日本語動詞:可能態と受動態の可能表現の差
追記はじめ-
★★→投稿本人注:2015/11/16:動詞基幹の概念を廃止します。態接辞にしか通用せず、動詞活用接辞、助動詞接辞などを含めて通用する概念としては、「動詞語幹+挿入音素+機能接辞」の全体構成から「動詞語幹+挿入音素」の部分を「機能接辞」と接続するという解釈がよい。(一般化した「動詞語幹+挿入音素」は子音終わりの基幹形態にならない場合もあるから)
追記終わり-
2015/10/29(木)
「態の双対環」質問箱の最後として、可能態と受動態の意味の違いを整理してみよう。
★「可能態」と「受動態の結果可能表現」との意味の違い。
・「態の双対環」によって、主体と態の関係図の全体を一覧すると、視点が整理できる。
〇つまり、受動態の結果可能表現とは、動作主体が使う場合しかないということが明確に分かる。
・能動的側面で能動者が「受動態で表現する」ことが「可能(結果可能、実証的可能)を説明する形式となる」のだ。
〇従来の「受動態の解釈」には、3主体領域に重なる多義的な側面を「一括り」に捉えていたが、共通する深層の意味と接辞要素の結びつきについて解明していなかった。
★可能態接辞:e.r-は「動作意図、意思」としての可能性であるのに対して、
・受動態接辞:are.r-は、結果態接辞:ar-と可能態接辞:e.r-の合成だという形態上の違いがあり、このため、「結果の意味付け」を余さず解釈しようと提唱したい。
・結果態を表舞台にあげているのは「態の双対環」しかないかもしれない。「ar-」が大事な接辞だからだ。
★「ar-」は「ある」につながると見抜いたのは、
=時枝誠記が初めてかもしれない。残念ながら「ひらがな解析」の立場だった。
=金谷武洋『日本語に主語はいらない』も「ある:人為を超えた存在」と「す(る):人為的意図的行為」の対向関係でとらえており、当方は深い示唆を得た。ただし、「受動-自動-他動-使役」一直線形式での説明に留まり、可能、結果に力点がないのが残念だ。
=寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味Ⅰ』は受動態、可能態を精密に考察対象にしているし、文法的態と語彙的態(自他交替機能)をそれぞれ明確にしているが、両者の態関係の近さを指摘するだけで同一もしくは再利用しているとの明言がない。
=中島文雄『日本語の構造』は受動文の本質が自発表現(もしくは自発からの発展)であると論じて、日本語の特徴を解釈している。可能動詞は四段活用動詞の仮定形に「る」をつける形態で江戸期に始まり明治期に確立した。一段動詞でも戦後には「来れる、見れる、食べれる」などが広がっている、と説いている。
=大野晋『日本語の文法を考える』では、動詞の表す動作が自然に成り立ち、自然に行われるのか、それとも誰かが作為的にするのかを表す方法として、受動、使役のほか、動詞自身で「る/す」の語尾を付けて表す。
動詞述語の発話順序:動詞(動作・状態)に付加するもの①自然・作為(自他、態)②尊敬③確定・不確定・否定④意思・推量⑤相手への働きかけ、と解説している。
=小島剛一『再構築した日本語文法』では、受動態を「情動相」と「疑似受動態」に区別します。翻訳調になる受動態表現を「疑似受動態」と呼び、日本語特有の「制御できない他者の行為や状態推移に起因する迷惑または喜悦など」の情動の表現を「情動相」と呼びます。(いくぶん主観論で限定的過ぎる気がします)
★「態の双対環」も思考実験を繰り返してたどり着いたところは、
・「態接辞の根源は、自他交替・語彙的態接辞から選ばれた接辞が文法的態接辞として再利用されている」
・「だから、動詞と態接辞の接続方法は、「動詞基幹(動詞原形語尾子音まで)+態接辞」となるはずだ」
(動詞活用・未然形接続から完全に脱却するには、発想転換した「動詞基幹と態接続する方法」しかありません)
--冒頭の追記注を参照してください。
・「つまり、動詞述語を生成する手順は、①態動詞を生成、②動詞活用形選択(確定・否定・推量・修飾)③終助詞という段階を経て行われる」
★受動態接辞の「ある=人為を超えた、自然の成行き、自発的」と見るのは文語時代に戻るなら別だが、口語時代で、かつ情報可視化の時代では通用しない解説法だろう。
★受動態接辞の「ある=自然、作為に関係なく動作や状態変化が(眼前にまたは脳裏に結果・推測として)ある」という深層意義を持つと考える。
繰り返しになりますが、
★日本語の受動態は2つの原理的特長をもっている。
〇受動態は「動作の結果や変化の結果」を表現する形態なので、自他動詞、使役動詞などほとんどの動詞から生成できる。(構文主体には登場人・物なら誰でも立てる)
〇受動態は「動詞原形+ある・あれる」の形態なので、時制に自由度がある。将来の動作結果を洞察する表現にも使える。(西欧語の受動態はbe動詞+動詞過去分詞の形態が多い)
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