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2014/04/02

日本語文法:名詞述語文と判断措定

2014/04/01(火)

(1)第7回NINJALフォーラムに聴講参加

 一昨日3月30日、国立国語研究所主催のフォーラムを聴講参加しました。
フォーラムの主題は「近代の日本語はこうしてできた」です。伝承文法を標榜する当方としては「近代文法の歴史」には興味があるのですが、講演の中心は、日本国家の近代化(明治大正昭和)に合せた日本語標準語化に関する歩み・歴史や技術用語、和語・漢語の消長、国語研究所の語彙コーパス(データベース)応用の研究などでした。

(2)PDF版第5回NINJALフォーラム報告を読んで

 話が飛びます。国語研究所のインターネットホームページでフォーラム参加申込みをしたときに、第5回フォーラム「日本語新発見-世界から見た日本語-」(2012/3/24)が以前にあったことを知りました。
例の「人魚構文」が日本語以外でも東アジアを中心に20か国語にも存在するという研究成果が発表されたフォーラムです。
PDF版報告書がネットからダウンロードできます。中身は立派な内容です。
 だが、角田太作:「人魚構文」の調査項が構文形態だけに注目している印象がいまだに拭いきれていません。
○例文「太郎は明日、大阪へ行く予定だ」→「太郎は明日、大阪へ行く(動詞述語文)」+「予定だ(名詞述語文)」の構文形態を冷静に分析すると、「太郎は予定だ」という構文で、奇妙な文だというのが角田研究の発端です。

(3)人魚構文と名詞述語文

 多くの日本語文法学者は「奇妙な文」とは考えていない。「奇妙な省略をしてしまうからだ」と考えているのだろう。
○角田研究では、「奇妙な文」を救済する方法として、
・「動詞述語文(+名詞:複合述語的)述語文」と見なすこと。
・「太郎は明日、大阪へ(行く予定)です」という複合動詞述語文と見なす(わけです)。
・つまり、従来からある助動詞の形態と同様の解釈を当てはめようとします。
「~する・らしい/・ようだ/・のだ/・そうだ」などの推定・断定、伝聞を表す助動詞接辞と同様の複合述語文と見なそうとする(わけです)。
 多くの日本語文法学者の考え方はどうなのだろうか。
・「(太郎は明日、大阪へ行く)→予定です」という名詞述語文として見なす(わけだろう)。
・(動詞述語文)が「予定です:名詞述語文」を修飾していると見る(わけだろう)。
○「太郎は(そうする/その)予定だ」形態の名詞述語文を正当に名詞文:「AはBだ」形態のうちの一つと見なしている(わけだろう)。
○人魚構文を単純に動詞述語文へ変換すれば、
・「太郎は予定(により)で、明日、大阪へ行く」 と言えるかもしれません。
・叙述するだけでなく、話し手の判断や伝聞を含めた言い方:
 「太郎は明日、大阪へ行く予定だ」 という名詞述語文の構文がたまたま人魚構文になると言えます。
・もともと、名詞述語文には「話し手・書き手が事象の叙述・描写をするだけでなく、自身の判断を上乗せして言い切ることができる」という特徴があります。
(寺村秀夫:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』第2章9節には、複合述語の問題を取り上げている:補語(名詞+格助詞)+述語(形容詞/動詞:用言)が慣用的に密結合した状態のものを指すが、判定はむずかしい。ただし、心細い、名高い、名づける、旅立つ、手間どる、登山するなど名詞と形容詞/動詞が一体化「:編入」して定着したものもある)

(4)名詞述語文と判断措定
2014/04/02(水)

・名詞述語文の代表的な構文:
 「AはBだ」 には、
 「A=B」:指定文、同定文
 「A≦B」、「A≧B」:措定文、倒置措定文
 「A∴B」:端折り文、判断措定文
○AとBの関係づけをする構文で、意味範囲が広いので文法家の解釈でも類別分けが何種類もあるようです。
①「象は鼻だ」:象鼻構文→「象は鼻が長い(形容詞述語文)」
②「ぼくはウナギだ」:ウナギ構文→「ぼくはウナギを注文する(動詞述語文)」
③「太郎は予定だ」:人魚構文→「太郎は明日、大阪へ行く予定だ(名詞述語文)」
④「日本人は習慣だ」:人魚構文→「日本人は正月を祝う習慣だ(名詞述語文)」

 例文①、②は文法書で見かける構文で、「AはBだ」形式になっています。
・金谷武洋が言う盆栽型文型を思い浮べて考察すると、A、Bが補語要素で、盆栽鉢にあたる述語が省略された形式です。(Aは主題要素でもある)
・盆栽鉢が一つですから、頭の中で「補語述語演算」して感覚的に想像、理解ができます。
・一方、③、④は二階建の盆栽型構造です。(熊手型連結構文)
 「太郎は(明日、大阪へ)行く」:一段目の盆栽が
 「予定だ」二段目の盆栽鉢に植わる構造です。
・③、④の「AはBだ」は、
 A=一段目の補語(主題)
 B=二段目の述語 が組み合さったものです。さらに「B」の内容には一段目の叙述に対する書き手、話し手の独自判断・感情を加えることができるものです。
・ですから、熊手連結構文を「AはBだ」という構文に圧縮してしまうことには問題があります。
・いくら日本人が「題補述演算」に慣れているからと言っても相当の無理があります。
・「AはBだ」が「A=B」でない場合、話し手の判断措定:「A∴B」を聞いて相手が共感・理解するには、それなりの「対話のやり取り」が先行している必要があります。
・「予定」、「習慣」の内容は千差万別ですから、説明を必要とする概念です。(説明があればなんの問題もありません:人魚構文で奇妙だと言う必要もなく、熊手型構文として調査対象とすることができます)

*********
○盆栽型構文の略式表記:補語:→、述語:)で略記。
・「象は→鼻が→長い)」 ・「ぼくは→ウナギを→注文する)」 
○熊手型連結構文の略式表記:補語:→、述語:)、熊手型述語連結:)→ で表記。
・「太郎は→明日→大阪へ→行く)→予定だ)」 ・「日本人は→正月を→祝う)→習慣だ)」 
*********
 なお、名詞述語文(体言締め文)でない構文:
・「太郎は→明日→大阪に→行く)→予定が→ある)」(存在文・動詞述語文)を人魚構文とは呼ばずに、
・「太郎は予定がある」(動詞述語文)ならば、角田報告では峻別して「奇妙の文」に含めていない。

★2016/10/27(木)
追記:2年後の思考実験で考察が進捗しました。
リンクを付けましたので参照してください。名詞述語文で「基本文型を二階建て」に

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