日本語動詞:文法的「態」と語彙的「態」
2014/02/10(月)
寺村秀夫本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の第3章:態:受動態・可能態の節を読んで、思考実験:「態の双対環」を使う練習をしてきました。
前回で練習シリーズを終えるつもりでしたが、7回シリーズを読み返しても疑問が晴れません。
○なぜ「日本語の動詞文法」が「動詞態の形態」をきちんとした図表化で表現しないのか?
(通常、国語辞典の助動詞活用表の筆頭に「受動態」、「使役態」を掲げているが、他の助動詞接辞と扱い方は同じです)
○古来より自動詞/他動詞の対応研究が地道に続けられてきたにもかかわらず、さらに、語彙的「態」の形態・意味が文法的「態」にも浸透しているにもかかわらず、その実態を見抜けないのはなぜか?
(「態」と言えば、受動態、使役態しか記述しない伝統が文法の立ち遅れを招いているのだろう)
○もし見抜けているのなら、なぜ図表化しないのか? 最初の疑問にもどってしまう。
この疑問の循環から抜け出すために思考実験したものが、「態の双対環」図表です。
(図表参照)
○図1(金谷本より)、図2(寺村本より)佐久間鼎の自動詞他動詞対応図です。
○図3「態の双対環」思考実験図です。
・古来よりの研究成果:自・他動詞の語彙的「態」を現代の文法的「態」に活かす方法を考えたものです。
・文語体の受動態:-aruは、「結果態」として明示します。
・文語体の使役態:-asuは、「強制態」として明示します。
・可能態:-eruは、-eruの形態で明示します。
・「態の双対環」の文法的「態」の図表では、「能動態」:-(r/s)uと上記の「可能態/結果態/強制態」が重要な態の接辞です。
○一方、文法家の解析では、
・可能態:-e(ru) -え・だけ?
(下一段活用の可能態:-e(ru)の接辞語幹は-eしか残らないからという理由です)
・受動態:-ar・e(ru)→-are(ru)
・使役態:-as・e(ru)→-ase(ru)
と考えるようです。
・学校文法ではなぜか、受動態と使役態しか考慮していませんから、これで「態の文法」が終ってしまいます。
○この「態の文法則」では、態の深階層(語彙的「態」)から導かれる機能・意味がほとんど引き継がれませんし、「ら抜き、さ入れ」、「飲まされる/飲ませられる」などの簡単な問題にも応えられません。
○一日も早くこの状態から抜け出せるとよいのですが・・・
「態の双対環」方式になじんでいただきたいなぁ。
・なぜかと言えば、「小さい文法」で「大きい学習効果」を生み出せます。
ひとつの動詞:「休む」から態の学習と親類動詞の意味まで含めてすべて理解できるのです。
能動:休む/可能・(他):休める/結果:休まる/受動:休まれる
強制:休ます/可能(使役):休ませる/結果:休まさる/受動:休まされる
二重強制:休まさす/可能(二重使役):休まさせる/結果:休まささる/受動:休まさされる
また、可能態は
動詞・能動:開く(自動詞)/可能:開ける(他動詞)となりますが、もう一度、可能態を上乗せすれば、
二重可能態:開けれる(可能動作を表す)となり、可能態接辞の威力がわかります。
これを「ら抜き言葉」と言ってしまっては「小さい文法」の効果が削がれてしまいます。
・この例文だけで、「ら抜き、さ入れ」、「飲まされる」に対する説明ができるので、まさに「小さい文法」と言えるでしょう。
○「態の双対環」には、能動態←・→受動態の対立ペア対と、結果態(動作の結果)←・→可能態(動作の開始)の対立ペア対で構成しました。後者のペア対になじみがないと思いますが、
・受動態=結果態+可能態の合成ですから、本来必要不可欠のものです。
・受動態は、受動態接辞がついた動詞のすべてを含みます。「可能態」には受動態接辞を流用しないのです。
・受動態は、自分の行なう行為、他人の行なう行為の「動作の結果状態:達成、未達成」を認識して、どう「反応することが可能」か という意味です。
受動態受身表現:動作の結果が生起する事態で身に何らかの影響を受けること。(自他動詞を問わない)
受動態可能表現:動作の結果が出た段階で異常なく無事に達成できる、くり返しおこなっても問題ありません、
という規範・世間常識として「可能判断する」の意味です。(可能態の可能は動作開始・能力のことです)
受動態自発・尊敬表現:動作の結果が見えています、感じています。という意味ですね。
追記:2014/02/28(金)
○強制受動態と使役受動態の違い
・以前ネット上で見つけたサイトで、「泣かされる:強制受動態」と「泣かせられる:使役受動態」との意味合いの違いを引用したことがありました。
・このサイト氏の感性にたいへん納得させられました。
・「泣かされる」:泣かす人間の憎らしい顔が目に浮ぶ。
・「泣かせられる」:可哀想な泣く人の姿が目に浮ぶ。 という差を感じているとのこと。
○「強制態の双対環」では、強制受動態:「泣k・as・ar・eru:泣かされる」を本来のものとします。
・使役受動態:「使役+受動:泣kase+(r/s)areru」ですから、
・泣kase(r)areru:泣かせられる と
・泣kase(s)areru:泣かせされる の 2通りの生成があるはずです。
・後者:泣かせ(強制の含意あり)+される(s:強制の含意あり)の生成が本来的な意味での合成でしょう。
「泣か(せ)される:使役受動態」は、「泣かされる:強制受動態」と同義です。
***
・前者:泣かせ(強制の含意あり)+られる(r:能動の含意あり)の生成は、「他動性+やり抜く能動性」変換を含んだものです。
(強制性の意味が強く、後続の能動性の意味が不明確になり、ぎくしゃくした表現です)
○試しに使役受動態の否定形:「泣か・せ・られ・ない」では違和感が少ないようです。
・これは「られない」部分が全体を打ち消す意味の能動性を発揮しているからでしょう。
・強制受動態の否定形:「泣・か・され・ない」が想起させる登場人物としては被強制者なのでしょうね。
***
○日本語の伝承文法の底辺にある「(r/s)接辞の使い方」を再確認しておきましょう。
・通常の場合、(r/s)の切り替りは、能動系統から強制系統への変り目で行います。(語彙的「態」)
・泣く:能動態→泣かす:強制態(これで語幹はS付き)
・寝る:能動態→◎寝さす:◎寝かす:×寝らす:強制態(眠る状態で被強制者が寝る能動意識を保てないと想定するから、R付き不採用。また赤ん坊など能動意図がはっきりしない場合、×寝さす、◎寝かすを採用する)
・蒸す:自他能動態→◎蒸らす:×蒸さす:強制態(◎蒸らす:他動詞明確化。×蒸さす:人への強制ケースは少ない)
***
・語彙的「態」の階層で(r/s)接辞を自・他動詞の対応で使い分けるのが伝承文法にかなうわけです。
・日本語文法としては、文法的「態」での能動態/強制態の対応に「(r/s)接辞の使い分け」が如何に関わるのかを解明したいですね。
***
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