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2014/11/07

日本語文法:結果態の謎3

2014/11/07(金)

 

(6)可能態と結果態の対立関係を再考する

 

 「可能態の謎を解く」での記述を再考してみます。
〇可能態=「已然形+る」であると解釈するほかに、「命令形+る」だという見方もあり、また、
・可能態=「連用形+ある」=「[-/(r/s)]i+ar[-]u」→「[-/(r/s)]e[r]u」という解釈法もありそうだ。
(イ音とア音の混合成によるエ音発生化)
・可能態が連用形:いままさに行うさまを言う形態と「ある」の組み合わせですから、可能態がもつ意味は「現実に動作する姿を見ている状態」を言うのだろう。
・こんな語感もあって、可能態に対し「動作の開始」を表現する態でもあると見なしました。
〇ともかく、可能態=「動詞語幹+[-/(r/s)e[r]u 」という形態です。
〇一方、結果態=「動詞語幹+[-/(r/s)ar[-]u 」は動作相に中立的に「動作の結果」を示す機能があるのだろう。
(2016年追記:能動系(r)、強制・使役系(s)を一括で([-/(r/s)]と表記したが、近年は別表記に変更:[-/r],[-/s],)

 

〇動作の「開始と結果」の意味対立 これが、可能態と結果態の対立関係というわけです。
・この対立軸を含めて「態の双対環」方式では新しい動詞態の姿を提唱しました。
(再考でも可能態/結果態の対立関係を有効な弁別軸だと思います)

 

(7)自他対応の接辞から学ぶべきこと

 

〇「態の双対環」方式では、「自他対応の接辞」が果たしている機能を感じ取り、その接辞機能が文法的態の生成に再利用されているのだと判断して、能動系と強制系を弁別した構成に整理したものです。
〇しかし、学校文法では文法的態として受動態、使役態を明示しますが、その接辞要素は、
・受動:[-/(r/s)ar[-]e[r]u 
・使役:[-/(r/s)]as[-]e[r]u です。
文語体での受動:ar[-]u、使役:as[-]u の機能・形態は、現在でも自動詞、他動詞の単語語彙の中に生きている。それを顧慮しないで、文法(諸学者)が新しい口語体の受動、使役の成り立ちを説明できないでいる。
〇「態の双対環」方式では、原初である「自他対応の接辞」の、
・可能:[-/(r/s)]e[r]u ,
・結果:[-/(r/s)]ar[-]u ,
・強制:[-/(r/s)]as[-]e[r]u ,
各要素が合成されて文法的態の接辞になっていると見抜きました。
つまり、
・受動態は結果+可能の接辞合成で、
・使役態は強制+可能の接辞合成です。
さらに、文法的な態の活用が多重化すると、
・受動使役:[-/(r/s)]ar[-]e[s]as[-]e[r]u,
・使役受動:[-/(r/s)]as[-]e[r]ar[-]e[r]u,
・強制受動:[-/(r/s)]as[-]ar[-]e[r]u,
などの形態も接辞合成されて日常的に使われるのだと想定します。
〇短い音素の接辞ですが、明確な機能を持ちます。事態を分析的に解釈して「接辞」を組み立てて動詞の態述語を言語表現しているわけです。
〇これほど分析的で説得性のある日本語の動詞態に対して、この文法則を整理して一覧表で明示しないのはもったいないことです。
・国語辞典でも「助動詞の一覧表」を充実させる方針にすべきでしょう。一覧表が身近にあれば疑問が起きたときに見直して考える手掛かりになります。
(現在の日本語教育の現場に受け入れられるかどうかにかかりますし、国語学者の分析力が原初の自他対応の接辞に立ち戻り、たとえば次の例文をどう評価するでしょうか)
・見れる、食べれる、来れる:論理的で分析的で正しい「ら抜き言葉:らなしでよい言葉」です。
・休まさせる、食べささせる:二段使役:下請け→孫請けで動作をやらせる意味での正しい「さ入れ言葉」です。
・入れれれば:入れることができればの意味、正しい「れたす言葉」です。
〇上記3例ともにすべて可能態の使い方によるものです。正しく分析できれば折り合いがつくはずです。

 

(8)結果態、受動態に何を思うか

 

 受動態は「結果+可能」接辞で表します。「動作の結果でそうなっている状態」だという原意です。
〇それゆえに受動態は受身形専用の形態ではなくて、
・直接受身・間接受身/結果的可能、社会的可能/自然発生的可能、他力的可能/尊敬表現などの場面で使われる動詞態です。
〇寺村秀夫本『日本語のシンタクスと意味 第1巻』の例文:
・「殿が傷を負われたぞ」:尊敬表現(負傷の結果になられた)
・「素人には虎は育てられません」:結果的、社会的な不可能表現
〇小島剛一本『再構築した日本語文法』の例文:
・「今晩は、ある人に食事に招待されているんです」:情動相「招待される」から結果相「招待されている」が派生、と解説あり。
(受動態の受身形で情動を表す文のみを情動相と呼ぶ。それ以外を疑似受動態と見なして他言語の受動態と同様の扱いらしい。疑問です)

 

 日本語は、もともと「場の表現」にこだわる言語ですから、尊敬・謙譲表現や「やりもらい表現」、膠着語に現れやすい「金魚のふん構文・のらりくらり構文」などの情動的、情緒的な側面を持っています。
〇受動文にかぎらず通常の文章でも文末に感情表現である終助詞:ね、よ、だろ、だわ、などを付加しています。
〇明治以来、他言語と渡り合ってようやく動詞態接辞を分析的な運用に耐え得る構造に作り上げて来たのですから、正確に理解して使い分けていきたいですね。

 

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