« 日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7 | トップページ | 2014年主要記事一覧表 »

2014/09/29

日本語文法:可能態の謎を解く

2014/09/29(月)

(1)可能態の謎とは

 謎を考察する前に、前回の投稿でいくぶん強引な「態の双対環」の操作をしたことに対して補足しておきたい。
〇不規則動詞:「する」の態活用:
・能動:する/可能:せる/結果:さる/受動:される (基本・本家筋の活用)という説明が強引にすぎるかもしれません。
〇通常、「する」の可能としては「できる」を想定します。
 ただ、「称する」の可能態としては「称できる」を奨められませんし、受動態「称される」が派生される道筋には結果態「称さる」が重要な要素です。
・同類の動詞に「見る、着る」があり、「見せる」、「着せる」への派生方法が「称せる」に適用できるのではないかと推測したのです。
・見る→見す→見せる(見す:消滅、古語辞典にあり)
・着る→着す→着せる(着す:消滅、古語辞典にあり)
〇水谷本が説明もなしに「称せられる」を載せるのは、使役?受動態:「称せられる」にしたからなのでしょうか。
 (見せる、着せる、は協同動作ですし、称せるも使役態ではないのに)
・これも可能態の謎の一つかもしれません。

 本題の「可能態の謎」に向かいます。
(2016年追記:[挿入音素]能動系 [-/r],、強制・使役系 [-/s] を一括で(r/s)と表記したが、近年は別表記に変更)
①可能態の形態:接辞 [-/r]e[r]-、は何から形成されたのか?
 (出自が分かれば意味もよく分かるだろう。また、可能態と受動態可能表現との意味の違いを明確にできる)

②自他対応に機能する動詞接辞:
・[-/r]ar[-]u:結果態・文語受動態の機能(結果の自動詞化、形態・意味とも明確)
・[-/s]as[-]u:強制態・文語使役態の機能(動作強制の他動詞化、形態・意味とも明確)
・[-/r]e[r]u:自他/他自交替:動作完遂状態・常態化の状態、または可能態?
(-e[r]u-:可能、自発の性情表現や動作完遂・常態化の表現などにも機能しており、つかみどころがない)
・謎①が解決すると謎②も解決する可能性あり。

③動詞語幹との接辞接合法:
・「態の双対環」では動詞語幹に接辞を接合させるという概念で、子音語幹、母音語幹どちらにでも対応できるように(r/s)挿入子音を接辞前に配置した。
・しかし、未だに学校文法も国語辞典も助動詞は(大多数が)動詞の未然形に接続すると記載しています。
 また、子音語幹の動詞だけに可能動詞、可能態を認めて、母音語幹の動詞には認めずに、受動態で可能表現させるという間違いを続けています。

(2)未然形と已然形(仮定形)
 ネット上の資料検索で「ことば逍遥記」ホームページをみつけました。
〇掲載記事に「已然形はどのようにして仮定形となったか」があり参考になりました。
->要点引用:古語:未然/已然
 未然は「いまだしからず」「まだそうなっていない」を表す。
 已然は「すでにしかり」「もうそうなっている」を表す。
・例文:仮定文形
 未然形・仮定条件:急がば回れ/毒を食はば皿まで/死なばもろとも/住まば都
 已然形・確定条件:犬も歩けば棒に当たる/立てば歩めの親心/住めば都、という条件の使い分けができた。
・母音語幹の動詞では未然形、已然形が同形になってしまうので、
 (未然形:食べらば、考えらばが流通しなかったので)
 否定形:食べなば・食べずば・食べねば とか、
 現代口語体では:食べるならば/食べるとすると/食べたとしたら 
 仮定形(已然形):食べれば と使い分けるしかないかもしれない。
〇現代口語体では已然形を仮定形と言い換えてしまったので、未然形に対する已然形の対立概念が薄れてしまった。
->要点引用おわり
大きな代償を払ったことになります。
・しかし、「住まば都/住めば都」の対立概念が不明確になったとしても、現用する仮定形で「住めば、食べれば」が表現する「動作の進行感」を感得できると思う。
〇已然もしくは既然「すでにしかり」という概念を表す機能力をもっているのが「仮定形」です。

(3)「已然形+る」が可能態の始まり

 已然形(既然形)語尾に「る」をつけた形が可能態の始まりであろうと推測する。
〇子音語幹の「住める」などは可能動詞の位置づけで定着したのだろう。(江戸時代から始まったらしい)
〇母音語幹の「食べれる」「考えれる」などは同じ「已然形+る」法則から生まれたものだが、(各地の方言では使われるが)可能動詞と見なされなかった。
・さらに不幸なことに、現在でも学校文法では「可能態」としてすらも認めていない。
・もっとも、見れる/来れる/食べれる などの表現は、一般世間では昭和の初め頃から「ら抜き言葉」と非難されても着実に「可能態」としての根を張って来ている。
(不規則動詞:能動:来る・くる/可能:来れる・これる/結果:来らる・こらる/受動:来られる・こられる、これも文法則の近接範囲にある態の活用でしょう)

(4)可能態の謎を解く
 可能態の謎①~③では、共通して態接辞(r/s)eruの形態のこと、意味のことを解明したいと述べました。
〇謎のすべては、忘れ去られた已然形(既然形)の概念を思い出して整理すれば解決するのだと気づきました。
〇謎の②については、接辞:-e[r]u- が「すでにしかる」「もうそうなっている」の意味で動詞語幹に接続するとき、
・自動詞に付けば「そうなるような動作をする」という他動詞生成の意味になり、
・他動詞に付けば「この動作でそういう変化状態になるよ」という自動詞生成ができる、ということです。
〇謎の①については、まさしく「已然形+る」から接辞:-e+[r]u-が作られ、
 可能態接辞:[-/r]e[r]u となったと見れる。
 (見れる:可能態:個人的に見なせるという意味です)
早く日本語教育界でこの可能態接辞が正しいものと見られるようになるとよいですね。
(見られる:受動態:誰からも、くり返し見てもらえるという意味です)
〇謎の③については、日本語学界が語幹の音素解析(ローマ字つづり)を徹底して、
 今後はひらがな解析を止めるのが根本治療だろう。

(5)可能態と結果態の対立概念も大事なり
 未然形と已然形(既然形)の「まだ/もう対立」概念が重要であるし、根源的に自他対応の動詞対を生み出す機能も果たしてきたと述べました。
〇「態の双対環」方式では、已然形機能を「可能態」が背負っていると見なしており、意味は「可能性状」と「動作の開始に取りかかる」の2つがあると見なします。
・さらに「可能態」と対立する概念として「結果態」を必須のものと考えて「双対環」を構成しました。
〇つまり日本語の動詞概念として、
 未然→已然(可能・開始)→結果(動作結果)という動作相を確実に表現できる体系が備わっているのです。
「態の双対環」を操作してみるとこの体系がよく分かります。
〇未然形では補語の交替がないので動詞の活用形のうちですが、
 可能・結果は補語の交替を起こす使い方ができるので「可能態」「結果態」と見なします。
〇さらに考察が必要なのは、「未然形+る」が「結果態」だと評価するならば動作相に矛盾があります。
だから、「語幹+ある」が結果態だと評価する。
 (「未然形+す」が「強制態」となる感覚はわかるのだが、、)
・古語時代に「語幹+接辞」の概念があったのだろうか?
 子音子音・母音母音の回避方法が存在したのに、文法則として公開記録にしていない。
 複合動詞の概念だったのだろうか?
・専門家による解析を期待したい。

 

« 日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7 | トップページ | 2014年主要記事一覧表 »

日本語文法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本語文法:可能態の謎を解く:

« 日本語文法『曲がり角の日本語』水谷静夫7 | トップページ | 2014年主要記事一覧表 »