日本語動詞活用:古語辞典
2015/11/28(土)
今月に入ってから動詞活用を再考察している。
『助動詞活用表』を各種の国語辞典で比較したり、今週になって古語辞典での『活用表』を調べ出したりしている。
近くの図書館に『岩波古語辞典補訂版』:大野晋他2者:1974年12月第一版、1990年2月補訂版、2000年10月補訂版、があるのに気づき確認しました。
〇辞典後部の付録には「基本助動詞解説」が多くのページ数にわたり詳細に記述されてある。
★助動詞を類別区分して、
--引用はじめ(抜粋的)---
・第一類:使役、自発、可能、受身、尊敬、
:す、さす、しむ. る、らる、(ゆ)、(らゆ)
・第二類:尊敬、謙譲、丁寧
:たまふ、たてまつる、きこゆ、まうす、はべり、さぶらふ.
・第三類:完了、存続
:つ、ぬ、り、たり:甲、
:ざり、べかり、まじかり、めり:乙
・第四類:打消し、推量、回想
:ず、じ、まじ、(ましじ)
:む、らむ、けむ、らし、まし、べし、なり、き、けり
・別類:指定、比況、希求
:なり、たり、ごとし、まほし、(たし)
--引用おわり--
という分類番号を付けて用法を注記してある。
★常に1、2、3、4類の順に接続、配列される。欠けてもよいが逆順になってはならない。
★可能、受身:る、らる、につく「る」は自然展開的、無作為的であることを動詞に追加する役目を帯びている。
★使役:す、さす、につく「す」は人為的、作為的の動詞の意を示す。
★自動詞・他動詞の対生成と受動、使役の助動詞(態)接辞の機能の関係性を認める記述がある。
私には古語助動詞の使い方や意味の感覚が残念ながら身についていないながらも、助動詞を意味のうえで区分し記述順序を明示するという抽象概念は理解でき、強く共感します。
動詞全活用段階を①態活用段階、②動詞活用段階、③助動詞活用段階と言いたい立場にいますから、
・古語辞典の一類=態活用段階、次に動詞本来の活用:動詞活用段階があり、次に古語辞典の二類~四類=助動詞活用が続くのだという都合よい想定ができそうです。
『岩波古語辞典』の助動詞活用の考え方も鮮明な方向性があります。これに理解を示す人も多くはないのでしょうが、尖ったよいものは発展させていきたいですね。
『基本助動詞解説』で動詞語尾「る」:自然展開的、「す」:人為的作為的という対向関係の記述を見ていて、金谷武洋『日本語に主語はいらない』講談社選書メチエを思い出しました。
金谷本の第五章「日本語の自動詞/他動詞をめぐる誤解」の14節「日本語の態を示す連続線」を読み直して気づきました。記述のなかに『岩波古語辞典』発案の動詞見出し語に終止形でなく、連用形を採用した利点を感得なさって、金谷自身の論考の中で次の方針で考察したという。
---引用はじめ---
(あ)(かな書きでなく)訓令式ローマ字で表記する。
(い)(終止形ではなく)連用形を使用する。
(う)自/他動詞はお互いに形態的対立を持つものに限り、しかも片方が「す」か「ある」かで有標である場合、それだけで自他はそれぞれ同定されるから、ペアのもう一方は考慮外とする。
(え)自/他動詞の考察をより広範な態(ヴォイス)の一環として捉える。
---引用おわり---
『辞典・解説』の意図が活かされていると実感できて頼もしいですね。
〇ただ、自他動詞と態のとらえ方として「一本の連続線上に配列する」とする概念には矛盾と無理を感じます。なぜなら受動態は自動詞にも他動詞にも使役動詞にも受動態派生することができます。二本線とか環状線とかの模式化が必要なのではないか。
〇また、動詞語尾の「る」と「す」の対向関係を自動詞/他動詞の対向関係と見るだけでなく、態の「受動」と「使役」の対向関係で見立てることもあり得るだろう。
★「態の双対環」での考え方:(自他動詞の識別を目指すのでなければ)能動系として「る」も「す」も一括りにできる。
・能動系「-ru」・「-su」:自律、自力の動作や行為を表す動詞につく。
(「す」は他動詞に多い)
・結果態「-aru」:動作や行為の結果(完了、完了推測を含む)を表す動詞をつくる。(←文語受動態)
・受動態「-areru」:動作や行為の結果(完了、完了推測を含む)を表す動詞をつくる。(口語受動態:結果態と可能態の合成)
・強制系「-asu」:他律、他力での動作や行為を強制する動詞をつくる。(←文語使役態)
・使役系「-aseru」:他力での動作や行為を強制的に実行させる自律動詞をつくる。(←口語使役態:強制態と可能態の合成)
〇日本語の特徴は自然中心とはいえ、自動詞でも他動詞でもその動詞の意味の解釈には「人間の動作意図」を第一には均等に見比べてから、行為の自律/他律による動詞か、変化状態の動詞がどう影響するかなどをくみ取る視点が必要だと感じる。
〇態が替わるとは、構文の主格主体を入れ替える動詞表現になるわけですから、「動作意図」の焦点変化にも注目すべきです。
★日本語構文の場合、動作主体は全系の態動詞のどれでもを述語にできます。被動作主体や事象主体は能動態、強制態、使役態を除いた各系の(可能態、)結果態、受動態のどれでもを述語にできます。
参照:日本語動詞:可能態と受動態の可能表現の差
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