日本語文法:自他対応接辞と動詞態7
2015/01/25(日)
(8)自他対応接辞:態の双対環図が意味するもの
今回も本屋の店頭で立ち読みした本をはずみにして書き始めます。
加藤重広:『日本人も悩む日本語~ことばの誤用はなぜ生まれるのか?~』:朝日新書:2014年10月30日第一刷発行
加藤本の第一章のはじめに「ら抜き言葉」について記述があります。
・その論調は世間常識とほぼ同じか、少し劣るかくらいに「ら抜き」を生殺し程度にしか認めず、格式ある文体にはそぐわないとの見解です。
昨日今日に始まった問題ではないのだから、働き盛りの言語学者ならばもう少し掘り下げた論理を展開してほしいと欲目で思います。
全編で多数の誤用、混同を論じているが、白黒はっきりさせるのではなく軍配預かりの論調です。
動詞の態について言えば、、、以下思考実験へ入ります。
3回目に掲載した自他対応接辞「態の双対環」演習図を別掲示しました。(図の後尾に説明を追記)
自他対応接辞:態の双対環演習図改 参照
いま、この「態の双対環図」を眺めると、そのなかにたくさんの文法的宝物が隠れているのだと痛感します。
ここ1、2年間の思考実験の各段階で浮かんできた「妙案だ!」と思い付いたこと、それらの発想は、実は双対環図のなかに盛り込まれてあったものなのだと思い至ります。
〇思考実験は、次の疑問から始まりました。
①動詞の自他対応を模型的に理解する方法として、直線上に受動態、可能・自発態、自動詞、他動詞、強制態、使役態が一列に並ぶと見なすのが伝統のようだ。
しかし、一列構造では、自・他動詞、強制、使役の動詞自体がともに直接的に受動態へ派生できることを説明できないのではないか。
②可能動詞・可能態を派生させる方法が子音語幹の動詞だけに限定して、「+eru」を付加して作るという。例;書ける、読める、立てる、泳げる、呼べる、切れる(切れるはkirが語幹だから、~れるが現れるが、それ以外は現れない)。
しかし、母音語幹の動詞に「+(r/s)eru」を付加して作る、食べ・れる、見・れる、着・れる、などを認めないのはなぜだろうか。「来・れる」も不規則動詞の可能態へ正しく活用を働かせる法則範囲にあると見なせるものだろう。
食べれる、見れる、着れる、来れるを捨て去り、食べられる、見られる、着られる、来られるだけを、書ける、読めるなどと等価だとする言語感覚には共感し得ない。
等価なのは、書ける、読めるに対して食べれる、見れるの形態であり、また、書かれる、読まれるに対して食べられる、見られるが対応する形態なのです。意味の対応もこれならば釣り合います。
〇思考実験の最初の山場と感じたのは、自他対応の接辞が動詞態につながる助動詞と重なるものだと得心したときです。
・自他対応接辞の対構造:見つめていると
・能動の自他対立(語尾の音素)→自動詞:ru/他動詞:su
・動作を完結するの自他対立→自分完結:aru/他人任せ:asu
・動作の完結と開始の自他対立→完結・自動詞:aru/開始・他動詞:eru
(aru/eruの自他対応の組み合わせが一番多いというが、eru接辞の意味は謎めいている)
〇思考実験が「態の双対環」へ到達したときには、
・完結、結果:aru←文語体の受動であり、
・他人任せ、強制:asu←文語体の使役であることに気づいた。
・口語体では、ar・eruで受動、as・eruで使役を表す。
(eruが口調合わせの便利接辞として使われる)
これで自他対応接辞が動詞態のための助動詞へも利用されてきた証拠を見つけたことになる。
〇「態の双対環」を操作して多数の動詞を思考実験してきて分かったことは、
・可能接辞:(r/s)eru の意味を整理できたと感じる。2つの機能がある。
①可能態としての機能:
・江戸時代:無対自・他動詞の子音語幹動詞に付加した:読める、書ける、歩ける(可能動詞)
・昭和時代:全動詞の子音・母音語幹の動詞に付加した:渡れる、食べれる、来れる
(明治時代も含む)
②自他対応、自他交替の接辞としての機能:
・有対自動詞に付加した:立つ→立てる:他動詞に交替できる。(可能自動詞の意味もあり)
・有対他動詞に付加した:割る→割れる:自動詞自発に交替できる。(可能他動詞の意味もあり)
〇「態の双対環」を眺めて思考実験を進めると、
・可能態には深層心理として2つの意味を表しているのではないか、と感じる。
①第一の意味は、
・人がその動作ができる:可能の性状表現の意味:「漢字が読める」
・物がその動作に適した機能を発揮できる:自発の性状表現の意味:「ナイフが切れる」
②第二の意味は深層にあり、
・「目前の動作」が可能だとの意思/意図の表明:
・「目前の動作」に取りかかったとの表現にも使われるのではなかろうか。
(動作の開始を示唆する)
〇可能態と受動態の可能表現の意味は、
・使える:目前の動作:使うことができる。
・使われる:結果可能、習慣的可能。世間で繰り返し実行可能。
のように大きな違いがある。
« 日本語文法:自他対応接辞と動詞態6 | トップページ | 日本語文法:自他対応接辞と動詞態8 »
「日本語文法」カテゴリの記事
- 「またく心」とは「待ち焦がれる心」のこと(2024.09.15)
- 「新手法」の用語(4):活用節=(体言/用言)[連用/連体/終止](2024.08.29)
- 「新手法」の用語(3):-e[r]と-ar[-]uを分かる知恵(2024.08.28)
- 「新手法」の用語(2):主部律と述語律(2024.08.27)
- 「新手法」の用語(1):膠着方式(2024.08.26)
コメント