態文法:態接辞の意味を理解する(7)
2016/12/07(水)
7.態接辞で派生する:
動詞機能を派生させる方法は、次のように一般化表現することができる。
★動詞派生の方程式基本=「動詞語幹+挿入音素+機能接辞」
・派生を連続するには、機能接辞も語幹化して次のようにつながる。
〇動詞派生方程式=「動詞語幹+挿入音素+機能接辞語幹+挿入音素+機能接
辞語幹+挿入音素+機能接辞語幹・・・」であり、最後は統語接辞で終結する。
★「態の双対環」方式の個々の態全景を記号的表記で再掲する。
(動詞語幹:D、挿入音素[][r][s][x]、態接辞・u/eru/aru/asuなど)
〇能動系:D[r]:+u原形態/+eru可能態/+aru結果態/+areru受動態
〇強制系:D[s]as[]:+u原形態/+eru可能態/+aru結果態/+areru受動態
〇使役系:D[s]ase[r]:+u原形態/+eru可能態/+aru結果態/+areru受動態
★「四態て形列記法」:日常的に使っている態の基本4つを「て形連節形」で
まとめて列記すると、
①原形態て形:D[i]te:例:任して、書いて、読んで、食べて(要:音便法則)
②可能態て形:D[r]e[]te:任せて、書けて、読めて、食べれて、
③受動態て形:D[r]ar[]e[]te:任されて、書かれて、読まれて、食べられて、
④使役態て形:D[s]as[]e[]te:任させて、書かせて、読ませて、食べさせて、
この実際的な文節形式でも態を学習できる。
・なお、挿入音素の使い方は「態の双対環」で提唱する考え方に基づくもので
語幹相互の連結の際に必要な音素を表記するもの。
・D[x]のDには子音/母音語幹どちらも配置できるから後続の接辞頭部音
素との見合わせで挿入音素の要否を決めて連結します。
・接合が確定している、e[]te、ar[]e[]te、などは挿入音素[]なしで省略で
きるが、語幹区切を明示するために挿入音素記号を残してある。
さて、前回後半に記述した「四態て形列記法」:による自他交替動詞群の思
考実験は、交替形式の①~④までだったので、今回は⑤~⑪までを考察する。
★「四態て形列記法」:自他交替形式⑤~⑪
⑤増える:増えて、増えれて、増えられて、増えさせて、
⑤増やす:増やして、増やせて、増やされて、増やさせて、
⑥倒れる:倒れて、倒れれて、倒れられて、倒れさせて、
⑥倒す:倒して、倒せて、倒されて、倒させて、
⑦動く:動いて、動けて、動かれて、動かせて、
⑦動かす:動かして、動かせて、動かされて、動かさせて、
⑧生きる:生きて、生きれて、生きられて、生きさせて、
⑧生かす:生かして、生かせて、生かされて、生かさせて、
⑨落ちる:落ちて、落ちれて、落ちられて、落ちさせて、
⑨落す:落して、落せて、落されて、落させて、
⑩残る:残って、残れて、残られて、残らせて、
⑩残す:残して、残せて、残されて、残させて、
⑪乗る:乗って、乗れて、乗られて、乗らせて、
⑪乗せる:乗せて、乗せれて、乗せられて、乗せさせて、
やはり、⑤~⑪では自他で別「双対環」をなす構造なので、自他動詞の「て形
連節」が重なることがありません。
〇自他が同一「双対環」に収まる構造は、①~④交替形式であり、このうち、
②形式は自動詞:結果態、他動詞:可能態の対向軸にあるため、「て形」連節
形での重なりが生じない。
・同一「双対環」で自他が隣接態である①、③、④は、原形態と可能態、原形態
と結果態、で自・他動詞として使われる構造です。
「四態て形列記法」で、原形態→可能態→受動(結果)態→使役態の順番で、
「て形」派生していけば、自他の隣接同形が発生するわけです。
8.有情動詞と事象動詞に二分合体する:
〇可能態接辞「える:eru」の機能として、可能機能と自他交替機能の重畳が
あるのは、③、④型の自他組み合せだけだが、それ以外の⑤~⑪交替型では
自動詞/他動詞の「双対環」が別々であるから、「可能て形」は可能態機能だ
けで解釈できそうだ。
〇「える」接辞が連用形、已然形、命令形などとの混合的な意味合いを持って
いる(と推定する)ので、
・意思動詞ならば「他動的、律他的な動作を加える:asu近似的」ことを示す、
意思動詞で動作者や事態を主体に表現する場合には、「可能状態」を示す、
・無意思動詞ならば「事象、事態が変化する状態:aru近似的」を示す、
という意味表現になるのだろう。(と考慮していましたが、)
だが、動詞を使う立場からすると、もっと分かりやすい区分法がほしい。
★動詞の種類分けに迷わないように、(厳密でなくてよい)
・自動詞:有情の者が行う動作。(有情動詞)
・他動詞:有情の者が行う動作。(有情動詞)
・使役動詞:有情の者が他の有情者にさせる動作。(有情動詞)
・事象動詞:事態、事象が主語になる動作、状態を表す動詞。(事象動詞)
の4つに分けて動詞の意味を見極めるのがよい。(有情と事象で二分合体)
例:③型の動詞:「届く」の場合、(事象動詞だと見抜けるとよい)
これを「四態て形列記法」で考察すると、
・届いて→届けて→届かれて→届かせて、で可能て形が「届けて」になり、
有情動詞・他動詞:届ける→届けて、と競合する。(下に例文作例)
〇「大事な作品が無事に届けて安心しました」:事象動詞可能態。(出品者談)
〇「大事な作品を無事に届けられて安堵しました」:他動詞受動態・結果可能。(運送者談)
という事象表現で収まっていれば問題ないが、
文章構造のなかに、人物が入ってくると混乱が生じる。
〇「出品者は大事な作品が/を無事に届けて安心しました」
→事象動詞構文に有情者が入り込んでしまうと、有情者の動作を感じる
ようになる可能性が高いでしょう。文意が変化してしまいます。
〇「出品者は大事な作品が無事に届いて安心しました」
→「届いて」のほうが、はるかに事象動作の意味が安定です。
そこで現代語の「態の双対環」方式としては
・事象動詞的「届いて」と有情動詞的「届けて」を見極めて使い分けることを
推奨したいのです。
(つづく)
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