表現」にします。(虫の目視点ですね)
・主文/従属文の相互動作が密なほど、主文基点で動作報告することが必要です。
○「態の双対環」方式で態の全体構成を確実に習熟できるようになるといいですね。

2014/02/02

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-6

2014/02/02(日)

(1)動詞態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」の連係を解明する(つづき)

 寺村本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の第3章:態:受動態・可能態の節にある解説、例文を題材にして「態の双対環」を使う練習をしてみよう。

 前回の内容骨子は、
○思考実験している「態の双対環」方式が解析した動詞態の各接辞について一覧表形式で「意味づけ」を示しました。(一覧表を再掲します)
Photo_3
以上が前回の概要です。

 一覧表を見ながら、復習してみましょう。
○実際に思い浮んだ動詞を調べてみてください。
・動詞語幹は? 子音語幹ですか? 母音語幹ですか?
・態の接辞が付加されていますか? 何態ですか?
・実際にその動詞で「態の双対環」を作成してみてください。

(2)各接辞冒頭にある「+(r/s)」の用法

 一覧表にある各態接辞の冒頭に、+(r/s)がつけてあります。
この表現を学んだのは金谷武洋本によります。
○動詞語幹が子音終り(五段活用動詞)の場合には、(r/s)を無視して+ar・eru(例:受動態接辞)を接辞します。
○動詞語幹が母音終り(上、下一段活用動詞)の場合に、母音連続を避けるため、+r・ar・eruか、+s・ar・eruか選択して接辞されます。(例:受動態接辞)

(3)(r/s)の意味は重要です

○「態の双対環」方式で動詞態を観察してきて、得心できたことです。
・子音語幹の動詞では(r/s)が現れません。
・母音語幹の動詞で、母音連続を避けるため、(r)か(s)を接辞先頭に挿入します。
○(r)を選ぶか、(s)を選ぶかの判断は:
・(r):能動性を表す接辞です。
 たとえ、強制的な場合でも相手の能動意図を勘案した表現です。
・(s):相手に動作を強制する接辞です。
 相手の能動意図を越えた強制力を想定した表現です。
・どちらも相手が無情物なら他動詞となるわけです。

○(r/s)選択に迷う場面で、先人の智恵を(2例)見つけました。
①蒸す(自動詞、他動詞両用あり)
・mus・u/mus・ar・eru(蒸す:能動系)
・mus・asu/mus・as・ar・eru(蒸さす:強制系)
・mu・r・asu/mu・r・as・ar・eru(蒸らす:強制系→他動詞化)
○子音語幹ですから、「蒸さす」が順当な強制系なのだが、子音語幹の(s)を強引に(r)に取り替えた新語「蒸らす」を作ってまでも(r)を挿入した理由はなんでしょうか。
・「蒸さす」=相手を強制して蒸す動作をさせること。あまり言わず。
・「蒸らす」=自分で蒸す動作をすること。(物に対する強制=他動詞)
②寝る/寝さす/寝かす(語幹不明)
・寝さす=相手が寝れるように仕向ける、寝る許可をすること。
(相手の能動意図は考慮されていない)
(話者が「寝さしてくれ」と頼むこともあり)
・×寝らす=言わず。催眠術士が言う「眠むらす」とは違います。
(幼児・大人でも寝る過程での能動意図があると勘案し得ないからですね)
・寝かす=相手(幼児)が寝れるように抱き上げる、添寝するなど自分の行動もする。
・×:ne(r)・asu/ne(s)・asu/ne(k)・asu
 「寝らす」を取らず「寝かす」を新語生成した先人の智恵に感心します。
○(r/s)が醸し出す「能動動詞」と「強制動詞:他人を強制動作させる」の意味合いの差を敏感に感じて峻別してきた歴史があるんですね。
○「態の双対環」方式でも、能動系と強制系の差を実感できる仕掛けになっています。
・能動系の態双対環と強制系の態双対環は相似形ですが、相互の接続・分岐はありません。
(必要に応じて、「態付き動詞」を他の双対環へ移動させることで操作として連接できます)

 次回の1回分つづきます。

2014/02/01

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-5

2014/02/01(土)

(1)寺村本の例文を題材にして:(受動態・可能態)つづき

 寺村本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の第3章:態:受動態・可能態の節にある解説、例文を題材にして「態の双対環」を使う練習をしてみよう。

 前回の内容骨子は、
○ 寺村本:動詞態の考察には、
・文法的「態」と語彙的「態」の両面からの解析が必要という提言があります。しかし、本文中には両者の関係を示す解析が見つかりません。
○「態の双対環」方式では、
・受動態接辞:語根+「結果態(r/s)aru」と「可能態:eru」との合成によるものと解釈した。
・また、強制態接辞:語根+「・(r/s)asu」が先に生れ、
 使役態接辞:語根+「強制態(r/s)asu」と「可能態:eru)」との合成で派生したものと解釈した。
以上が前回の概要です。

(2)態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」を解明する

 日本語の動詞は、その語幹に助動詞接辞を付加して受動態、強制態などを作りだします。
また、動詞語幹にある種の接辞を付加して自動詞/他動詞への相互変換を行っています。
例えば、自動詞:休む の場合
・能動:休む/可能・他動:休める/結果:休まる/受動:休まれる
・強制:休ます/使役:休ませる/強制結果:休まさる/強制受動:休まされる
というように語彙的「態」と文法的「態」が混然となっています。

○「態の双対環」方式では、
①受動態接辞が「aru:結果接辞」と「eru:可能接辞」の合成によるものと見定めた。
②使役態接辞が「asu:強制接辞」と「eru:可能接辞」の合成によるものと考察した。
③可能接辞:「eru」は、可能動詞を派生させる接辞として定着していた。(書ける/読める/立てる)
④結果接辞:「aru」、は、文語体での受動接辞であり、強制接辞:「asu」は文語体での使役接辞です。
⑤こうしてみると、どの接辞も由緒正しい「態の意味合い」を持っているわけですね。

(3)「態の接辞の意味」一覧表

 「態の双対環」方式では、各接辞の文法的「態」と語彙的「態」の意味づけを次のような一覧表で表します。
(図表参照)
Photo_3

○一覧表でわかるとおり、どの態接辞も文法的、語彙的の「態機能や意味」を2つ以上持っています。
①~③接辞は語彙生成の段階で基本機能を左右するものです。④、⑤はそれらの合成で文法的「態」を形成します。
○試しに動詞をひとつ、能動態双対環に書き入れて態の双対環を完成させてみてください。
○一覧表の態接辞の意味と見比べながら、各態を書き上げると新鮮な感覚になりませんか。

 次回は態接辞の挿入子音(r/s)の意味についてを予定します。

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