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2014年9月

2014/09/30

2014年主要記事一覧表

2014年主要記事一覧表

12月
日本語文法:自他対応接辞と動詞態
日本語文法:日本語をどう見るか7日本語文法:日本語をどう見るか6
日本語文法:日本語をどう見るか5日本語文法:日本語をどう見るか4
11月
日本語文法:日本語をどう見るか3日本語文法:日本語をどう見るか2
日本語文法:日本語をどう見るか日本語文法:結果態の謎4
日本語文法:結果態の謎3日本語文法:結果態の謎2
10月
日本語文法:新文法への道4
日本語文法:新文法への道3日本語文法:新文法への道2
日本語文法:新文法への道日本語文法:結果態の謎
9月
日本語文法:可能態の謎を解く日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7
日本語動詞:自他ともに「を格補語」をとる日本語動詞:自他対応解析表を読み解く2
日本語動詞:自他対応解析表を読み解く日本語動詞:動詞態の双対環を操作-8
8月
日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法7日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫6
日本語動詞:受動態の多面性-5日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法5
日本語動詞:語彙的態と文法的態の対応図解日本語文法:自他対応に語彙的態が深く関与
日本語文法:能動詞・所動詞の受動態日本語文法:構文図略式表記
7月
日本語文法:動詞態の暗唱図:う~えるある動詞「態の双対環」暗唱図
日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法4日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法3
日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法2日本語文法:動詞語幹と態接辞の接合法
日本語文法:形容詞語幹と活用接辞日本語文法:動詞語幹と活用接辞
6月
コレトのペン軸を活用する
日本語動詞:双方向視点2日本語動詞:「態の双対多重環」図
5月
日本語動詞:双方向視点日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫5
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫4日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫3
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫2日本語文法:『曲がり角の日本語』水谷静夫
4月
日本語文法:名詞述語文と判断措定3
日本語文法:名詞述語文と判断措定2日本語文法:名詞述語文と判断措定
3月
日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法6日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法5
2月
日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法4日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法3
日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法2日本語動詞:態の双対環で蘇る伝承文法1
日本語動詞:文法的「態」と語彙的「態」日本語動詞:動詞態の双対環を操作-7
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-6
1月
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-5日本語動詞:動詞態の双対環を操作-4
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-2日本語動詞:動詞態の双対環を操作-3
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-1日本語動詞:寺村文法の動詞態
日本語動詞:受動態の多面性-4日本語動詞:受動態の多面性-3

2014/09/29

日本語文法:可能態の謎を解く

2014/09/29(月)

(1)可能態の謎とは

 謎を考察する前に、前回の投稿でいくぶん強引な「態の双対環」の操作
をしたことに対して補足しておきたい。
〇不規則動詞:「する」の態活用:
・能動:する/可能:せる/結果:さる/受動:される (基本・本家筋
 の活用)という説明が強引にすぎるかもしれません。
〇通常、「する」の可能としては「できる」を想定します。
 ただ、「称する」の可能態としては「称できる」を奨められませんし、
 受動態「称される」が派生される道筋には結果態「称さる」が重要な要
 素です。
・同類の動詞に「見る、着る」があり、「見せる」、「着せる」への派生
 方法が「称せる」に適用できるのではないかと推測したのです。
・見る→見す→見せる(見す:消滅、古語辞典にあり)
・着る→着す→着せる(着す:消滅、古語辞典にあり)
〇水谷本が説明もなしに「称せられる」を載せるのは、使役態:「称せる」
 として、使役受動態:「称せられる」にしたからなのでしょうか。
 (見せる、着せる、は協同動作ですし、称せるも使役態ではないのに)
・これも可能態の謎の一つかもしれません。

 本題の「可能態の謎」に向かいます。
(2016年追記:能動系(r)、強制・使役系(s)を一括で(r/s)と表記したが、
近年は別表記に変更)
①可能態の形態:接辞(r/s)eru は何から形成されたのか?
 (出自が分かれば意味もよく分かるだろう。また、可能態と受動態可能表現
 との意味の違いを明確にできる)

②自他対応に機能する動詞接辞:
・(r/s)aru:結果態・文語受動態の機能(結果の自動詞化、形態・意味とも明確)
・(r/s)asu:強制態・文語使役態の機能(動作強制の他動詞化、形態・意味とも明確)
・(r/s)eru:可能態?
(自他、他自の両方向化あり不定、意味も不明確)
 eru:可能、自発の性情表現や変化の動作表現などにも機能しており、
つかみどころがない。
謎①が解決すると謎②も解決する可能性あり。

③動詞語幹との接辞接合法:
・「態の双対環」では動詞語幹に接辞を接合させるという概念で、
 子音語幹、母音語幹どちらにでも対応できるように(r/s)挿入子音を
 接辞前に配置した。
・しかし、未だに学校文法も国語辞典も助動詞は(大多数が)動詞の
 未然形に接続すると記載しています。
 また、子音語幹の動詞だけに可能動詞、可能態を認めて、
 母音語幹の動詞には認めずに、受動態で可能表現させるという
 間違いを続けています。

(2)未然形と已然形(仮定形)

 ネット上の資料検索で「ことば逍遥記」ホームページをみつけました。
〇掲載記事に「已然形はどのようにして仮定形となったか」があり参考になりました。
->要点引用:古語:未然/已然
 未然は「いまだしからず」「まだそうなっていない」を表す。
 已然は「すでにしかり」「もうそうなっている」を表す。
・例文:仮定文形
 未然形・仮定条件:急がば回れ/毒を食はば皿まで/死なばもろとも/住まば都
 已然形・確定条件:犬も歩けば棒に当たる/立てば歩めの親心/住めば都
という条件の使い分けができた。
・母音語幹の動詞では未然形、已然形が同形になってしまうので、
 (未然形:食べらば、考えらばが流通しなかったので)
 否定形:食べなば・食べずば・食べねば とか、
 現代口語体では:食べるならば/食べるとすると/食べたとしたら 
 仮定形(已然形):食べれば と使い分けるしかないかもしれない。
〇現代口語体では已然形を仮定形と言い換えてしまったので、
 未然形に対する已然形の対立概念が薄れてしまった。
->要点引用おわり
大きな代償を払ったことになります。
・しかし、「住まば都/住めば都」の対立概念が不明確になったとしても、
 現用する仮定形で「住めば、食べれば」が表現する「動作の進行感」を
 感得できると思う。
〇已然もしくは既然「すでにしかり」という概念を表す機能力をもっている
 のが「仮定形」です。

(3)「已然形+る」が可能態の始まり

 已然形(既然形)語尾に「る」をつけた形が可能態の始まりであろうと推測する。
〇子音語幹の「住める」などは可能動詞の位置づけで定着したのだろう。
 (江戸時代から始まったらしい)
〇母音語幹の「食べれる」「考えれる」などは同じ「已然形+る」法則から生まれた
 ものだが、(各地の方言では使われるが)可能動詞と見なされなかった。
・さらに不幸なことに、現在でも学校文法では「可能態」としてすらも認めていない。
・もっとも、見れる/来れる/食べれる などの表現は、一般世間では昭和の初め
 頃から「ら抜き言葉」と非難されても着実に「可能態」としての根を張って来ている。
(不規則動詞:能動:来る・くる/可能:来れる・これる/結果:来らる・こらる
 /受動:来られる・こられる、これも文法則の近接範囲にある態の活用でしょう)

(4)可能態の謎を解く

 可能態の謎①~③では、共通して態接辞(r/s)eruの形態のこと、意味のこと
を解明したいと述べました。
〇謎のすべては、忘れ去られた已然形(既然形)の概念を思い出して
 整理すれば解決するのだと気づきました。
〇謎の②については、接辞:e・ruが「すでにしかる」「もうそうなっている」の意味で
 動詞語幹に接続するとき、
・自動詞に付けば「そうなるような動作をする」という他動詞生成の意味になり、
・他動詞に付けば「この動作でそういう変化状態になるよ」という自動詞生成ができる
 ということです。
〇謎の①については、まさしく「已然形+る」から接辞:e+ruが作られ、
 可能態接辞:(r/s)eru となったと見れる。
 (見れる:可能態:個人的に見なせるという意味です)
早く日本語教育界でこの可能態接辞が正しいものと見られるようになるとよいですね。
(見られる:受動態:誰からも、くり返し見てもらえるという意味です)
〇謎の③については、日本語学界が語幹の音素解析(ローマ字つづり)を徹底して、
 今後はひらがな解析を止めるのが根本治療だろう。

(5)可能態と結果態の対立概念も大事なり

 未然形と已然形(既然形)の「まだ/もう対立」概念が重要であるし、
根源的に自他対応の動詞対を生み出す機能も果たしてきたと述べました。
〇「態の双対環」方式では、已然形機能を「可能態」が背負っていると見なし
 ており、意味は「可能性状」と「動作の開始に取りかかる」の2つがあると
 見なします。
・さらに「可能態」と対立する概念として「結果態」を必須のものと考えて
 「双対環」を構成しました。
〇つまり日本語の動詞概念として、
 未然→已然(可能・開始)→結果(動作結果)という動作相を確実に表現
 できる体系が備わっているのです。
「態の双対環」を操作してみるとこの体系がよく分かります。
〇未然形では補語の交替がないので動詞の活用形のうちですが、
 可能・結果は補語の交替を起こす使い方ができるので「可能態」「結果態」
 と見なします。
〇さらに考察が必要なのは、「未然形+る」が「結果態」だと評価するならば
 動作相に矛盾があります。だから、「語幹+ある」が結果態だと評価する。
 (「未然形+す」が「強制態」となる感覚はわかるのだが、、)
・昔にも「語幹+接辞」の概念があったのだろうか?
 複合動詞の概念だったのだろうか?
・専門家による解析を期待したい。

2014/09/24

日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7

2014/09/24(水)

(1)『曲がり角の日本語』水谷静夫4へ一部訂正と重要な追記

 水谷本の読後感想4回目の記事で、司馬遼太郎『坂の上の雲』での用語例を引用して解説した部分での文庫本引用頁番号に当方の間違いがありました。
〇第一巻の288頁と訂正します。(誤:1288頁)
〇これを確認して新たな問題点を発見しましたので、追記したい。
・水谷本で『坂の上の雲』からの引用はさらに2つ続いています。
〇受身の形についての誤用例と正用例ですが、誤用例との指摘に疑問を感じました。
・司馬遼太郎『坂の上の雲』第2巻225頁:(誤用例というが)
-<水谷本引用はじめ>
 例 日本でいう黄海海戦のことを、世界では鴨緑江海戦と称されていた。
(正用例を省略)
水谷本地文「称される」という受身は、私は「称せられる」であって、「称される」は使いません。
この場合「世界では称していた」と言うべきでしょう。受身にする必要は何もないんです。
もちろん「される」には敬語の例もありますが、ここで誰に対して尊敬しているわけでもありません。次の例では、ちゃんとそういう格好で、正しい使い方になっています。
-<水谷本引用おわり>
〇思考実験して水谷本に疑問を感じることは、2つあります。
①「称される」受身形にする目的は、動作主格を明示しないための手立てであり、通常用法の範囲にあるはずです。
・これを誤用扱いにする必要はありません。
②私は「称せられる」であって、と何気なく語彙を選択されているが、この語彙は簡単に辞典から調べられるものではありません。
国語学者による水谷本ですから、厳密な語彙を述べられているのでしょうか。
が、「称せる/称せられる」の派生方法を一般大衆へ教える文法はどこにあるのでしょうか。

(2)辞書の見出し語は「称する」だけ

 辞書見出し語に「称する」があり、説明の最後に文語:「称す」とある。
〇「称せる」は簡単に探し出せない語彙ですから、「態の双対環」に助けてもらいましょう。
〇不規則動詞:「する」の態活用:
・能動:する/可能:せる/結果:さる/受動:される (基本・本家筋の活用)
・可能能動:せる/可能:せれる/結果:せらる/受動:せられる (分家筋の活用)
・強制:さす/可能:させる/結果:ささる/受動:さされる (強制・本家筋の活用)
・可能強制:させる/可能:させれる/結果:させらる/受動:させられる (使役・分家筋の活用)

〇司馬の「称する/称される」は本家筋の受動態ですが、水谷本の「称せる/称せられる」は分家筋の受動態だということが分かります。
〇さらにまずいことには、「称せる」の意味について、水谷本では何も説明していませんが、間違いに気づいていないようです。
・「称せる」は通常の他動詞で意味が2つあります。
①称することができる:可能の意味、
②「称せる」は通常の強制、使役ではなく、「やってみせる」という意味の「称してみせる」が深層の意味でしょう。
(見せる、着せる、似せる、乗せる と同類の動詞態だと思います)
・使役「させる」が「他人にやらせる」の意味で、態接辞(r/s)as・eruが付加されたもの。
・「する→せる」は「自分が動作して相手にも促す」という意味で、態接辞(r/s)eruが付加されたものです。(見せる/見させる、着せる/着させる、似せる/似させる:意味の違いを深く考察して得た結果です)
〇語彙をひらがな解析している学校文法の段階に留まっていては、国語学者、文法学者といえども正しい理解に到達できないのです。

(3)水谷本では受動態、使役態の本質が語られていない

 水谷本:「称せられる」を使うと記述したことで、図らずも間違いを露呈してしまったように感じます。
・司馬「称される」が本家本元の受身表現であり、動作主格を言わずに済む構文です。
・水谷「称せられる」は本家から分派した分家筋の受身であり、意味が「やってみせ・られる」なので、「動作主格がやっている姿を」思い描かせる要素が大きい。動作主を隠したいなら避けるべき用法です。
〇学校文法が「さる/される」を嫌い、「せる/せられる」を何故勧めるのか。何故国語学者や文法学者が本質を見逃しているのでしょうか。
大いに不思議です。
〇思考実験のなかで「態の双対環」、「態の双対多重環」に思い至ってはじめて、動詞語彙の本質が見渡せるようになりました。
・「態の双対環」を操作していると、多数の動詞を産み出せます。それぞれが固有の意味を産み出し、決して意味が重複するものではありません。

総集編に追加
日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫6

2014/09/22

日本語動詞:自他ともに「を格補語」をとる

2014/09/22(月)

(1)自動詞も「を格補語」をとります

 前回の自他対応解析表で自動詞構文、他動詞構文でも「を格補語」ができる例を見ましたが、少し掘り下げて考察します。
 世の中のおそらく多くの言語では、自動詞でも他動詞でも「を格補語構文」を持つものが存在しているのではないでしょうか。
日本語も自・他動詞ともに「を格補語」を使って構文を作ります。
〇他動詞が動作の対象を目的語として「を格補語」を使って構文をつくります。
〇自動詞は本来の意味が「自然の状態」表現や「自分の行為が他におよばない動作」を表現するものですから、「動作の目的語」としては限定的になります。
・「自分に向かう再帰的な動作対象」を示すくらいなのかもしれません。
・とは言え、自動詞では「目的語」機能以外に、別の機能:関与対象にも「を格補語」を活用しています。

(2)が格・に格・を格の三主要補語

 構文のなかで主要な役割をはたす登場人物は「が格・に格・を格」の補語で表します。
 他にも主要格助詞に「と、へ、で」がありますが、ここでは考察の対象外とします。
〇主要格補語の機能を略記する。
・が格補語:動作主(能動文)/被動作主(受動文)を表す。
・に格補語:被動作主(能動文)/動作主(受動文)を表す。
・を格補語:①動作対象を表す、②動作時空(場所、時間、起点)を表す、③動作状況を表す。
〇が格/に格:は能動文の場合と受動文の場合で動作主/被動作主の立場(格の付け替え)が逆転します。
〇一方、日本語では受動文で目的語:「を格補語」を主格にする構文は多くありません。
・「足が踏まれた」よりも「足を踏まれた」と表現するほうが多いでしょう。
 インターネット上で「を格補語」に関する資料類を検索して読み比べてみましたが、専門的な文献では自動詞の意味分類、機能分類に主力が向いているので簡潔な文法から離れすぎています。

(3)日本語構文の3段階

 そこで視点を変えてみましょう。日常会話や文章の中で使う文型・構文は本来なら機能と意味合いが決まっているでしょう。
 少し結論を急ぐと、構文の形式には次の3種:判断措定文・結果状態文・動作叙述文の3つがあると考察する。
(当然、自動詞/他動詞の両方に適用できるものです。)
①判断措定文型:A君が仕事が変わる。寝ているとき口があく。(象が鼻が長い・英語がわかる)
②結果状態文型:A君が仕事を変わる。口をあいてください。(完了形、結果態を使う)
③動作叙述文型:A君が仕事を変える(他)。口をあける(他)。

 たとえば、
・「君を好きだ③型」とは言わずに、「君が好きだ①型」を選んで使う理由は、①型には本人の判断を伴って言い切る機能があるからだろう。
・「仕事を変わる②型」は「変わる/変える」自他対応形式の結果態:変わるですから、動作結果の状態を表現しています。さらに「変わった」と完了形になれば、結果状態への転換が明確になります。
・「口をあいて②型」は「あく/あける」自他対応の結果態:あかるが流通していれば、「口をあかってください②型」が存在するでしょうね。
 歯科医が患者に口をあいた状態になるように促すときの構文です。
・「口をあける③型」は歯科で患者自身が自分の口をあける動作の表現です。
〇「仕事を変わる②型」と「仕事を変える③型」とは、ちょうど動詞の動作相:アスペクトが変わった程度の差しかない構文です。
・「仕事を」変わる/変えるの「を格補語」は①動作対象と言えるし、短文構成の場合では軽い意味での④関与対象を表すものかもしれない。

2014/09/12

日本語動詞:自他対応解析表を読み解く2

2014/09/12(金)

(1)吉川武時「動詞の自他について」web資料を参照して

 前回の自他対応解析表の原本はインターネット上の検索で確認したものでした。同時に「動詞の自他について」資料も入手しました。
吉川web資料では、自他対応表の11種類の自他動詞の対応形式を詳細に説明し、自動詞構文、他動詞構文を比較しながら補語の対比をしています。
(前回、自他対応解析表で簡略的に自他構文を補語付きで示したのも同じ目的です)
〇吉川資料で目を引いたのは、自他対応の形式が必ずしも自動詞1:他動詞1の1対1ではなく、1:2、2:1(枝分かれした右フォーク型、左フォーク型)があるという発想で説明しています。
〇フォーク型:
・つながる:つなぐ、つなげる(1:2)
・つかまる:つかむ、つかまえる(1:2)(注:つかまえるは語幹が異なる筋違い)
・つむ:つめる、つます(1:2)(注:つますは強制系:他動詞つめる:と意味合いが異なるフォーク型)
・やすまる、やすむ:やすめる(2:1)または、やすまる:やすむ、やすめる(1:2)
(注:辞典では、休む:自動詞のあつかい)
・ちぢまる、ちぢむ:ちぢめる(2:1)
・まざる、まじる:まぜる(2:1)
・とける:とく、とかす(1:2)(注:意味の違いでフォーク型)

(2)自他フォーク型に「態の双対環」で備える

 吉川資料のフォーク型を見ていて、すぐに「態の双対環」方式での操作を思い出されるでしょう。
〇フォーク型とみなす動詞が適切に選ばれているのか、思考実験してみましょう。
〇「態の双対環」を略式表記するため、記号を導入します。
・<>:このひし形を「双対環」とします。
・受動態を記入しないとすれば、結果<能動>可能、強結<強>強可という形式で「双対環」を記号化ができます。
・そこで自他対応表には、さらに簡略化して、自動詞と他動詞の位置だけを解析して、自・他の文字を配置します。
・以下の①~⑫は自他対応の分類グループ番号です。まず簡略表記の見方を説明します。
〇例として①を説明します。簡略表記は:自<他> です。
・自<他>:一つの能動系「双対環」で自動詞は結果態、他動詞は能動態の形態で自他対応している。
〇簡略表記による自他対応分類:
①aru-u:自<他>
②aru-eru:自<>他 ←推測:最多群の威力を感じて「双対環」で可能態/結果態対応を採り入れた。
③u-eru:<自>他
④eru-u:<他>自 ←推測:eruの原意は可能、自発、変化?
⑤eru-asu:<>自・<強>
⑥reru-su:<>自・<他> ←推測:<古自r>・<他s>だった?
⑦u-asu:<自><強>
⑧iru-asu:<自><強>
⑨iru-osu:<自><他>
⑩ru-su:<自><他>
⑪ru-seru:<他><>他、<自><>他 ←推測:<自他r><古他s>→<r><s>他
⑫eru-yu:<古自>新自 ←推測:eruの意味を解析するうえでも派生原理を調べたい。

(3)自他識別の有標と無標

 自他対応グループの簡略表記を一覧すると、
・①~④では「双対環」が一つで自他を産み出しています。
・⑤~⑪では自動詞「双対環」と他動詞「双対環」が別々に存在します。(互いが独立の「双対環」です)
 自動詞「双対環」の接辞には「r」が含まれ、他動詞「双対環」の接辞には「s」が含まれています。自他が別の「双対環」でしか表現できないこと:これを(自他識別の)有標と呼びます。
〇自他対応を識別する文法則としては、⑤~⑪の動詞群だけならば楽勝ですが、①~④の動詞群も多く存在するので難渋しているわけですね。
・とくに③、④では無標で、かつ接辞形態が同じでも自他が逆になっています。(②③-④⑤⑥の相反)
・フォーク型は、⑨起きる-起こす、⑩起こる-起こすのように1対1対応に直して考察する道もあります。
〇どの動詞に対しても、能動-受動/可能-結果の対応軸「双対環」と、その能動動作を相手にやらせる強制-強制受動/強制可能・使役-強制結果の対応軸「双対環」を必ず(試してみれば)生成できます。
・生成される動詞態はすべて独自性があり重なり合うことはありませんから、意味の独自性を比較考察するのに便利です。
・日本語学習者にとっても「態の双対環」方式は便利な学習道具となるはずです。

2014/09/08

日本語動詞:自他対応解析表を読み解く

2014/09/08(月)

(1)自他対応の対グループ分けした動詞表を見る
(図表参照)
Photo_2

思考実験の「態の双対環」方式をもとにしています。
〇記号類の説明:
・語彙的態の接辞として、次の4つを明示します。
①能動接辞:(r/s)u、語幹を含めた能動態動詞→d1と表記。
②可能接辞:eru、語幹を含めた可能態動詞→d2と表記。
③結果接辞:aru、語幹を含めた結果態動詞→d3と表記。
④強制接辞:asu、語幹を含めた強制態動詞→d5と表記。
(注:受動態接辞:(r/s)ar・eru、使役態接辞:(r/s)as・eruは文法的態として合成されるので、語彙段階では現れていない)
(注:ただし、結果態は文語体での受動態:aruに等価ですし、強制態は文語体での使役態:asuに等価です)
〇自他対応表の見方:
・(1)から(12)の対グループが表記されています。
・自他の態接辞と語彙例、自動詞文の補語構成:上段、他動詞文の補語構成:下段を簡潔に明示しました。
・グループ(11)、(12)は自他対応と異なりますが、接辞の変遷が見て取れるので載せてあります。

(2)自動詞構文と他動詞構文を見比べる

・自動詞構文の大多数が、
〇a・xがd1、a・xがd2の形式です。
・しかし、自動詞でも「aがxを・にd3」の構文で「を格補語」をとる動詞があります。
(1)、(2)グループと(10)グループの動詞です。
・前者グループは結果態自動詞です。
〇結果態:「A君が仕事を変わる」という構文は、「A君が仕事を変える」他動詞構文で表現する行動が順調に推移して到達した結果の状態をとても簡潔に表現する形式です。
〇ちょうど「aがxをd1、d2」動作が順調に結果を出したら、「aがxをd3」という結果態動詞構文で表現できるわけですね。(すべてのd3自動詞で成り立つかは不明。口語体では結果態の単独使用が少ないですからね)
・後者(10)グループのd1自動詞で「移動動作」を意味するものでは、場所や空間を「を格補語」で表す構文が多いのですね。

・他動詞構文の多くは、
〇aがxをd1、aがxをd2、aがxをd5の形式です。
・(11)グループのd2:seruは、
〇aがbにxをd2、aがbをxにd2 という構文となります。
・このd2:見せる、似せる は、相手に動作を強制するのではなく、相手に対して自分が実行する可能態他動詞ですね。
・変則ですが、当然の推論として:見るd1→見すd1→見せるd2 と思考したものです。
〇通常の強制態:見るd1→見さすd5→見させるd6→見ささるd7→見さされるd8 となるはず。
(d6:他人に動作させる使役態)

 以上、自他対応の動詞対を語彙的態の接辞として解析しました。
「態の双対環」方式では、自他動詞の対を産み出す語彙的態接辞を文法的態の接辞として全部活用しています。
〇自動詞・他動詞の構文対も考察しましたから、文法的態との整合性にもいくぶんの検証ができたと思います。

(3)日本語の動詞:基本のRU/SU、ARU/ASUを忘れないで!(追記:9月9日)

 上記の思考実験のなかで述べた推測・推論は、潜在意識として1年くらい前から感じていたことです。
今回、ブログに投稿したことで明確な概念が出来てきたようです。
〇多くの文法書:日本語の動詞の語尾が「る:ru」なら自動詞、「す:su」なら他動詞で有対ペアになるとある。
・つまり図表の(10)グループ:ru-su対応に属する動詞の対応概念に相当します。
・推測はこの概念に従って(6)、(11)グループにも「ru-su」対応の片鱗があると見たわけです。
 (昔の文語段階での原点では、「ru-su」対応だったかもしれません。原点からすぐに転換した可能性もありますが)
・この原点を取り上げて「動詞の姿がどうであったか」を話題にする文法書はないようです。
 もうひとつ、潜在意識が明確な概念にたどりついたのは、つぎのこと。
〇「態の双対環」方式で提案する概念:結果態接辞:aruと強制態接辞:asuの対応関係にも基本「r/s対応」の深層文法則に関わりがあるのだろう。(r/sが含まれているのだから)
・結果態と命名しましたが、基本は文語体での受動態接辞:aruと同じものです。
・強制態と命名しましたが、基本は文語体での使役態接辞:asuと同じものです。
〇深層文法では結果態、強制態をなんと解釈しているのでしょうか?
・結果態は「動作主の動作結果」にも「被動作主の被動作結果」にも使う動詞です。(r付き動詞にふさわしい)
・強制態は「動作を相手にさせる」他動強制的な動詞です。(s付き動詞にふさわしい)
・結果態:aruは「~ある、在る」に通ずると言えるが、強制態は何が根源でしょう。
・強制態:asuは「aRuに対極するaSuだ」と言う説明が一番の的確な答えかもしれない。
(いまのところ、これが潜在意識に対する明確な概念です。)
〇多くの文法書で結果態、強制態に触れていないのが残念ですね。


2014/09/02

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-8

2014/09/02(火)

 動詞態の双対環を操作する のまとめを記載します。
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-1
(1)寺村本の例文を題材にして
寺村本:『日本語のシンタクスと意味 第1巻』寺村秀夫:くろしお出版:1982年11月10日第1刷/2005年1月20日第17刷
「第1巻」の第3章:態 の冒頭部分にある例文を題材にして「態の双対環」を使う練習をしてみよう。
①太郎が浜辺で亀をつかまえた。(つかまえた:能動態・他動詞)
②亀が浜辺で太郎につかまえられた。(つかまえられた:受動態・他動詞)
③亀が浜辺で太郎につかまった。(つかまる:自動詞)
・「つかまえる」と「つかまる」の対応は一方を元に規則的に他を派生できる対応ではない。と明記してある。
〇「規則的に態を派生する」法則を前提にしていることが分かります。 第3章:態 の節立てが
・態-a.文法的「態」-①受動態②可能態③自発態④使役態
  ↘-b.語彙的「態」-⑤(同一語根から分かれた)自動詞・他動詞の対立
 という順序で著述されてある。
(語彙的態と文法的態に関わる接辞がほぼ共通であることに言及がない。残念ですね)
(2)「つかまる」と「つかむ」の態
〇「つかまえる」と「つかまる」は語彙が別なので、解説が出てくるのは語彙的「態」の節になります。
〇「態の双対環」方式になじまれた方々なら、
・能動つかむ→可能つかめる→結果つかまる→受動つかまれる の派生関係にすぐ気づかれるでしょう。
・能動つかまる→可能つかまれる→?結果つかまらる→?受動つかまられる(幼児の何気ない動作)
・能動つかまえる→可能つかまえれる→結果つかまえらる→受動つかまえられる
 語彙が別であることには、納得できますね。
〇「つかまる」の意味が「つかむ動作の結果」を表すと同時に、文語体時代の受動「つかまる:つかまれる」の意味を残しているからなのだろうか。

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-2
(1)寺村本の例文を題材にして:(受動態・可能態)
〇寺村本では「接辞」という用語を使わずに、~の形(受身の形)と表現している。(接辞は当方の記載法)
寺村本:受動態の形
態の接辞を動詞語幹につなげる手順が解説され、動詞V語幹の種別分けが示されている。
・V1:語幹が子音で終る動詞(五段活用動詞)
語幹+are(ru) 例:sinu→sin・are・ru
・V2:語幹が母音(i,e)で終る動詞(上、下一段活用動詞)
語幹+rare(ru) 例:sodateru→sodate・rare・ru
・V3:不規則動詞(サ行、カ行変格活用動詞)
suru→s・are(ru)
kuru→ko・rare(ru)
(2)寺村動詞態の残念な結果
〇寺村本では、動詞語幹のグループを3つに分けた。
・V1類:子音語幹、V2類:母音語幹、V3類:不規則動詞(か行、さ行不規則活用)
・この視点は素晴らしいのだが、それに接合する「受動態の接辞」に対して洞察が足りないのではなかろうか。
〇受動態の形をV1~V3語幹にあわせてローマ字つづりで示しているだけ。
〇「態の双対環」方式を提起する立場からみると、
・基本文法として「V1~V3語幹のどれにも対応できる接辞表記」にすべきだと助言したい。
 つまり、受動態の接辞=(r/s)ar・eru とすべきでしょう。
・(r/s):母音語幹にはrかsをはさみます。子音語幹にはrもsもはさまない。
・aru:動作結果の状態を表します。深層含意は文語体での受動態を表す接辞です。
・eru:可能態、自発態などへ転換する接辞。
〇寺村本では「態の形態」で折角ローマ字つづりを使いながら、深層分析ができていないはなぜでしょうか。
・態の章の節立てですでに錯誤があり、文法的態を先行説明して語彙的態を後回しにしたことが間違いを呼んだかもしれない。

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-3
(1)寺村本の例文を題材にして:(受動態・可能態)つづき
〇寺村本の受動態:子音語幹+are(ru)/母音語幹+rare(ru)と解説する。
〇「態の双対環」では、受動態の接辞=(r/s)ar・eru に集約して考え、さらにaru:結果態+eru:可能態の合成で接辞ができたものと解釈する。
(2)「つかまれる」と「つかまれる」に有意差ありか?
〇寺村本では、「つかむ/つかまれる:受動態」と「つかまる/つかまれる:可能態」を比べている。形態として可能態もありうるが、通常は受動態と解釈されると限定している。
〇「態の双対環」としては、同形になったとしても、受動態も可能態もそれぞれ混同されず話されていると見なします。(つかまる自身が二義の語ですから、二義に対する生得の感性があるはずです。さらに「態の双対環」で根拠をつかめれば鬼に金棒です)

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-4
(1)寺村本の例文を題材にして:(受動態・可能態)つづき
(2)寺村本が見落したもの
〇寺村本の「態の解説」には、文法的「態」と語彙的「態」を考察してあり、両者の関連も大事との指摘がありますが、直接的に関連を証拠立てるような考察がまったくありません。
・語彙的「態」の解説で、自動詞・他動詞の双対生成の接辞において、「aru/eru」接辞の組み合せで「自・他の対」になっている動詞が一番多い。とありますが、この2つが合成された受動態:「ar(u)+eru」にはその合成に気づいていません。
〇意味の深階層で語彙的「態の接辞」と文法的「態の接辞」が密接に結びついていることを見逃しています。
(3)態の接辞自身の意味
寺村本では、動詞態を「接辞の意味」から解析する視点がよわいと思います。
○例文:可能態でも、受動態でも表現できる場合、
・どうしても行けない/どうしても行かれない
・そんなに一度に飲めない/そんなに一度に飲まれない と、両用される。
○とくに、成句では、
・泣くに泣かれぬ気持だった
・止むに止まれぬ気持から・・・
・言うに言われぬ苦しみを・・・ のように、受動形が固定している。
〇また、思考の動詞では、
・「思える」よりも、「思われる/思い出される/考えられる/信じられる」など「受動形」が多く用いられる。
○残念ながらその理由は説明なし。
(寺村本は可能態と受動態の意味の差がどれほど大きいのか理解できていないのでしょう)

 以上、まとめ追記したことがらを、以下の「態の双対環」操作で具体的に指摘しています。
日本語動詞:動詞態の双対環を操作-5
(1)寺村本の例文を題材にして:(受動態・可能態)つづき
(2)態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」を解明する
(3)「態の接辞の意味」一覧表

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-6
(1)動詞態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」の連係を解明する(つづき)
(2)各接辞冒頭にある「+(r/s)」の用法
(3)r/sの意味は重要です

日本語動詞:動詞態の双対環を操作-7
(1)動詞態の接辞:文法的「態」と語彙的「態」の連係を解明する(つづき)
(2)関西語の+(r/s)接辞
(3)態の全体構成を習熟するには

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