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2014/02/24

日本語動詞:「態の双対環」で蘇る伝承文法4

2014/02/24(月)

(1)「学校文法」が失ったもの

 「学校文法」で失ってしまったものを「態の双対環」で取り戻せたらなあと思いめぐらしています。
「学校文法」で受動態、使役態しか習っていない世代が「態の双対環」方式になじむのに時間がかかりますね。
 そこで、今回のシリーズでは、可能態、結果態、強制態に焦点をあてて、「学校文法」の落し物を拾い直してみたい。

(2)「強制態」の怪

 中学参考教材、国語辞典には使役の助動詞として、「子音語幹接辞:せる/母音語幹:させる」が記述されている。
○寺村本では、導入で「使役態」を態全体の右端におき、左端から受動態、可能態、自発態、自動詞、他動詞と並び、最後が使役態だという順序を述べている。
○「態の双対環」方式ならば、
・能動系統とは別に、相似の「双対環」を想定する。
(動詞態が受動態から自・他動詞、使役態へと連続線とはならないし、特段の学習実利もない)

○寺村本では、使役態接辞:ase(ru)の-e-が落ちて省略され、接辞:asu が生れて、関西語など方言として
・行かす/飲ます/食べさす/さす/来さす になったと、旧来説を記述している。
○強制態が先か、使役態が先かを議論するつもりはないが、今の文法解釈で弱点があります。
・接辞:+eru(可能態)の動詞活用では語幹として残るのが、+e(ru)(-e-)だけです。しかも、この-e-が落ちて省略されて、+asuが残ったというが、もともと文語体の使役接辞であったもの。あまりにも手抜かりな・・・
・受動態の場合、+are(ru)の形態で辛うじて(+areで)残ったが、(+ar・e)とは見られなかった。
・接辞:eru/aru/asuの3つは重要な動詞語彙の生成要素だが、下一段活用となる(eru)だけが、(e)しか残らない。なんとか文法ですくいあげてやらなければ浮ばれないだろう。
○「態の双対環」方式では、使役態は「強制+可能」の合成態と想定する。
・能動系と相似の「双対環」で、接辞もすべて強制+結果、強制+結果+可能のように合成態となる。

(3)「態の双対環」強制態接辞:+(r/s)asu

 「態の双対環」方式では、強制態を(法則として)明示します。
・子音語幹、母音語幹を問わずにすべての動詞を強制態にできます。
・「強制態の双対環」(模式表記)  ・念のため「二重強制態の双対環」も記述する。

・    強制態(r/s)asu              二重強制態(r/s)as・asu
・   ↙     ↘               二重↙    二重↘ 
・強制結果態 強制可能態(使役態)   強制結果態  強制可能態 
・(r/s)as・aru (r/s)as・eru        (r/s)as・as・aru (r/s)as・as・eru
・   ↘     ↙                  ↘      ↙ 
・    強制受動態                二重強制受動態 
・   (r/s)as・ar・eru               (r/s)as・as・ar・eru

という、「強制態の双対環」、「二重強制態の双対環」を想定する。

・例:「強制態の双対環」
・強制:休m・asu/使役:休m・as・eru/強結:休m・as・aru/強受:休m・as・ar・eru
・強制:調べ・(s)asu/使役:調べ・(s)as・eru/強結:調べ・(s)as・aru
/強受:調べ・(s)as・ar・eru
・強制:飲m・asu/使役:飲m・as・eru/強結:飲m・as・aru/強受:飲m・as・ar・eru

・例:「二重強制態の双対環」
・二重強制:休m・as・asu/二重使役:休m・as・as・eru/二重強結:休m・as・as・aru
/二重強受:休m・as・as・ar・eru

(4)強制態の意味

 強制態(接辞:+(r/s)asu)は動作を相手にやらせるという行為を意味します。
・相手が「物・無情物」の場合、他動詞となります。(乾く→乾かす)
・相手が「人・有情物」で動作をやらせる場合、「強制」の動詞になります。(読む→読ます)
・「強制系統の双対環」方式の各態の意味は、「強制状態」の意味が加わりますが、可能・結果・受動の基本的意味に同じです。
○意味を理解するうえで、着眼すべきことは、文に登場する人物の数が増えるということです。
・相手に動作をやらせると、最低でも(一段階の強制)二人です。
・仲介を立てる構成で、三人になったら(二段階の強制)「二重強制態」でなければ正確な表現ができません。
・少なくとも「二重強制態」まではしっかり「学校文法」に組み入れてほしい。
○寺村本の「使役態」では多くの論文を併記してありますが、核心がありません。
○「教師に保護者が子を休m・as・as・eてください」と連絡するのは、登場人物・三人で「二重強制態」の正しい使い方です。
・「休・(ま・さ)せ・てください」の(ま・さ)が二重強制の表現です。
○こういう話し方ができる人がいて、伝承文法がまだまだ根強いし威力があるということですね。

 ただし、間違って二重強制態を使う人もいますから、要注意ですね。
○たとえば、式典で来賓挨拶を代読する場合、「~、読(ま・さ)せていただきます」も二重強制の表現ですから、辛うじてOKでしょう。(何段階かの下請け、孫受けで代読者が決まったのかもしれません)
・ただ、来賓側近者が代読するなら、「読・ませていただきます」の一段強制で十分に通じます。
・自分の意見、挨拶を表明するために、「読(ま・さ)せていただきます」と二重強制で表現するのが、世に嫌われる「さ入れ言葉」というわけです。この二重強制態の表現を文字どおりに解釈すると、「自分が読むのではなく、自分が誰か(聞手?)に「読ませる」動作を強制するぞ」と言っているわけです。
・自分の意志で読むならば「自分をして「読ます:読m・asu」と、自分に強制する」という言葉で、「読ませてください」と表現するはずです。

追記:2014/02/28(金)
○強制受動態と使役受動態の違い
・以前ネット上で見つけたサイトで、「泣かされる:強制受動態」と「泣かせられる:使役受動態」との意味合いの違いを引用したことがありました。
・このサイト氏の感性にたいへん納得させられました。
 ・「泣かされる」:泣かす人間の憎らしい顔が目に浮ぶ。
 ・「泣かせられる」:可哀想な泣く人の姿が目に浮ぶ。 という差を感じているとのこと。
○「強制態の双対環」では、強制受動態:「泣k・as・ar・eru:泣かされる」を本来のものとします。
・使役受動態:「使役+受動:泣kase+(r/s)areru」ですから、
 ・泣kase(r)areru:泣かせられる と
 ・泣kase(s)areru:泣かせされる の 2通りの生成があるはずです。
・後者:泣かせ(強制の含意あり)+される(s:強制の含意あり)の生成が本来的な意味での合成でしょう。
 「泣か(せ)される:使役受動態」は、「泣かされる:強制受動態」と同義です。
・前者:泣かせ(強制の含意あり)+られる(r:能動の含意あり)の生成は、「強制性+やり抜く能動性」変換を含んだものです。(強制性の意味が強く、後続の能動性の意味が不明確になり、ぎくしゃくした表現です)
 強制性と能動性を一語に濃縮したような表現です。
○試しに使役受動態の否定形:「泣か・せ・られ・ない」では違和感が少ないようです。
・これは「られない」部分が全体を打ち消す意味の能動性を発揮しているからでしょう。
・強制受動態の否定形:「泣・か・され・ない」が想起させる登場人物としては被強制者なのでしょうね。

○日本語の伝承文法の底辺にある「(r/s)接辞の使い方」を再確認しておきましょう。
・通常の場合、(r/s)の切り替りは、能動系統から強制系統への変り目で行います。(語彙的「態」)
 ・泣く:能動態→泣かす:強制態(これで語幹はS付き。語彙的「態」変換)
 ・寝る:能動態→◎寝さす:◎寝かす:×寝らす:強制態(眠る状態で被強制者が寝る能動意識を保てないと想定するから、R付き不採用。また赤ん坊など能動意図がはっきりしない場合、×寝さす、◎寝かすを採用する)
 ・蒸す:自他能動態→◎蒸らす:×蒸さす:強制態(◎蒸らす:他動詞明確化。×蒸さす:人への強制ケースは少ない)
・語彙的「態」の階層で(r/s)接辞を自・他動詞の対応で使い分けるのが伝承文法にかなうわけです。
・日本語文法としては、文法的「態」での能動態/強制態の対応に「(r/s)接辞の使い分け」が如何に関わるのかを解明したいですね。

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