日本語動詞:自他対応解析表を読み解く2
2014/09/12(金)
(1)吉川武時「動詞の自他について」web資料を参照して
前回の自他対応解析表の原本はインターネット上の検索で確認したものでした。同時に「動詞の自他について」資料も入手しました。
吉川web資料では、自他対応表の11種類の自他動詞の対応形式を詳細に説明し、自動詞構文、他動詞構文を比較しながら補語の対比をしています。
(前回、自他対応解析表で簡略的に自他構文を補語付きで示したのも同じ目的です)
〇吉川資料で目を引いたのは、自他対応の形式が必ずしも自動詞1:他動詞1の1対1ではなく、1:2、2:1(枝分かれした右フォーク型、左フォーク型)があるという発想で説明しています。
〇フォーク型:
・つながる:つなぐ、つなげる(1:2)
・つかまる:つかむ、つかまえる(1:2)(注:つかまえるは語幹が異なる筋違い)
・つむ:つめる、つます(1:2)(注:つますは強制系:他動詞つめる:と意味合いが異なるフォーク型)
・やすまる、やすむ:やすめる(2:1)または、やすまる:やすむ、やすめる(1:2)
(注:辞典では、休む:自動詞のあつかい)
・ちぢまる、ちぢむ:ちぢめる(2:1)
・まざる、まじる:まぜる(2:1)
・とける:とく、とかす(1:2)(注:意味の違いでフォーク型)
(2)自他フォーク型に「態の双対環」で備える
吉川資料のフォーク型を見ていて、すぐに「態の双対環」方式での操作を思い出されるでしょう。
〇フォーク型とみなす動詞が適切に選ばれているのか、思考実験してみましょう。
〇「態の双対環」を略式表記するため、記号を導入します。
・<>:このひし形を「双対環」とします。
・受動態を記入しないとすれば、結果<能動>可能、強結<強>強可という形式で「双対環」を記号化ができます。
・そこで自他対応表には、さらに簡略化して、自動詞と他動詞の位置だけを解析して、自・他の文字を配置します。
・以下の①~⑫は自他対応の分類グループ番号です。まず簡略表記の見方を説明します。
〇例として①を説明します。簡略表記は:自<他> です。
・自<他>:一つの能動系「双対環」で自動詞は結果態、他動詞は能動態の形態で自他対応している。
〇簡略表記による自他対応分類:
①aru-u:自<他>
②aru-eru:自<>他 ←推測:最多群の威力を感じて「双対環」で可能態/結果態対応を採り入れた。
③u-eru:<自>他
④eru-u:<他>自 ←推測:eruの原意は可能、自発、変化?
⑤eru-asu:<>自・<強>
⑥reru-su:<>自・<他> ←推測:<古自r>・<他s>だった?
⑦u-asu:<自><強>
⑧iru-asu:<自><強>
⑨iru-osu:<自><他>
⑩ru-su:<自><他>
⑪ru-seru:<他><>他、<自><>他 ←推測:<自他r><古他s>→<r><s>他
⑫eru-yu:<古自>新自 ←推測:eruの意味を解析するうえでも派生原理を調べたい。
(3)自他識別の有標と無標
自他対応グループの簡略表記を一覧すると、
・①~④では「双対環」が一つで自他を産み出しています。
・⑤~⑪では自動詞「双対環」と他動詞「双対環」が別々に存在します。(互いが独立の「双対環」です)
自動詞「双対環」の接辞には「r」が含まれ、他動詞「双対環」の接辞には「s」が含まれています。自他が別の「双対環」でしか表現できないこと:これを(自他識別の)有標と呼びます。
〇自他対応を識別する文法則としては、⑤~⑪の動詞群だけならば楽勝ですが、①~④の動詞群も多く存在するので難渋しているわけですね。
・とくに③、④では無標で、かつ接辞形態が同じでも自他が逆になっています。(②③-④⑤⑥の相反)
・フォーク型は、⑨起きる-起こす、⑩起こる-起こすのように1対1対応に直して考察する道もあります。
〇どの動詞に対しても、能動-受動/可能-結果の対応軸「双対環」と、その能動動作を相手にやらせる強制-強制受動/強制可能・使役-強制結果の対応軸「双対環」を必ず(試してみれば)生成できます。
・生成される動詞態はすべて独自性があり重なり合うことはありませんから、意味の独自性を比較考察するのに便利です。
・日本語学習者にとっても「態の双対環」方式は便利な学習道具となるはずです。
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