日本語文法:日本語をどう見るか7
2014/12/23(火)
(14)述語文節:動詞態を正しく見ること
前回に記述した「述語文節の区切り方」の不統一はそれぞれの文法学者が異なる文法体系を基にしているからでしょう。
〇文節区切りが大事なことは、文章を正しく解釈する基礎になるだけでなく、詞・辞の切り分け、単語の切り出し、品詞分けする基礎になるからですね。
・学校文法(大槻文法、橋本文法)が:「行か+せ+た+から」と切り、四語としたのは、単語:行く:を切り出す根拠に従ったからでしょう。
現在の国語辞典での見出し単語が「行く」にとどまり、行かす、行かせる、などは見出し語にしない理由なのでしょう。態活用などを助動詞という品詞に分けて別表一覧にする方法で解決していますが、十分な解説がありません。
・いや、間違いがあります。
〇「れる/られる」の二つを同列に一緒くたにして受動態(可能、尊敬、受け身)助動詞と見なしてはいけません。
「れる」可能系統と「られる」受動系統は異なる派生ですから混同してはいけないのです。
〇100年前から現在までも「れる」と「られる」を混同、同一視した間違いの説明が続いています。
正しくは、
①「eる/れる/せる」:可能態の助動詞です。受動態とは違います。可能態として独立させるべきものです。
②「aれる/られる/される」:受動態、結果的可能、習慣的可能、尊敬、受け身の助動詞です。
①「eる」は子音語幹の動詞に接合する可能の接辞:読m・eる、であり、
「aれる」は子音語幹動詞に接合する受動の接辞:読m・aれる→読m・ar・eる、です。
②「れる」は母音語幹の動詞に接合する可能の接辞:食べ・れる→食べr・eる、であり、
「られる」は母音語幹の動詞に接合する受動の接辞:食べ・られる→食べ・r・ar・eる、です。
〇基本的な態接辞を音素解析すると、受動には「ある:aru」を含んでおり、きちんと区別できるのに、100年間以上も識別されずに混同されっぱなしで継続されています。
(きちんと区別する地方もありますから、心強いですが)
(15)述語文節に後続して延長するもの
さて、述語文節ではもっと大きな問題を抱えています。
〇例の述語文節へ少し言葉を追加して、会話文の言い終わりの形式にしてみましょう。
・例:「~行か・せ・てあり・まし・た・のです・から・ね。」
〇日本語文の述語部分にはこのような活用接辞が膠着しています。
・動詞述語文:~動詞・態(+相)・措定辞・打消・時制+措置辞+接続辞+終助辞。
〇形容詞述語文でも、
・例:「~強・く・な・かった・はず・です・から・ね」
・形容詞述語文:~形容詞・措定否定・時制+措置辞+接続辞+終助辞。
〇名詞述語文でも、
・例:「~文法解説・では・ない・のです・から・ね」
・名詞述語文:~名詞+措定否定・時制+措置辞+接続辞+終助辞。
〇述語文の機能要素を連結して明示したが、「+連結」は単純なつなぎ込みを、「・連結」は語幹/語頭を調音つなぎ(挿入子音/母音)する密な接合活用です。
日本語の構文の最後は述語文節なのですが、通常ではそれに後続して措置辞(急造語です)が付加されることが多い。
・措置辞:「~のだ、~はずだ、~つもりだ、~ようです」などの形式名詞を使って文意をまとめあげる辞。
〇角田太作:人魚構文「太郎は明日大阪へ行く予定だ」に付いて、「太郎=予定だ」だから変だと提起して世界中の言語調査をしたという。
〇普通の日本人は、時枝文法:入れ子型構文方式を知らず知らずに身につけているから、
・「太郎は←[[太郎が明日大阪へ行く]←予定]だ」と理解することができる。
つまり、「太郎が予定」だとは思わない。
〇理由を思考実験してみる。
・述語文節で終わるなら、金谷式の盆栽型文型で説明がつく。しかし、その後に続く文節をどう仕分けますか。
また別の視点でみると、
・入れ子型に入る文節は、例えば、住所表示・年月日表示のように大きい意味の単語が最初、段々小さい意味の単語が入ります。反対に入れ子を収納する次の入れ子箱は必ず段々大きくしなくては入らない。
この矛盾を承知の上で日本語構文はできている。
長くなったので先を急ぎましょう。
〇措置辞は、述語部分が完了したあとに付加されてその文全体の「あつかい」を明示するような働きをします。
・つまり、[太郎は明日大阪へ行く]という内容がすっぽりと大きな箱:[ 予定]だ>にくるまれる。
話し手も聞き手も同時に「予定」なのだと思い描くことになる。形式名詞と言えども思い描くものが共通になる。
・もし、「~行く」で終了してしまうと、聞き手は「行くのに飛行機か、新幹線か」などと考えてしまい、両者の間で思いが共通化しない。
〇入れ子型構文での措置辞の役割は、文全体に対する話し手の「扱い方・姿勢」を書き記した外装箱のようなもの。話の目印になる包装箱のようなもの。
・または盆栽型文に対しては、述語文節の盆栽鉢の脇に措置書きの「扱い方・姿勢」を記した銘板を立てたようなもの。
(盆栽鉢「太郎は明日大阪へ行く」の脇に「予定だ」の銘板が立てられている図を思い描く)
〇述語文節のあとに措置辞:形式名詞の看板を掲げる方法は、話し手、聞き手に共通の思いを想起させる手段であり、まさに金谷武洋本が言う:「日本語は同じ方向を共視する言語」の見える仕掛けそのものであろう。
2015/01/11(日)
追記:(16)逆に述語文節の短縮化もあり
〇角田太作:人魚構文「太郎は明日大阪へ行く予定だ」の「太郎=予定だ」に関して追記しておきたい。
・太郎は予定だ、ぼくはウナギだ、形式の構文は、逆に述語文節を短縮化したものです。
・名詞文などでの「述語:~だ」を西欧語の文法から借用して「繋辞・けいじ:コプラ」と呼んだりするが、日本語では通常の述語となんら変わりはない。繋辞だと説明すると逆に誤解を生じるだけです。
・料理を注文する状況であることが共通認識された場では、「ぼくはウナギを注文するよ」を「ぼくはウナギだ」と短縮化することはどこの国でもあることで、融通の利く言語ほど短縮化するのかもしれません。
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