態文法:態でアスペクトも構文も感じとる
2017/01/13(金)
〇前回、「態の双対環」を一行文字列表記で表して、
・原形態-可能態-結果態-受動態、の形式を記述しました。
この4つの態動詞を組み合せたお蔭で、4つの態が醸し出す「絶妙なアスペクト」
が感じられるとの説明もしました。
・前回は、動作主体が行う動作の局面を4つの態動詞を使って描写しましたが、
今回は、動作主体でない客体を主語に挙げて考えて見ましよう。
(折角の態動詞を考察するのですから、客体に焦点を合わせて試してみよう)
例文は同じく、
例:SMAPの曲「夜空ノムコウ」の主要歌詞:「あれからぼくたちは 何かを信じて
これたかなぁ」の「何か」で考察してみよう。
・「あれからぼくたちは 何かが信じてこれたかなぁ」(可能態:意味成立する)
×「あれからぼくたちは 何かが信じてきた(の)かなぁ」(原形態:意味不成立)
・「あれからぼくたちは 何かが信じてこられたかなぁ」(受動態:意味成立する)
〇動詞を直接に態活用し、(~てくる)を外しても同様の成/不成になります。
・「あれからぼくたちは 何かが信じ(てこ)れたかなぁ」(可能態:意味成立する)
×「あれからぼくたちは 何かが信じ(てき)たかなぁ」(原形態:意味不成立)
・「あれからぼくたちは 何かが信じ(てこ)られたかなぁ」(受動態:意味成立する)
〇原形態動詞は能動性が強いので、動作主体と結びつく要求度が高いのです。
・可能態や受動態の態動詞は所動性が強いので、動作の意味に関連する客体が主
語になることができるのです。「何かが」の「が」は、動作を誘引する根源が「何か
:客体」であることを表現しています。
〇態は事象に登場する主体や客体に対して行われる動作、状態の相互関係を叙述
するものだが、動詞そのものが、動作動詞であったり、状態動詞であったり、継
続動詞であったりするから、おのずとアスペクト的(動作移行局面)な意味合い
が付随する。
・可能態の一般式:D[r]eru、で表され、
可能態接辞:eru、の意味は、Dになる/Dになす(なるようにする)です。
来れる:来るようになる/する、(できる)という意味ですね。
信じれる:信じるようになる/する、(できる)という意味ですね。
〇「ぼくたちは 何かを信じて来るように(なった/した)かなぁ」
能動詞文では、態動詞を意訳して原形態構文にすれば、意味が成立する。
×「ぼくたちは 何かが信じて来るように(なった/した)かなぁ」
×「ぼくたちは 何かが信じるように(なった/した)かなぁ」
所動詞文では、態動詞を意訳して原形態に戻す構文にすると不成立になる。
〇「ぼくたちは 何かが信じるように(できた)かなぁ」
やはり、「できる」という所動態動詞を使った場合には意味が成立します。
・受動態の一般式:D[r]areru、には、「ar:ある」が付加してある。
受動態接辞:areru、は結果態接辞:aru、と可能態接辞:eru、が連結した口語体
の受動接辞です。(文語体では、結果態で受動表現をしたもの)
受動態接辞:areru、の意味は、動作:D(の結果)があるように「なる/なす」です
が、これを意訳して原形態動詞で表すのがむずかしい。
「ある」が唯一の存在動詞だから置き換えができないので、(あるようにできる)
で置き換えてみようか。これは所動態動詞のままですね。
・「ぼくたちは 何かを信じて来[r](あるようにできた)かなぁ」(動作主体構文)
・「ぼくたちは 何かを信じ[r](あるようにできた)かなぁ」(動作主体構文)
・「ぼくたちは 何かが信じて来[r](あるようにできた)かなぁ」(主客複主語文)
・「ぼくたちは 何かが信じ[r](あるようにできた)かなぁ」(主客複主語文)
〇やはり受動態は意訳して別動詞にしにくいし、変えると意味の語感が湧きにく
い。
以上、態動詞が示すアスペクトの問題を考えてきましたが、いかがだったでし
ょうか。このSMAP曲の考察で、2つの文法事項に触れた記述ができました。
1つは、「態とアスペクトの関係」です。
・結果態と受動態は動作結果を描写するので、動作局面の完了点を表す機能とし
て使われます。
・それに対して、可能態は、動作局面では内心の動作取りかかりを表す機能でし
ょう。
・可能態と受動態可能の意味の違いは「アスペクトの差」と「内心と見える結果の
差」でしょう。
2つ目は、「原形態構文と所動態構文の関係」です。
文法的な構文区別に、事象の生起転回を叙述する「事象叙述文」と、それ以外の
構文:実体の性質、属性を叙述する「属性叙述文」で二分する方法がある。
・「原形態構文と所動態構文の関係」がその二分法に近い部分もありますが、動作
主体構文では、原形態動詞も所動態動詞も使います。
所動態動詞を用いると「即属性叙述文」と見做すべきかどうか、未確認です。
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