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2014年4月

2014/04/23

日本語文法:名詞述語文と判断措定3

2014/04/20(日)
(4)日本語の基本文型と判断措定

 報告書の中にある留学生の誤用例文のひとつ:
○×姉は二子います。(姉は子供が二人います) がのっている。
○また講演の中で「日本語は省略が多い言語だ」という指摘が複数人から出てきた。
これに関連して思考実験をしてみたい。
 上の誤用例に対して、普通の日本人が話す日本語文型は、
①姉はこどもが二人います。
○~が(は)~が ~述語(動詞/形容詞/名詞+だ)の文型でしょう。
・象は鼻が長い/ぼくは君が好きだ/誰が饅頭が怖いのか?/孫が字が読める/ぼくはウナギが食いたい
・ロウソクは煤が出る/原発の話はウソが多い/この本は結末がすばらしい
・太郎は明日の予定が大阪行きだ/太郎は大阪行きが明日の予定だ/太郎が明日の大阪行きが楽しみだと言っていた

 日本語の文型は「複数の補語」+「述語」の形式:盆栽型です。
補語には格助詞がついて役目を表します。
○象は(全体) 鼻が(部分) 長い(特徴)。
○姉は(前提) こどもが(範囲) 二人います(数値)。
(「二人」:形容詞でなく副詞的とみて述語につけた)
○ぼくは(取立て) ウナギが(限定) 食べたい(希望)。
○原発の話は(主題) ウソが(判断) 多い(数量)。
○太郎は(取立て) 明日の予定が(限定) 大阪行きだ(具体)。
 日本語母語の話者ならばこの基本文型をつかって、「物事、事象をいかに判断しているか」を表現することに慣れている。
補語が2つ、述語が1つの簡潔な盆栽型文体です。
○ペンは字が書ける→ペンで字を書く→字はペンで書く→ペンは絵も描ける

2014/04/23(水)
(5)判断措定:思考の流れ

 文の先頭に関心の「主題・取立て」を置いて、話し手・書き手の主観的な視点で「特定の部分を抜き出し・限定」して「可否・良否の判断」や「推論」を提示する構文形式です。
「限定」部分をどう扱うのかが聞き手の間で分かり合っていれば、最後の述語部分が省略されても理解できる。
○「ぼくはウナギだ」がウナギ屋で通用するのは当然だろう。
(文として通用する)

 日本語での単語の並べ順は、大きい概念を先にして順次、小さな概念をつなげていく。思考の流れもそれに一致している。
・住所の表し方:都道府県・区市・町・丁目・番地。
・日付の表し方:年・月・日・曜日。
・文の表し方:主題・範囲限定・判断叙述。
・形容・修飾の仕方:全体→部分(思考の→流れ、机の→脚、昨日買った→本、交差点の→信号灯の→色)
○留学生の母語文法が「色←の←信号灯←の←交差点」を基本とする場合、留学生自身はどれくらい日本語文法に戸惑うのだろうか?

(6)主語はいらない

 象鼻文やウナギ文がでた後ですから、コンニャク文も登場してもらいましょう。
○「コンニャクは太らない」も省略部分の多い?文ですが、やはり判断措定をしている文章でしょう。
○ドイツ語風に省略なしの表現を考察すると
・「コンニャクは(栄養価のない食べ物だから、あなたがこれを食べても)太ら(されることは)ない」 とか、
・「コンニャクは太らせない」 とかの文になるのだろう。
○主語が途中でコンニャクからあなたに替わってしまったり、コンニャクが主語だと思い込むと、太らせる行為をわざわざ否定する文章にするしかない。
日本語では
・「コンニャクを食べても太らない」と表現することもできるし、会話の場の展開によっては「コンニャクが食べても太らないんですよ」と表現することもあります。
○コンニャクに「が格助詞」や「を格助詞」が付く表現があっても述語部分は変化しません。
・つまり日本語での「コンニャク」はどの場合も構文上の述語に対する主語(動作主)ではないということです。
・「コンニャクは人が食べても太らない(ものだ)」、「コンニャクという食べ物は人が食べても太らない」という言い回しが一番よいのかもしれません。
・行動意思のない無情の「コンニャク」に、動作主の役割や使役態:「太らせない」の表現を使いたくないでしょう。
(主題=主語でない/無情物に使役態を当てたくない:この2つの要請:日本語文法:があって、「コンニャクは太らない」が普通に存在するのだろう)

2014/04/17

日本語文法:名詞述語文と判断措定2

2014/04/09(水)

(1)報告書:第6回NINJALフォーラム「グローバル社会における日本語のコミュニケーション-日本語を学ぶことはなぜ必要か-」

 3月30日、国立国語研究所主催の第7回NINJALフォーラムを聴講参加した際に、前回の第6回フォーラムの正式報告書(製本版)をいただきました。
これもまた、すばらしい内容です。
肝心だと思う部分を抜書きします。(個人的で恣意的な抜書きなので実名不記載とします)

(2)日本語のコミュニケーション

 グローバル社会での日本語のコミュニケーションを考える上で、重要な視点が示唆されている。
開会の挨拶:国立国語研究所長
○米国の言語学者による日常会話(英語)の分析例:
・男のコミュニケーション形態はReportTalk:事実報告が基調で、
・女のコミュニケーション形態はRapportTalk:協調・絆の語りが基調です。
○男女の違いだと割り切るのでなく、話す中身と話す作法に違いがあることを踏まえて、コミュニケーションの作法をわきまえることでギャップを解消できるのではないか。

 講演:立教大学特任教授
○グローバル化で英語が共通語の役割を果す機会が増えているが、同時に多言語化も必要になってくる。
○NHK災害ニュースでは多言語社会での情報伝達をすばやくおこなうための「やさしい日本語」発信を研究している。
○楽天やユニクロがビジネスに英語を強制化したが、日本での外国人社員には「日本語を学ばせる」ほうがはるかに効率的な仕事運営ができることに気づいて来ている。

 講演:国立国語研究所日本語教育研究・情報センター長
○日本語を教えること:戦後の経済成長期、1983年に政府が『留学生十万人計画』をうち出し、各地の大学に日本語教員養成の学科が設置された。
・2003年に「十万人」を突破して、2008年には「留学生三十万人計画」が政府から出された。2011年の統計では「十三万八千人」が日本で学んでいます。(留学生の出身国別では中国、韓国、台湾が多い)
○日本語を学ぶこと:留学生が日本語を学ぶ過程でさまざまな誤用を生み出します。
・文法ルールを自己流に当てはめて「自分の言葉」を話しはじめるわけで、その例を分析すると学習困難点が浮び上がってきます。
・日本語母語の教師も客観的に改めて文法ルールを学び、全体的、段階的軽重が判断できることが必要です。

 講演:国際交流基金日本語国際センター所長
○2050年の日本語:
・日本語は「省略が多い、文脈依存が高い対話型言語」であり、逆に「低文脈:省略が少ない」言語にはドイツ語があります。
・日本語に反映する日本社会の習慣、文化、文明の影響が今後はどう変化していくのか。グローバル時代に「日本語の使い手」として自他のコミュニケーション作法を吟味して向上させていく必要があります。

2014/04/15(火)
(3)日本語を学ぶこと

 日本語を学ぶ経験を持つ2人の著名人の講演:
・中国知日派ジャーナリスト・作家、
・米国出身、方言研究家・タレント、
○日本語学習に大変苦労した昔の経験談を語っています。でも二人とも将来に向けた日本語教育の仕組みに対する希望として、「日本の魅力」が「物」から「事、文化」に変わってきている現状をうまく反映した「学習の枠組み」を挙げている。

2014/04/16(水)
(4)日本語の基本文型と判断措定

 報告書の中にある留学生の誤用例文:
○×姉は二子います。(姉は子供が二人います) がのっている。
○また講演の中で「日本語は省略が多い言語だ」という指摘が複数人から出てきた。
これに関連して思考実験をしてみたい。(以下、次回につづく)

2014/04/02

日本語文法:名詞述語文と判断措定

2014/04/01(火)

(1)第7回NINJALフォーラムに聴講参加

 一昨日3月30日、国立国語研究所主催のフォーラムを聴講参加しました。
フォーラムの主題は「近代の日本語はこうしてできた」です。伝承文法を標榜する当方としては「近代文法の歴史」には興味があるのですが、講演の中心は、日本国家の近代化(明治大正昭和)に合せた日本語標準語化に関する歩み・歴史や技術用語、和語・漢語の消長、国語研究所の語彙コーパス(データベース)応用の研究などでした。

(2)PDF版第5回NINJALフォーラム報告を読んで

 話が飛びます。国語研究所のインターネットホームページでフォーラム参加申込みをしたときに、第5回フォーラム「日本語新発見-世界から見た日本語-」(2012/3/24)が以前にあったことを知りました。
例の「人魚構文」が日本語以外でも東アジアを中心に20か国語にも存在するという研究成果が発表されたフォーラムです。
PDF版報告書がネットからダウンロードできます。中身は立派な内容です。
 だが、角田太作:「人魚構文」の調査項が構文形態だけに注目している印象がいまだに拭いきれていません。
○例文「太郎は明日、大阪へ行く予定だ」→「太郎は明日、大阪へ行く(動詞述語文)」+「予定だ(名詞述語文)」の構文形態を冷静に分析すると、「太郎は予定だ」という構文で、奇妙な文だというのが角田研究の発端です。

(3)人魚構文と名詞述語文

 多くの日本語文法学者は「奇妙な文」とは考えていない。「奇妙な省略をしてしまうからだ」と考えているのだろう。
○角田研究では、「奇妙な文」を救済する方法として、
・「動詞述語文(+名詞:複合述語的)述語文」と見なすこと。
・「太郎は明日、大阪へ(行く予定)です」という複合動詞述語文と見なす(わけです)。
・つまり、従来からある助動詞の形態と同様の解釈を当てはめようとします。
「~する・らしい/・ようだ/・のだ/・そうだ」などの推定・断定、伝聞を表す助動詞接辞と同様の複合述語文と見なそうとする(わけです)。
 多くの日本語文法学者の考え方はどうなのだろうか。
・「(太郎は明日、大阪へ行く)→予定です」という名詞述語文として見なす(わけだろう)。
・(動詞述語文)が「予定です:名詞述語文」を修飾していると見る(わけだろう)。
○「太郎は(そうする/その)予定だ」形態の名詞述語文を正当に名詞文:「AはBだ」形態のうちの一つと見なしている(わけだろう)。
○人魚構文を単純に動詞述語文へ変換すれば、
・「太郎は予定(により)で、明日、大阪へ行く」 と言えるかもしれません。
・叙述するだけでなく、話し手の判断や伝聞を含めた言い方:
 「太郎は明日、大阪へ行く予定だ」 という名詞述語文の構文がたまたま人魚構文になると言えます。
・もともと、名詞述語文には「話し手・書き手が事象の叙述・描写をするだけでなく、自身の判断を上乗せして言い切ることができる」という特徴があります。
(寺村秀夫:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』第2章9節には、複合述語の問題を取り上げている:補語(名詞+格助詞)+述語(形容詞/動詞:用言)が慣用的に密結合した状態のものを指すが、判定はむずかしい。ただし、心細い、名高い、名づける、旅立つ、手間どる、登山するなど名詞と形容詞/動詞が一体化「:編入」して定着したものもある)

(4)名詞述語文と判断措定
2014/04/02(水)

・名詞述語文の代表的な構文:
 「AはBだ」 には、
 「A=B」:指定文、同定文
 「A≦B」、「A≧B」:措定文、倒置措定文
 「A∴B」:端折り文、判断措定文
○AとBの関係づけをする構文で、意味範囲が広いので文法家の解釈でも類別分けが何種類もあるようです。
①「象は鼻だ」:象鼻構文→「象は鼻が長い(形容詞述語文)」
②「ぼくはウナギだ」:ウナギ構文→「ぼくはウナギを注文する(動詞述語文)」
③「太郎は予定だ」:人魚構文→「太郎は明日、大阪へ行く予定だ(名詞述語文)」
④「日本人は習慣だ」:人魚構文→「日本人は正月を祝う習慣だ(名詞述語文)」

 例文①、②は文法書で見かける構文で、「AはBだ」形式になっています。
・金谷武洋が言う盆栽型文型を思い浮べて考察すると、A、Bが補語要素で、盆栽鉢にあたる述語が省略された形式です。(Aは主題要素でもある)
・盆栽鉢が一つですから、頭の中で「補語述語演算」して感覚的に想像、理解ができます。
・一方、③、④は二階建の盆栽型構造です。(熊手型連結構文)
 「太郎は(明日、大阪へ)行く」:一段目の盆栽が
 「予定だ」二段目の盆栽鉢に植わる構造です。
・③、④の「AはBだ」は、
 A=一段目の補語(主題)
 B=二段目の述語 が組み合さったものです。さらに「B」の内容には一段目の叙述に対する書き手、話し手の独自判断・感情を加えることができるものです。
・ですから、熊手連結構文を「AはBだ」という構文に圧縮してしまうことには問題があります。
・いくら日本人が「題補述演算」に慣れているからと言っても相当の無理があります。
・「AはBだ」が「A=B」でない場合、話し手の判断措定:「A∴B」を聞いて相手が共感・理解するには、それなりの「対話のやり取り」が先行している必要があります。
・「予定」、「習慣」の内容は千差万別ですから、説明を必要とする概念です。(説明があればなんの問題もありません:人魚構文で奇妙だと言う必要もなく、熊手型構文として調査対象とすることができます)

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○盆栽型構文の略式表記:補語:→、述語:)で略記。
・「象は→鼻が→長い)」 ・「ぼくは→ウナギを→注文する)」 
○熊手型連結構文の略式表記:補語:→、述語:)、熊手型述語連結:)→ で表記。
・「太郎は→明日→大阪へ→行く)→予定だ)」 ・「日本人は→正月を→祝う)→習慣だ)」 
*********
 なお、名詞述語文(体言締め文)でない構文:
・「太郎は→明日→大阪に→行く)→予定が→ある)」(存在文・動詞述語文)を人魚構文とは呼ばずに、
・「太郎は予定がある」(動詞述語文)ならば、角田報告では峻別して「奇妙の文」に含めていない。

★2016/10/27(木)
追記:2年後の思考実験で考察が進捗しました。
リンクを付けましたので参照してください。名詞述語文で「基本文型を二階建て」に

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