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2015/04/20

日本語構造伝達文法12年版を独習する6

2015/04/20(月)

(8)再び国広哲弥著作

 今泉ネットPDF本「日本語構造伝達文法」にたどり着く直前には、国広哲弥:『日本語学を斬る』研究社:2015年1月30日初版を図書館で見つけて、
日本語文法:動詞の原形語幹とは3 で検討しました。
今回、図書館で見つけた国広哲弥:『新編 日本語誤用・慣用小辞典』講談社現代新書:2010年1月20日第一刷 を借り出しました。
・「ら抜き言葉」、「さ入れ言葉」に関する記述を読み込みました。
・『小辞典』が5年前の出版ですから、『斬る』論点の土台になっているわけです。
要点を抜き書き:
〇可能形は五段活用動詞の「ラ」抜き形により江戸時代から始まった。(可能態動詞)
・その後、一段活用動詞にも「ラ」抜き形が数十年来わたり広まってきたが、批判が絶えずに出ている。
・のちには正用法になる言語変化も最初の段階では誤用扱いなのが常である(参考:井上史雄『日本語ウォッチング』岩波新書)。
との記述がある。
〇あとがきにも
・誤用の横綱格である「ラ抜き」と「サ入れ」を説明する際に動詞の語幹を母音語幹と子音語幹に分ける考え方を導入した。
・これは学校文法、国語辞典での奇々怪々(語幹無し動詞など)な問題点を改めさせることにつながる、とある。
問題点①語幹のない動詞?、
問題点②五段活用動詞を完了「た形」にすると詰まる音や跳ねる音が入るのはなぜか、
問題点③未然形に1:ぬ、2:ない、3:受動・使役、4:お・よ(意向・勧誘)の4つの語尾を一枠に集めるのは間違い?、
などを簡潔に説明してある。

(9)国広本の立ち位置

 国広『小辞典』の本文、あとがきを読んで、少し『日本語学を斬る』の論旨も分かりやすくなりました。
〇国広本の動詞形成の仮説は、
・「動詞語幹+助動詞+(助動詞)・・・」の結びつきで、母音重連や子音重連は避ける(後音脱落、詰まる音、はねる音)音便法則がある。
・態助動詞の場合、後音切り捨てを仮説として採用する。
・「書く」+「られ」→kak-rare-ru→kak-are-ru→「書かれる」
・「書く」+「れ」→kak-re-ru→kak-e-ru→「書ける」(書かれるに比較して「ら」抜き形)
・(陰の声)「られる」と「れる」を全く別々の助動詞と見なした扱いになっている。(学校文法との決別)
 (本当は書ける:「ar抜き」形です)仮説の突破貫通力は大きいのだが、(r)音、(s)音を必ず接辞頭部に付けておく理由はなんなのだろう? 母音語幹動詞に対して原形語幹化にするための準備ではなかろうか。
〇使役形「読ませる」を「読まさせる」と言うと二重使役形になってしまう。
・ただ「さ音」が入ると使役感覚が補強できるのでそれに引かれているのだろう。
・(陰の声)二重使役の誤用を認めずに、強制形「読ます、読まして、読ませて」を慣用するほうがよい。
という立ち位置なのだと理解しました。

(10)文法の論理性

 「態の双対環」を試行実験してきた視点から見ると、国広本の立ち位置に違和感を持つところがあります。
 問題点①~③については同感ですが、
〇文法の論理性から考えて、「ら抜き」工作した結果により可能態動詞が誕生したとは思えない。
・可能形が「ら抜き」で誕生するなら、母音語幹動詞の「食べられる、見られる、着られる」などで「ら」が目立ちますから、最初に「食べれる、見れる、着れる」が定着していくはずでしょう。
〇口語体化が進む時代、融通の利く語尾接辞として「~える:eru」が意識的に多用されたのだろう。
・文語体の受動:「る/らる」、使役:「す/さす」に対して、
 口語体の受動:「れる/られる」、使役:「せる/させる」、
と言う「eru付け変換」が発生した。
〇可能形は意図しない内に結果的に受動態動詞から「ar抜き」した形態に見えます。公的な指針で「ar抜き」が進んでいたならば、よかったでしょうが。
・読める→読m・(ar抜き)・eru、書ける→書k・(ar抜き)・eru
・食べれる→食べr・(ar抜き)・eru、見れる→見r・(ar抜き)・eru、
〇「ら抜き」現象と命名すること自体が、文法的には的外れの判断と言えるでしょう。
・可能態は「ar抜き:結果態抜き」の単純に意思・意図としての可能を意味します。
・受動態の可能は「ar付き:結果実績あり」の可能を意味します。達成完了動詞です。
〇国広本での態接辞に対するローマ字解析は、語幹と接辞の接合に際して「子音の切り離し」を簡単にするために「ひらがな」と交替させただけのような扱い方です。
・態接辞:aru、asu、eru、ar・eru、as・eruの構造や意味を説いていません。
〇思考実験「態の双対環」では動詞の自他対応、使役交替の深層構造を検証して、語彙的態の接辞が休m・eru/休m・aruのように子音語幹と直接接合して多数の動詞を派生させる事実を見てきましたからね。
〇学校文法(の間違い)は、動詞活用の未然形に接続させると言う無謀な論理です。
・受動態:書か・reru→書ka・reru→書(ka?)reru?→論理破綻。
(書k:原形語幹+ar・eru←論理成立)
・受動態:食べ・rareru?→食べ(r)+ar・eru→論理成立。
(食べ(r):原形語幹+ar・eru←論理成立)

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