日本語動詞:双方向視点
2014/05/30(金)
(1)両面を見ること
前シリーズ:『曲がり角の日本語』水谷静夫:岩波新書の通読感想の4、5回目で、思考実験子は
○「感化」:影響を受ける/与える の両面をもつ言葉と解釈すると、
「書生たちを」感化する/「書生たちを」感化させる のどちらの構文も「書生たちが」影響を受ける
のであり、影響を与えることを意味しない。
と記述したが、追記として
○逆に「旧藩が」、「鳴雪が」感化する/感化させるとは、「影響を与える」ことを意味する。
としておくべきだった。
また、5回目の末尾では言葉を控えたが、本来は明記すべきだったかもしれないことは、
○司馬遼太郎が歴史の流れを眺望して、鳥瞰的に事物を解釈したときにしか見えない「3者関係の意図の働き」を描き出した場面かもしれない。
○水谷本の解釈は、鳴雪と書生たちの2者間の動きを説くだけに止まり、作者の「歴史の深読み」、「旧藩の思わく」を組み込んだ複文構造で情景を見なかった。
(2)「態の双対環」と双方向の構文作り
思考実験で用いている動詞「態の双対環」を使いながら、能動/受動の双方向視点で構文を考察してみよう。
○図1:能動態の双対環:「休む」動作は「体を休める:可能態」から始まり「体が休まる:結果態」に至り「体が休まれる:受動態」に到達して「休む」が完成する。
・受動態「休まれる」の原意は、自動詞ですから「自分が十分に休まりました」という意味です。
・目上の人に『休まれましたか』は丁寧・尊敬態ですが、原意は「ご自身が十分に休まりました(結果態:休まる の連用形)」かと尋ねているわけです。
・同僚が『やつに休まれたんで、その分を皆で埋め合わせてくれ』は、「迷惑の受け身」とも呼ばれています。「休まれる」は自動詞ですから直接的な受身動作を同僚に与えていません。間接的な影響を表現したわけです。
○なぜ、「受け身」表現に見えるのでしょうか?
・理由は「動作の結果が厳然と存在している」ということを言い表すのが受動態形式だから、その影響から逃れられない人々にとっては「結果状態」を受け止めざるを得ないからです。
○図2:動詞語幹に+(r/s)asuの接辞をつけると、相手に動作を強制する「強制態」動詞を派生できます。
・「使役態」は「強制態」に「可能態」を追加した強制可能態:+(r/s)as・eru と同形になります。
○強制態:休ます(例:考えさす、詰まらす、読ます、立たす、、)は、相手に動作を強制する意味です。
・使役態:休ませる(例:考えさせる、詰まらせる、読ませる、立たせる、、)は、直接強制だけでなく仲介役を介して動作をさせることも含む感じです。
○「態の双対環」を動作主/被動作主の2者関係に合わせて、双方向の矢印で動詞を双対させてみました。
・「矢印が出る側」の人・物を構文上の主体補語とする場合の動詞態を表しています。
図3:強制系も「双対環」としては能動系「態の双対環」と相似体系ですが、強制・使役・二重強制・二重使役など種類が多く、「小さな接辞の違い」で「態の双対環」の意味合いが変わります。
(・二重強制の接辞:+(r/s)as・asu です。
・二重使役の接辞:+(r/s)as・as・eru を推奨します。
・強制態を忘却した「二回使役形」:+(r/s)as・e(r/s)as・eru:の形式はやめましょう。×休ませさせる←学校文法の欠点です)
・また、使役態授受形式(させてください/させてやる)などもあり、「3者関係の構文構造」を理解するには練習が必要です。
○でも「態の双対環」の基本法則は一つですから、最小努力で練習できるはずです。
次回は、双方向の視点の意味について少し掘り下げましょう。
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