日本語動詞:「態文法」を考える:追思考
2016/09/19(月)
「態接辞の種類と意味を考える」節の最後にまとめの要約として説明した部分
を抜粋すると、
〇原動詞に対して、態接辞がもたらす動詞性意味を示す。
・原形態(u):「~をする」
・可能態(e[r]u):「~をなす、なせる」←「なるようにする」←「na[r→s]u」
・結果態(ar[ ]u):「~がある・在る・有る」
・受動態(ar・e[r]u):「~があれる、在れる、有れる」
・強制態(as[ ]u):「~をさす」←「s[ ]asu」←「a[r→s]u」
・使役態(as・e[r]u):「~をさせる」
のような意味の捉え方を披露しました。
(注:可能態(e[r]u):「~になる、~になす」←「なるようにする」←「na[r→s]u」
と解釈するほうが、自動詞性、他動詞性を併せ持つことを示せる)
追思考する視点を最初に述べると、「原動詞+態接辞」の構造形式に注目してほ
しいことがあるからです。
〇「原動詞+態接辞」を厳密に表現するには「(動詞語幹+挿入音素)+態接辞」と記
する必要があります。
〇「態接辞」を接尾語とみるか助動詞とみるか解釈が分かれていますが、自他交替
動詞生成と同様の仕組で態動詞の生成が行われるのであるから接尾語扱いが
最適なのだと解釈したい。
次に、追思考の内容を記していく。
〇「原動詞+態接辞」という結合構造に対する理解の仕方を思考実験する。
<思考が飛躍するが、結合構造を複合動詞と比べてみよう。
・例えば、相撲の決まり手:寄り・切り、寄り・倒し、押し・出し、突き・出し、など
動作を結合して表現する。(連用形の重ね合わせで動名詞化)
・例えば、連想派生の複合動詞:見・舞う、見・送る、見・掛る、見・積る、見・定め、
見・合、見・返す、見・付ける、見・切る、など「見ること」が重要な動作であり、
かつ、後続動詞で仕上げ動作を表現する。
・例えば、変化動作を表す場合、「動作動詞+結果動詞」を組み合せるのが、中国
語の流儀らしい。ビンのフタを苦戦して開けたとき「開了!」ではなく、普通は
「打開了!」というらしい。打:動作+開:結果状態+了:完了の組み合せで表現する。
日本語の態動詞の結合構造は、動詞語幹に態接辞を接続して一気に新しい意味
の動詞を作り出すものです。
・例えば、「休m+eru:休める→手を休める(他動詞)、あすは休める(自動詞・可能態)」
の二義を生成する。「食べ[r]+eru:食べれる:→箸で食べれる(他動詞・可能態)」の
一義を生成する。「これは箸で食べれる(自動詞・自発態)」のよう にも使える。
・日本語の受動態も「動作動詞語幹+態接辞」の接続で一気に新動詞を生み出す。
(文語体で)「動作語幹+結果接辞」が受動態であったし、現代では、それに
(口語体で)「文語体受動+可能接辞」→「動作語幹+結果接辞+可能接辞」と
可能接辞を付加して受動態としている。
・受動態の例では、「行k+ar・eru:行かれる」を分析すると、
→「行k+aru:行く動作結果あり」+「可能接辞:~になる/~になす:の二義」
→①「行く結果になる:行かれる」、②「行く結果にする:それができない打消し
表現:行かれない。行く結果にしようとすれどもできないことを表す」の
二義があります。
つまり、受動態の肯定文では、可能接辞の「になる/にする」の有意差が目立た
ないのだが、打消し文では「にならない」よりも「にする意図・願望が打ち消さ
れる:行かれない」と解釈すれば無念感覚が強く迫ってくる。
もちろん、①「行く結果にならない:行かれない」と言う場合もありうるが、そ
の場合は、「行けない」と表現して、「行く結果にする」つもりがないことを表
明するほうが本当はよいのでしょう。
追加:
2016/09/22(木)
派生した態動詞に対する意味の解釈は、「態接辞の意味」が分かっているから
たやすく推量できるはずです。
〇例えば、川端康成:『雪国』の冒頭、
「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」の態動詞「抜ける」を解釈してみ
よう。
〇原動詞は「抜く」です。
・原形態(u):「~をする」→(栓を、群を、気を、虫歯を)抜く:他動詞。
・可能態(e[r]u):「~になる、になす」(①~naru/②~nasu)が接続するので、
→①「抜ける」→「抜く」状態になる:(路地を、トンネルを、会議を、虫歯が、緊張
感が)抜ける:自動詞交替。
→②「抜ける」→「抜く」状態になす:(虫歯を、ライバルを、きつい栓を)抜ける:
他動詞・可能態。
(自動詞の「抜ける」を可能態にするには、「抜けれる」とする。この「態文法」では
合理的と見なしている。他動詞「抜く」の可能態は②「抜ける」です。もちろん
②他動詞・可能の「抜ける」に二重可能態「抜けれる」としてはいけません)
〇『雪国』の「抜ける」は、「抜く/抜ける」の他自交替による自動詞ですね。
「態の双対環」による態動詞生成になれると、合理的な法則が見えてきます。
・原形が自動詞の場合の可能態生成では、①と②の解釈が入れ替ります。
例:「立つ」自動詞の場合、可能態接辞をつけると、
→①「立てる」→「立つ」状態になる:(赤ちゃんが、酔ってはいても、)立てる:
自動詞・可能態。
→②「立てる」→「立つ」状態になす:(看板を、面子を、計画を、腹を)立てる:
他動詞交替。
(他動詞の「立てる」を可能態にするには、「立てれる」とする。この「態文法」では
合理的と見なしている。自動詞「立つ」の可能態は①「立てる」です。もちろん
①自動詞・可能の「立てる」に二重可能態「立てれる」としてはいけません)
〇ついでに、無対自動詞、無対他動詞の可能態生成について調べておきましょう。
・無対自動詞「行く」の場合、可能態接辞をつけると、
→①「行ける」→「行く」状態になる:(遠足に、役場に、予定通りに)行ける:
自動詞・可能態。
→②「行ける」→「行く」状態になす:(他者を行かすなら、「行かす」にする):
他動詞は「行ける」で表現できない。(能動系→強制系への飛び移り交替へ)
・無対他動詞「食べる」の場合、可能態接辞をつけると、
→①「食べれる」→「食べる」状態になる:(納豆が/を、夕食が/を、)食べれる:
他動詞・可能態。
→②「食べれる」→「食べる」状態になす:(他者に食べさすなら、「食べさす」):
強制・使役は「食べれる」で表現できない。(能動系→強制系への飛び移り交
替へ)
〇つぎに、結果態を確認します。実は『雪国』を持ち出した理由は「抜く」の結果態
を調べてみたいからです。 自他交替のなかでも、結果態をそのままの形で使う
のは現代では少ないことです。
・結果態(ar[]u):「~がある・②在る・①有る」:を「抜く」に接続すると、
→①「抜かる」→「抜く」動作が有る:主体(手順をひとつ、うっかり、)抜かる:
自動詞的用法。注意喚起として「抜かるなよ!」と呼びかける。
→②「抜かる」→「抜く」結果が在る:(現代では受動態:「抜かれる」で表現する)
思考実験終わり>
可能態表現と受動態表現の意味の違いを指摘することになりましたが、「態文法
を考える、再生する」の手掛りになればと思います。
また、「動作動詞語幹+態接辞」の接続で一気に新動詞を生み出す法則と、抽象化
され汎用化された態接辞の具体的意味を明らかにしていきたい。