« 2014年6月 | トップページ | 2014年8月 »

2014年7月

2014/07/27

日本語文法:動詞態の暗唱図:う~えるあるあれる

2014/07/27(日)

(1)日本語の動詞態を暗唱してみよう

 学校文法にも日本語文法者にも唐突な提案かもしれませんが、暗唱して「態の双対環」を覚えてもらうのが手っ取り早いかと思います。
 能動系の「双対環」を暗唱すると、
①「う~、える、ある、あれる」:u、eru、aru、ar・eru
②「る~、れる、らる、られる」:(r)u、(r)eru、(r)aru、(r)ar・eru
③「す~、せる、さる、される」」:(s)u、(s)eru、(s)aru、(s)ar・eru
 強制系の「双対環」を暗唱すると、
④「あす、あせる、あさる、あされる」:asu、as・eru、as・aru、as・ar・eru
⑤「らす、らせる、らさる、らされる」:(r)asu、(r)as・eru、(r)as・ar・eru
⑥「さす、させる、ささる、さされる」:(s)asu、(s)as・eru、(s)as・aru、(s)as・ar・eru

 簡略化して表記すると、(図参照)
Photo

能動系「態の双対環」は
①「う~、える、ある、あれる」:(r/s)u、(r/s)eru、(r/s)aru、(r/s)ar・eru
 (注:r/s表記の意味は別に教える)
強制系「態の双対環」は
④「あす、あせる、あさる、あされる」:(r/s)asu、(r/s)as・eru、(r/s)as・aru、(r/s)as・ar・eru
 (注:r/s表記の意味は別に教える。能動系と同様です)

 学校文法や日本語学者が教える「動詞態の説明」では、受動態、使役態の2つが中心です。不足部分が多すぎます。
○(重大な欠落です)「態の接辞」は(接合子音:r/s)を付けたり/外したりにより、どちらの動詞語幹(母音:一段活用/子音:五段活用)に対しても連結できる構造をしています。これが十分教え込まれていません。
○(重大な欠落です)「結果態」に対する文法則を教えていません。
 (文語受動態の概念/造語応用力を無視しています)
○(重大な欠落です)「強制態」に対する文法則を教えていません。
 (文語使役態の概念/造語応用力を無視しています)
○(重大な欠落です)なぜか「可能態」を子音語幹動詞だけに接続して可能動詞と呼び、母音語幹動詞に対しては、「受動態で可能を表現する」との不正解なことを教えています。
 「可能態」は子音語幹動詞だけでなく、すべての動詞(子音/母音)語幹に対して派生可能です。
○(重大な欠落です)「受動態」:「動作の結果の状態、影響」を表出するもの。
 受動態接辞は「結果態」と「可能態」の合成によるものです。(単なる「可能態」と等価ではありません)
 「受動態の可能表現」と「可能態の可能表現」との根本的な違いが見過ごされています。
○(重大な欠落です)「可能態」の打消し形:「どうしても行けません」は自己の意図による不可能を表します。
 「受動態」の打消し形:「どうしても行かれません」は不本意な、意図を超えた事由による不可能を表します。
 この違いを説明する視点が欠落しています。


(2)「強制態」接辞構造の意味

今気づいたこと:
「強制態」の接辞:asu の根拠に思い至りました。
○第一思考(従来思考):動詞の未然形に「+す」を付加する構造です。
未然形に「+ない」でなく、文語使役の意味の「+す」を付けて、自分でなく相手に動作をさせる意味を創造したのですね。
例:読ま・す、書か・す、休ま・す から、語幹つなぎの解析をすれば、強制態の接辞:a+su
→→asuが歴史のある時点で新しく作り出されたのですね。
やはり文法的態と語彙的態は密接に関連しているのです。
(国語辞典の後部付録で文語助動詞「す」=使役とあるが、音素つづりの接辞:asuへ思考を進めていないと気づかないものです)
○第二思考:語幹つづり解析では、未然形との関連で接辞構造を考察しません。安易に「a+su」の合成と考えません。
・成る/成す:naru/nasu の自他動詞対応の深層構造が根本にあるのだろうと考察します。
・強制接辞「+asu」=「結果態aruに為すように人為的にsuru」→「結果到達状態でaruように動作suruことを意図する」→「aruの(r)をsに交替させて、asuが誕生する」
・古来、成る/為すの自他相関と同じ感覚で、「ある/あす」の自律/他律の感覚があったのではないだろうか。文語での使役は尊敬表現も含んでいるので、「あす」の響き自体も好印象だったかも。
・文語受動「aru:ある」/文語使役「asu:あす」の対応関係をことさらに強調するのは思考実験子のみですが、動詞態を確実に理解して応用が利くような下地を作るために「対応関係」を知ることも大事です。

○読ます:相手に読むことを強制する(ちょっと読むだけでなく、しっかり読むことを強制しているように感じる)
○任す、乾かす:任務完遂を託す、乾き切るように干す(完遂までを目標に動作を促す)
(語彙:任す・乾かす・促す:すでに「+あす」が組み込まれています)

(3)「です/ます」の元は「あす」?

○第三思考:助動詞の敬体「です/ます」が誕生した原初の接辞要素が「あす」だったかも。
 まず、「ある」のほうは、
・「~である:de・aru→~だ:d・a」
○「あす」のほうは、
・「~であす:de・asu→~です:de・su」
・「~mあす:m・asu→~ます:m・asu」
これは、まったくの思いつきです。
もっと長い慣用句からの短縮化だったが、最後の形態が「m・asu」だったと推測する。
・「~であす:de・asu→~だす:d・asu」
・「~でがす:de・g・asu」
と言う「です」の言い換えがあるから、近代文法の中で「asu」というかたまりで、接辞の構造をもっていたのでしょう。
○つまり、強制態接辞は「asu」のように一体の構造であり、「a+su」区切りをしなくても良いということですね。
(接辞が未然形に付くのではなく、動詞語幹に付いて機能するのだということを明確にしたい)


2014/07/20

日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法4

2014/07/20(日)

(4)態接辞の接合子音:多様な試み(辞書形でも接合法原理あり)

 態の接辞がすべて母音始まりなので、動詞母音語幹(VⅡ)に対しては(r/s)接合子音を介して態の接辞を接合します。 
○その点では、子音語幹(VⅠ)の動詞には直接に態の接辞が接合するだけなので画一的です。
○母音語幹(VⅡ)の動詞には、(r)か(s)の子音を前置して態の接辞を接合するので、選択肢が増えます。
○この接合の基本原理は、動詞の辞書形でも適用されます。
・(VⅠ)切る:kir-u/飲む:nom-u (直接接合)
・(VⅡ)着る:ki-(r)u/食べる:tabe-(r)u (子音rをはさむ)
・(VⅡ)食べさす:tabe-(s)asu (強制態辞書形:子音sをはさむ)
 接合子音(r/s)にも意味があります。
○態接辞の接合子音の意味(1)
①(r):動詞の行為者自身の意図による動作を示唆する。
②(s):行為者が相手に動作を強制し意図に従わせる。相手が無情の場合は他動詞、有情なら強制態。
 さらに別の意味を持たせるために接合子音を替える場合があります。
○態接辞の接合子音の意味(2)
③(k):寝かす:ne-(k)asu /笑かす:wara-(k)asu :相手の意向を構わず行為を押し付ける。(用例少なし?)
②(s):寝さす:ne-(s)asu /見さす:mi-(s)asu :相手に動作を強制し意図にしたがわす。(再掲)
④(h)関西語:なはる:na(h)-aru :(なさる:nas-aru:「為す」の結果態から転じた尊敬態)
(接合子音でなく、s→h交替現象です)
⑤(y):見ゆ: mi-(y)u/聞こゆ:kiko-(y)u :古語(自発動詞:見える/聞こえる:意図でなく自然に感覚する)
などの例があります。

 少し思考実験をしてみたい。
・◎寝る:ne-(r)u
・?寝す:ne-(s)u/◎寝せる:ne-(s)eru/◎寝かす:ne-(k)asu
・△寝らす:ne-(r)asu/◎寝さす:ne-(s)asu
・見ゆ:mi-(y)u/見いぇる:mi-(y)eru/◎見える:mie-(r)u
・◎見る:mi-(r)u/◎見れる:mi-(r)eru
・?見す:mi-(s)u/◎見せる:mi-(s)eru/◎見さす:mi-(s)asu
こうして考察していると、文法的な態の接辞が、そもそも動詞の新しい語彙を創り出す接辞であったことが分かります。
○また、創り出された動詞の意味の違いも試行錯誤しながら考えていると徐々に分かってきます。
・見せる/見さす の意味の違い、
・寝せる/寝かす/寝さす/寝らす の意味の違いが感じとれる時代が続くといいですね。
○VⅠ、VⅡ動詞に「態の双対環」方式で態活用の練習をしてみるのもおすすめしたい。
○「ら抜き言葉」や「さ入れ言葉:二重強制態」の動詞を疑問に感じたら、「態の双対環」に適用して態活用を確認してみるのが一番ですね。

2014/07/17

日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法3

2014/07/17(木)

(3)「動詞態の接辞接合法」の原理を貫く

 前節(前回)の「ら抜き言葉」部分で、
○態の接辞接合法の原理を忠実に貫けば、「ら抜き言葉」こそ正しい「可能態」表現です と記述しました。
 新書判の文法書やネット上での「ら抜き言葉」の騒ぎが起きる?のを見るにつけて、いつも感じることは「態接辞の接合法の基本原理」を思い出してほしいという ことです。
○可能態を表現するときの基本原理は、動詞語幹に可能態接辞:+(r/s)eru を付加することです。
・VⅠ子音語幹:書ける・読める・飲める:語幹+eru(原理:子音語幹には接合子音がいらない) 
・VⅡ母音語幹:着れる・食べれる・伸びれる:語幹+(r)eru(原理:母音語幹には接合子音をはさむ)
この基本原理は突飛なことでなく、他の態接辞と同様の接合法です。

 ところが、学校文法では誤った伝統のもとで、母音語幹の動詞には無理やりに
・VⅡ母音語幹:語幹+(r)ar・eru 受動態接辞を付けさせる。
だから、着られる・食べられる・伸びられる が可能態に代用されてしまいます。
○受動態で代用する「可能」は、正式な可能態:着れる・食べれる・伸びれる とは意味が大きく違います。
○大事な生得の感性で「着れる・食べれる・伸びれる」としゃべっていた小学生も、学校文法で感性を曲げられてしまいます。
○着れる:は、着る前にできそうだというときの言葉です。
○着られる:は、着終わった結果、できた状態をいうときの言葉です。
○通常の可能態は、動作開始の時点での可能性を表現するものです。
○受動態が表現する「可能」は、広く誰もが繰り返し実行をして結果を出せるという意味を含んでいます。
ですから、学校文法も罪作りなことを長年繰り返しているんです。
可能態生成の基本原理を忠実に貫いていればいいだけなのに、残念ですね。

 上記の例は、学校文法が母音語幹VⅡグループの動詞に対して行う「可能態」の誤用教育なのですが、これを正しい教育に直すには、どうしますか?
・可能態:着れる、食べれる、伸びれる(基本原理に適う)
・受動態:着られる、食べられる、伸びられる(基本原理にかなう:「可能態」と等価ではありません)
と正しく考察できるようにしたいですね。
 言葉の使い方が巧みなのは、関西人です。関西語から例を引きましょう。
○VⅠグループ子音語幹の動詞の可能態:書ける、読める、飲めるの言語運用法がすばらしい。
○この可能態の打消し形:書けへん、読めへん、飲めへんは通常使わずに、受動態の打消し形:書かれへん、読まれへん、飲まれへんを使うと言います。
①「熱うて飲まへん/飲めへん」ではなくて、
②「熱うて飲まれへん」と言うのが普通だそうです。すばらしいですね。
東京語では思いつかない用法ですが、関西人の真意が分かれば納得できます。
①「(ワイは)熱うて飲まへん/飲めへん」では、意図的に動作しないように解釈されそうです。
②「(このスープは)熱うて飲まれへん」のように受動態で表現すれば、物事の状態に依る不可能であり、不作為な・不本意な不可能を表現できるからです。
(作為/不作為の感覚を補語を立てなくても表現しているのです)
東京語で言うなら、
②「(このスープは)熱くて飲まれないよ」ですが、現代人は「熱くて飲めないよ」と作為の不可能表現のほうがよいと思うのかもしれません。(子供の頃には不本意な不可能を受動態打消し形で表現していたはずですが)
○関西人には「可能態」と「受動態」の意味の違いを生得の感性として身につけ、伝承し続ける環境にあるのでしょう。

2014/07/15

日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法2

2014/07/15(火)

 『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』金谷武洋:飛鳥新社:2014年6月25日
金谷氏の新刊本が出版されたとのこと、直接の文法解説書ではなさそうだが、日本語の「虫の目」視点を基礎にした解説本だろうと推測する。4日前に店頭では在庫なしだったので取り寄せ注文したところです。
金谷文法の「盆栽型構文」や「虫の目」視点には大いに共感しています。しかし、自他動詞相関に対する「動詞態の連続一本線」考察という旧弊思考では、「現代文法家がぶつかる壁」を越えられずにいるようです。

(2)「動詞態の接辞」最初のヒントは金谷本から

 金谷本の最新刊にはまだ言及できませんが、日本語文法の最先端を切り拓いて来たことに敬意を感じています。
ただ、『日本語は敬語があって主語がない 「地上の視点」の日本文化論』金谷武洋:光文社新書:2010年9月20日
の中で、金谷の限界を見ています。
「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」に対する見解が、他の多くの日本語学者と同様な解釈の範囲に留まっています。
○「ら抜き言葉」「さ入れ言葉」が、もしも「間違い」ならば、その言葉が「どんな意味を表すのか」を真剣に解説する視点が欠けている。
○「動詞態の接辞接合法」の原理を忠実に貫けば、「ら抜き言葉」こそ正しい「可能態」表現ですし、「さ入れ言葉」は二重強制「可能態」の正しい表現です。

 思考実験では、金谷本から多くの示唆を得て考える視点を定めました。
①動詞(態)の活用は、動詞語幹(音素解析:ローマ字つづり)に接辞(接合子音:(r/s)を前置)を接合させて、作り出すこと。
②「ある:aru」と「する:suru」、「r」と「s」、自動詞と他動詞の「対の関係性」などの知識を得ました。
③「対関係」は伝統的な研究として国語学者のなかで続けられて来たし、佐久間鼎の自他動詞対応図を示したうえで、「動詞の連続一本線:人為を超えた事態←・→意図的な使役状態」の考え方を見せてくれた。
④寺村本でも動詞態の把握の仕方は「連続一本線」を越えられないでいる。

 この③④の「連続一本線」は、原理として成り立つのか?成り立つとしても自動詞・他動詞の分類指標になりうるのか?を吟味した。
○受動態と使役態が一本線の両端にあるという説明では、日本語構文の「自動詞、他動詞、使役動詞のすべてが受動態になれる」特徴を解釈できないし、「一本線」に拘る理由にならない。
○「動詞の連続一本線」を捨てることで、「態の双対環」方式にたどり着いたわけです。
「態の双対環」方式の構造は、
①すべての動詞(自動詞、他動詞、強制動詞)は、能動態と受動態を対で有する。
②すべての動詞は、動作の開始:「可能態」と動作の結果:「結果態」を対で有する。
の2つを基本原理にしたものです。
○能動態-受動態、可能態-結果態の2つの対の軸木が十字になって環を支えるような姿を想像しました。
○動詞ごとに「態の双対環」ができるわけです。(しかも、能動系の「双対環」と強制系の「双対環」の2つができる)
○また、時間に沿った流れを想定すれば、能動態→可能態→結果態→受動態でもよいでしょうが、印象が弱いですね。
(「連続一本線」を思い出させてしまいますね。でも能動系と強制系の2本の相似線ですから)
○能動態-受動態、可能態-結果態というように「双対関係を明示する環状の配置」が分かりやすいと思います。
(すべての動詞に、能動系「態の双対環」と強制系「態の双対環」の2つの環です)
◎「態の双対環」方式の弱点は、自発系(自然発生的な性状表現)を明確に表現する基本原理がないこと。
(いわゆる自発態については「可能態」や「受動態」に間借りするような扱いになるかもしれない)

(3)「動詞態の接辞接合」の原理を貫く

 本来ならこの節:原理を貫くを書きたかったのですが、前振りが長くなりました。
○「ら抜き言葉」部分で、態の接辞接合法の原理を忠実に貫けば、「ら抜き言葉」こそ正しい「可能態」表現です と記述しました。
次回へつづきとします。

2014/07/13

日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法

2014/07/13(日)

 語幹と接辞(活用語尾)の重要な文法則の一つ:「態の接辞」を整理します。
現代文法(学校文法)の盲点を指摘する前に、原点たるべき伝承文法の深層を提示してみます。

(1)「動詞態の接辞」を深く理解する

 「態の接辞」を理解するための重要事項は次の3つです。
①動詞語幹の種類
②態の接辞の種類
③動詞語幹と態接辞との接合法則

 まず、①から解説すると、
①動詞語幹の種類:3種類(VⅠ/VⅡ/VⅢ)
 ・VⅠ:子音語幹:休むyasum‐/書くkak‐/立つtat‐/飲むnom‐
 (いわゆる五段活用動詞の語幹)
 ・VⅡ:母音語幹:考えるkangae‐/食べるtabe‐/伸びるnobi‐
 (いわゆる下一段、上一段活用動詞の語幹)
 ・VⅢ:不規則動詞語幹:来るk‐/するs‐ などごくわずかです。

 つぎに②の説明です。(参考図:日本語動詞:「態の双対多重環」図)
②態の接辞の種類:4種類×2組(3組)
 ・能動態接辞:+(r/s)u
 ・可能態接辞:+(r/s)eru
 ・結果態接辞:+(r/s)aru
 ・受動態接辞:+(r/s)ar・eru
○相似的な構成ですが、強制系(相手にやらせる動詞態です)があります。
 ・強制態接辞:+(s/r)asu
 ・強制可能態接辞:+(s/r)as・eru (使役態接辞と等価です)
 ・強制結果態接辞:+(s/r)as・aru
 ・強制受動態接辞:+(s/r)as・ar・eru

(二段階の強制系もありえます)
(二重強制態接辞:+(s/r)as・asu です。その4種類は各自練習してみてください)

つぎに③の説明です。
③動詞語幹と態接辞との接合法則:
・態接辞の表記法:
(接合子音、または接合母音)+態接辞本体 で表記します。
○態の接辞本体は、すべて母音始まりですから、(接合子音)が必要です。
 ・VⅠ:子音語幹動詞との接合:態接辞本体と直接つながります。(接合子音)を外してつなぎます。
 ・VⅡ:母音語幹動詞との接合:(接合子音)をはさんで態接辞本体とつなげます。
○(r/s)や(s/r)の接合子音が必要か、不要かの判断は日本語母語者ならば無意識にしているはずでしょう。
 VⅡ:母音語幹動詞では、
○食べる:tabe+(r)u←(r)必要
○食べさす:tabe+(s)asu←(s)必要
のように、必ず接合子音をはさみます。
さらに挿入する接合子音が能動系(r)と強制系(s)で最適な意味に選択されるのが普通です。
一方、VⅠ:子音語幹動詞では
○休む:yasum+u←(r/s)不要
○休ます:yasum+asu←(r/s)不要
態の接辞本体が直接つなげられます。

 この③動詞語幹と態の接辞との接合法則の重要な点をもう一度書き留めておきます。
○態接辞に(r/s)付加した表記の意味は、
・すべての動詞語幹(VⅠ/VⅡ)にそれぞれの態接辞をつけて活用できることを示しています。
○例:「可能態」もすべての動詞に付けれるのです。(可能動詞だけを想定するでは片手落ちです)
・休める:yasum+eru
・食べれる:tabe+(r)eru
・伸びれる:nobi+(r)eru
すべての動詞が同じ原則で「可能態表現」をとれます。
(ら抜き言葉ではなく、正しい「可能態」の表現です。ら抜き言葉という言葉自身が間違いです)
○例:「受動態」もすべての動詞に付けれるのです。
・休まれる:yasum+ar・eru
・食べられる:tabe+(r)ar・eru
・伸びられる:nobi+(r)ar・eru

 「受動態」と「可能態」とが言い表す可能の意味は同じものではありません。
○「可能態」の可能:今、動作が可能だ、動作の開始が可能だということを表現する。
○「受動態」の可能:「受動態」=「結果態」+「可能態」の合成表現の構造ですから、「動作した結果の状態、影響」を明確に表現するものです。
・食べれる:今、目の前にあるものを食べることができる。
・食べられる:食べた結果、(毒ではなく)くり返し食べることができる。(毎日つつがなく)食べて行けてます。(誰でも通念的に)食べてよいものです。

○このような「可能態」と「受動態」の意味の違いを明確に感じ取る感性を持った方々も多いのですが、学校文法や国語学者、文法学者のなかでは感性が途絶してしまったようです。
(生得の感性を忘れずに大人に成っていれば、休める/休まれる:で大きな違いを感じると同様に、食べれる/食べられる:で大きな違いを感じ取れるはずです。「食べれる」と「食べられる」は等価ではありません。まったく意味範囲が違うものなのに、不幸にして文法学者に混同されてしまうとは、「食べれる」が非難されてしまうとは、、)

 いま、思考実験を続けてきた結果として、「結果態」の重要さを内包している「受動態」が表現する意味の広さを実感できましたから、個人的には確実に語り継ぎ、深層の伝承文法を絶やさないようにしたいと思い入れています。
○「結果態」、「強制態」も確実に語り継ぐ必要性が高まっていると感じます。
・「結果態」=文語受動表現、「強制態」=文語使役表現を担ってきたものですし、自他動詞の単語そのものにたくさん組み込まれています。忘れ去るには忍びなさ過ぎますし、現に伝承文法として根づいているはずです。

2014/07/06

日本語文法:形容詞語幹と活用接辞

追記:2017年に思考実験の進展あり。
態文法:形状動詞の派生と挿入音素態文法:派生文法と「態の双対環」文法
を優先的にお読みください。

2014/07/06(日)

(1)形容詞語幹と活用接辞
(図表挿入)
Photo
 形容詞の語幹を思考実験してみましょう。
○形容詞は(い形容詞)と(な形容詞)に大別します。
・い-形容詞は語幹と活用語尾がある通常の形容詞です。
・な-形容詞は一般に形容動詞と呼ばれる品詞ですが、語全体が語幹で、名詞に似たような構文活用になります。
○形容詞の語幹と活用接辞の音韻的接合原則は、動詞の場合よりもずっと簡単そうです。
○活用接辞も辞書形につく+[i]は母音接辞ですが、それ以外は子音接辞です。
○特に「な-形容詞」は語全体が語幹・単語であり、語尾変化しないから、音韻接合の概念に相当しないわけですね。

(2)形容詞に「~です/~でした」?

 図表の後段にある動作形でも、(い)形容詞と(な)形容詞の違いが現れています。
○(い形)楽しいです/楽しかったです に対して
(な形)きれいです/きれいでした を示しました。
○通常(い形)楽しいでした と言わないで、楽しかったですと言うのが普通です。
○(な形)きれいでした/きれいだったです どちらも言えそうです。
○「楽しいでした」と言わない理由は、助動詞:「です/でした」が2つの意味を持っていて、片方の意味が邪魔をするからです。
①動作叙述の助動詞:~をするのです という意味と、
②判断の判定詞:「AがBだ/です/でした」 という意味・構文で使われる。通常「Bでした」の「B」は名詞であることが多いでしょう。
○(い)形容詞は感覚反応を表す形容の言葉が多く、それに判定詞がつくことに違和感があるのでしょう。
○(な)形容詞の「きれいでした」 は、機能上では(な)型名詞ですから違和感がほとんどないわけですね。
(活用形式がこの両者で明らかに違いがあり、用言と体言との相違差に相当します。片や用言:形容詞であり、片や体言:名容詞なのです。形容動詞でなく、形容名詞=名容詞として扱うのが活用実態に合致します)

 

 

 

2014/07/03

日本語文法:動詞語幹と活用接辞

追記:2017年に思考実験の進展あり。
態文法:派生文法と「態の双対環」文法
を優先的にお読みください。

2014/07/03(木)

 日本語文法、なかでも学校文法や国語辞典などで用いている「動詞の活用表」が時代に適わなくなっています。
①動詞、形容詞、形容動詞など語尾が活用する言葉では、前半の「変化しない語幹」部分を理解・修得できると応用力が発揮できます。
②正しい語幹は音素解析(ローマ字つづり)すれば見つけられます。
③しかし、学校文法、国語辞典などは、「正しくない語幹」を用いて「動詞の五段活用」だとか「上一段、下一段活用」だとか区分しています。
④「五段活用動詞」=子音語幹の動詞、「上一段、下一段動詞」=母音語幹の動詞という、区分換算ができればほぼ実害なしですが、「ひらがな表記」ではまったく「子音語幹」を書き表せません。
⑤「子音を除いて、ひらがな語幹」だと見なし、「除いた子音」は活用接辞の頭につけて苦肉の表記をしています。
 (語幹を短くして、活用接辞側へ付ける:何行何段活用という形式で「ひらがな体系」を維持)
⑥また、「見・る、寝・る」など短い母音語幹の動詞活用表記が「語幹なし、「み・、ね・」が活用語尾に組み入れられて:マ行上一段、ナ行下一段」となります。
「ひらがな表記の文法体系」での傑作的な方便の一覧表記方法ですが、間違いを将来にわたり続ける必然性はありません。

(1)動詞語幹と活用接辞

 思考実験中の動詞「態の双対環」方式では、動詞語幹を音素解析(ローマ字つづり)して正しい語幹法を使っていますが、「語幹の見つけ方」を詳細に説明していなかったですね。
下表に正しい語幹法による動詞活用表を示します。
○寺村本の動詞活用構成を参考に、また、東京大学日本語教育センターの「日本語学習入門」のwebページ資料を参考にしました。
①寺村本提起の活用表で「命令形」欄を省略・割愛したのと、東大web資料での「推奨基本4形」の考え方を組み入れたものです。
②留学生に日本語を教育するうえで、初期の段階から修得させると結果的に順調に進歩できるという基本4形:
(1)辞書形(例「飲む」「食べる」)
(2)マス形(例「飲みます」「食べます」)
(3)ナイ形(例「飲まない」「食べない」)
(4)テ形(例「飲んで」「食べて」)
だそうです。(図表挿入)
Photo_2

 思考実験の動詞活用表では、
○寺村本と東大資料を組み合わせて、活用形名5種(基本活用接辞:5個、タ系活用接辞:5個)を
作成しました。
○形名5種に絞り込んだ図表をよくご覧いただくと、基本活用接辞が、
・+u/(r/s)u、+oo/yoo、+(a)nai/nai、+eba/(r/s)eba、+(i)masu/masu、
となっていて、接辞頭部の母音が[u、o、(a)、e、(i)]と並びます。
○音韻的な研究もあるようですが、発音時の「舌の動き:舌の奥部位」は「u」が一番奥まり、o、a、e、iと順に前へ緩まってくると言う。(意識的に形名5種をこの順番に並べました)
○若干、五段活用の形式を残した感じですが、「語幹と接辞の音韻的接合の原則」は日本語の伝承文法としてその深層構造を支えるものでしょう。
(ひらがな解析文法は役に立ちません。音素解析して正確な接合原則を身につけないと応用が利きません)
○否定形:ない、動作形:ます(敬体)は、子音始まりの接辞:正しくは助動詞ですが、子音語幹と接合する場合、挿入母音を頭に付けるという原則です。
(動詞語幹の早見分け方、語幹と接辞の音韻的接合原則は、挿入図表の脚注に説明があります)

(2)語幹を感じるように

 「日本語学習入門」webページの記述では、
○日本語母語者は辞書形を基にして動詞を活用させる思考法が身に付いています。
○留学生の学習も、動詞・辞書形をしっかり身につけさせて、同じ思考法に慣れてくると順調にいくようです。 という。
 このことは、日本人ならば動詞の語幹を感じとる感性を身につけているということですね。
○たとえば、「変える」と「帰る」を話すとき、
・『じゃあ、話題を変え(kae+:ここで間をおいてもよい)て(+te)、夏休みをどうする?』
・『じゃあ、もう帰ル(kaer+:ここで間をおいてもよい)らないと(+anaito)、帰ル(kaer+)れなく(+e・naku)なっちゃうよ』
というように、語幹を感じているはずだろう。
○蛇足を言えば、「帰れなく」は、
・「可能態」帰れる(kaer+eru)の語幹:kaer/e/+に、naiの活用がついたもの。
○感性で感じる「語幹」をより強固に伝承する文法に高めるためには、論理的な接合原則を修得して留学生に負けないようにしていきたいものですね。
○なにしろ、国語辞典では:きる【着る】(語幹と語尾に分けられない:上一他)、き・る【切る】(五段他)
 のような見出し語を延々と繰り返していますから、この非論理の国語文法に飲み込まれて、大事な「生得の語幹感性」を忘れ去るなんてことが起きないように気をつけたいですね。


« 2014年6月 | トップページ | 2014年8月 »