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2016/11/12

態文法:態接辞の意味を理解する(1)

2016/11/12(土)

1.態接辞の由来

 日本語の態接辞の由来は、動詞の自他交替の機能接辞から汎用に使える
いくつかの接辞を再利用したものと思われる。
自他交替とは、動詞に交替接辞を付加して自動詞から他動詞、または他動詞
から自動詞を派生させることです。
自他交替の例を記述すると、
 ①つかむ→つかまる、②上がる→上げる、③立つ→立てる、④取る→取れる、
 ⑤逃げる→逃す、⑥離れる→離す、⑦動く→動かす、⑧生きる→生かす、
などとなり、全体では①から⑫まで分類され、分類ごとの自他交替接辞として
識別されます。(自他の並び方、→方向ともに恣意的で特定の意図はありません)

〇自他交替接辞の中から「態接辞」として汎用的に再利用できるものは、
(1)「える:eru」=②~⑥他動詞変化と自動詞変化の両方あり:可能態接辞
(2)「ある:aru」=①、②自動詞変化の接辞:結果態接辞(文語で受動態に利用)
(3)「あす:asu」=⑤、⑦⑧他動詞変化の接辞:強制態接辞(文語で使役態利用)
以上の3つがある。
 汎用的に使える態接辞という例示を2、3上げてみよう。
例:・呼ぶ→呼べる、呼ばる(+える:呼ばれる)、呼ばす(+える:呼ばせる)
・読む→読める、読まる(+える:読まれる)、読ます(+える:読ませる)
・走る→走れる、走らる(+える:走られる)、走らす(+える:走らせる)
現代の口語文章では、上例のように、どの態にも「+える」とするのを常態
とするから、汎用的態接辞として、
(4)「あれる:areru」=受動態接辞(結果態+可能態)
(5)「あせる:aseru」=使役態接辞(強制態+可能態)
の2つが加わる。多くの学校では(4)受動態、(5)使役態のみに学習の力点が
しぼられているようですが、動詞単語の中には(1)~(3)の接辞が既に組み
込まれており、重要な意味を果しています。
今回は、(1)~(5)の接辞の意味合いの差を感じられるように配慮して順次説明
をしていきます。

 当ブログで提唱する「態の双対環」方式の態文法では、態の接辞(1)~(5)
を全部組み入れた考え方をしています。(接辞で「双対環」を表現すると)
(1)能動系「双対環」:「う:u/える:eru/ある:aru/あれる:areru」
(2)強制系「双対環」:「あす:asu/あせる:aseru/あさる:asaru
   /あされる:asareru」
(3)使役系「双対環」:「あせる:aseru/あせれる:asereru
   /あせらる:aseraru/あせられる:aserareru」
例:呼ぶの一語から派生できるすべての態動詞をこの3種類の「双対環」が
 教えてくれます。(強制可能態=使役態だけが重複する)
・すべての受動態は、呼ばれる/呼ばされる/呼ばせられる。
・すべての可能態は、呼べる/呼ばせる(使役態と同形)/呼ばせれる。
通常は、3×4=12個の態動詞を間違いなく発話しているわけです。

 さて、態接辞の由来を探ってみて分かったことを整理すると、
・動詞の自他交替機能接辞が態機能として再利用されること。
・文語体でも、「ある」、「あす」の自他交替接辞を受動態、使役態接辞に再利
 用していた。
・口語体では、「える」接辞が大活躍して、「える」可能態を創出するほかに、
 「ある」に結合して「あれる」受動態を、「あす」に結合して「あせる」使役態を
 創出しました。
〇佐久間鼎以来の先行研究が、
・「ローマ字つづり解析」で動詞自他交替の音素構造を調べ上げた成果があっ
 て、機能接辞を抽出区分できたのです。
・自他交替では、原動詞が子音語幹であることが多いので、接続の機能接辞
 が「ローマ字つづり解析」なら見つけやすい。
・だから「える」、「ある」、「あす」という母音始まりの接辞構造を発見できた
 のです。

〇「える」、「ある」、「あす」接辞を汎用的に使うためには、動詞・母音語幹と
 の接続方法を明確にする必要があります。
・現代語の事例:(母音語幹に対しては、語幹側に[挿入音素]を付加する)
・上げ[r]える→上げれる、上げ[r]あれる→上げられる、(r:自律動作語尾)
 上げ[r→s]あせる→上げさせる、(r→s交替、s:律他動作・sasuの語頭辞)
・調べ[r]える→調べれる、調べ[r]あれる→調べられる、
 調べ[r→s]あせる→調べさせる、(調べ・させる:二語から一語連結化:r→s交替)
・見[r]える→見れる、見[r]あれる→見られる、(あれる-える=ある残り)
 (見れる、は「ある抜き:結果抜き」の、つまり動作開始時点の可能態です)
 見[r→s]あせる→見させる、(r→s交替、s:律他動作・sasuの語頭辞)
〇子音語幹動詞の場合は、挿入音素が無し、[]を想定して、
・読m[]える→読める、読m[]あれる→読まれる、読m[]あせる→読ませる、
 で表現すれば、統一的に表記できる。
 (態生成は自他交替の仕組と同様の法則で成るものであり、動詞活用の未然形
  接続ではないのです。学校文法の間違いです。:未然形の有無ではなく)
・子音語幹でも母音語幹でも、「える」、「あれる」、「あせる」接辞の形を替えずに
 同一形態で憶えておいて、さっと使えるのです。
・この方式が「態の双対環」で提唱する態文法です。
(つづく)

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