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2014/08/26

日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫6

2014/08/26(火)

 水谷本への感想を集約します。
(著者水谷先生は7月逝去なされたとの報を今知りました。・・・なんども再読しようと思います:9/3)
日本語文法:『曲がり角の日本語』水谷静夫
(1)水谷静夫『曲がり角の日本語』を読んで
 水谷本の内容目次:
第1章 辞典になぜ改訂が必要か
第2章 日本語が曲がり角に、今?
第3章 文法論を作り直せ
第4章 日本語未来図
 1.変化を測る物差し 2.ゆらぐ格助詞 3.<ら抜き>言葉にも合理性-活用語の未来
 4.予測を統合してみると

〇通読直後の感想記事としてあげたのは、
第4章2:ゆらぐ格助詞、3:ら抜き言葉にも合理性 の部分。
(2)「可能態」<ら抜き>言葉のこと
・「ら抜き言葉」:可能・自発からの発展で、生成に合理性ありとを認めているが、態の接辞:可能態、受動態、使役態の明解な説明がない。読者が「ら抜き言葉」を堂々と話してみようと思うための誘導文になっていない。
・「さ入れ言葉」誤用の広がりを未来予測しているが、「さ入れ言葉」が持つ本来の意味を説明していない。何故誤用が起きるのかを深く分析していない。
(追記:ら抜き:可能態/さ入れ:使役態・強制可能態の問題は、共通の文法事項に対する知識の欠落が引き起こしています。動詞語幹:子音語幹/母音語幹と態接辞との接合法則を正しく学校文法へ反映させる必要がありますが、水谷本には指摘がありません)
(3)格助詞の重なり
・ゆらぐ格助詞:「何を気をつけるんだ」:を格の重なり、「象が鼻が長い」:が格の重なり、「仕事(が/を/に/は/も)変わる」:多様な格助詞とも組み合わせることができる。
〇水谷本の「作り直しの文法」の詳細像が説明されてない。
・当方も「ゆらぐ格助詞」の法則性を語れるほど、考察・思考実験ができていない。
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫2
(4)「曲がり角の日本語文法」
〇思考実験の一部を開示した。
・動詞語幹:子音語幹/母音語幹と態接辞との接合法則とは、
・動詞語幹:母音/子音の別あり、態接辞:(たまたま)すべて母音はじまり だから、
 母音語幹に接合するすべての「態の接辞」には:r/s接合子音:を挟み込みます。
 子音語幹に接合するすべての「態の接辞」には:接合子音を外し:直接接合します。
・文法にローマ字つづりの音素解析を導入すべきです。
(学校文法や国語辞典は、ひらがな解析ですから誤った文法を解決できません)
(5)「打ち出の小槌」の得失
〇思考実験を進める。
・日本語動詞が同一語幹から「自動詞・他動詞の対」へ転換派生できる機能を持っている。その機能接辞(語彙的態)が、文章構造に対する「文法的態の接辞」としても活用されている。と考察した。
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫3
(6)戻って「さ入れ言葉」を再度究明する
・水谷本でも、ひらがな解析の限界にとどまっています。
・文法にローマ字つづりの音素解析を導入すべきです。
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫4
(7)さらに戻って「使役態」を再度究明する
 水谷本での使役態への理解の薄さが非常に気にかかります。
〇辞書の改訂には、日々の用例集めが大事なことだという。
 水谷本(第1章 辞典になぜ改訂が必要か 18頁)
以下引用:
 ・例:司馬遼太郎『坂の上の雲』文春文庫1288頁→訂正:第1巻288頁
 ** 旧藩が鳴雪に期待していたのはその士大夫(したいふ)としての素養や精神をもって書生たちを感化せしめることであり **
 ・「書生たちを感化せしめる」でなく、ここは「書生たちを感化する」ではないでしょうか。
 「書生たちを感化せしめる」と言うと、書生が他の人間に感化を及ぼさなければならなくなります。
 書生を使って他に良い影響を与えさせた場合だけが「感化せしめる」ですから、ここは「感化する」なんです。司馬さんはこういう勇み足をよくやります。特に漢文口調でたたみかけてくる文脈に、この手の誤用がしばしば見られます。
引用終わり:
 以下思考実験を始めます。
〇水谷本では小説文の「感化せしめる」=「感化させる」の意と解釈されたのだろう。
・あたかも、鳴雪が書生たちに世間大衆を感化させるという「二重使役、二段使役」を想定したかのような解釈ですが、全くの誤解でしょう。(単純な一段使役です)
・しかも、解決策として使役形をやめてしまい、「感化する」を示します。(これも間違いです)
〇思考実験では、司馬遼太郎のこの例文を次のように解釈します。
・旧藩が鳴雪に「書生たちを」素養と精神で「感化させる」ことを期待したのだ。
・旧藩は「鳴雪が書生たちを感化すること」をさせようと目論んだ ということなのでしょう。
(旧藩から見て鳴雪に動作を強制する一段使役の構文です)
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫5
(8)補語の役割:格助詞
(9)態変化による補語の交代:格助詞の意味の交代

追加分
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7

蛇足:後続分を参考リンクしました。
日本語動詞:双方向視点
日本語動詞:双方向視点2

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