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2017年3月

2017/03/18

態文法:派生文法と「態の双対環」文法

2017/03/18(土)

1.派生文法の進歩
 清瀬義三郎則府:『日本語文法体系新論―派生文法の原理と動詞体系の歴史』:
ひつじ書房 2013年12月刊行 の後半を通読した。
同著者の前書:『日本語文法新論-派生文法序説』:桜楓社:1989年、を昨年11月
ころに通読していますので、今回は『第3編 動詞体系発達史』部分を通読したと
ころです。
---上代古語の特殊仮名遣では甲乙二類の母音使い分けがあり、母音体系が8母
 音(甲音/乙音の違い、i/ï、e/ë、o/öなど)だった。
 母音語幹語尾が乙音:ï、ëの場合には上二段、下二段活用で活用(、甲音語尾では
 、一段活用で)したが、平安時代以降で乙音と甲音の別がなくなり、5母音が定
 着するに応じて徐々に二段活用が一段活用へ収れんしてきた。
 (言文不一致の時代だから一段活用への切り替りが広く記録で残るのが)江戸
 期後半の頃だ。---
<<仮定・已然形の[r]ëba、[r]ëdöも乙音だったという。何かヒントになるかも
しれないと思ったが、>>
---清瀬本では、已然形と可能態を関係づける記述はない。
<<この点では期待外れでした>>
---第3編の最終節、7.文法的「安定化」への中で、いわゆる「ら抜き言葉」が一般
 化しつつあるが、俗語として扱われて規範文法上は許容されていないし、(中略)
 これは、可能を表す派生接尾辞の-e-が子音語幹にのみ膠着するという不安定
 を除去すべく、連結子音(r)を有する-(r)e-に移行し、その結果、母音語幹に
 も膠着してmi-re-ru、oki-re-ru、ne-re-ruのような形を取り始めたとい
 う事なのである。(中略)その趨勢は人為的に抗すべくも無く、遠からず可能の
 派生接尾辞-(r)e-が定着して安定化するに違いない。
 これが文法変化の動向なのである。---
<<明確に可能の派生接尾辞を-[r]e-とする方向性を示す専門家の著作です。
本来、清瀬本が動詞の膠着・派生では、「連結子音」「連結母音」の用法で、子音語幹
、母音語幹どちらにも「共通の派生接尾辞」で連結させられると啓発したのです
からね>>

2.派生文法の発展
 清瀬本のあとがきに
---外国人向けの日本語の入門テキストでは、ローマ字書きで説明するとき、子
 音語幹、母音語幹の動詞に対し受動形を-(r)are-ruの形で教えることがある
 のを知り、大いに意を強くしている。(後略)---
<<派生文法は膠着語の派生法則を少ない規則で抜き出せるので、日本語形態素
解析システムなどの電脳プログラム文法にも適しており、その方面での実績もあ
るし、さらなる発展を期待したい>>

3.「態の双対環」文法の構想
 このブログに提起する態文法は、ここ数年の思考実験から生まれたもので、動
詞の自他交替の機能接辞が新しい動詞を派生し、同時にまた態の接辞としても再
利用されることを発見してきた。
日本語文をローマ字解析すれば、動詞語幹と機能接辞が識別でき、両者を連結調
和させるための「挿入音素」を挟み込んで発話する構文規則がはっきりと解って
きます。
★態文法では、派生文法で言う「連結子音」「連結母音」の概念を統合して、子音・
 母音語幹に共通に適用できる[挿入音素]の概念を採用しました。
 その結果、子音母音共通に動詞語幹:D、形容詞語幹:K、形容名詞語幹:KM、
 名詞語幹:M、などと「語幹の一般化」に対応する表記ができます。
その簡潔化の効果は以下のとおり:用言用法が簡単一覧表示できます。
(学習者には一度丁寧に用法説明をする必要あり。繰り返し学習の際に役立つ)

・動詞用法:四段・一段共通の一般式表記:(書かない、見ない、書けば、食べれば)
 D[a]na[k=Ø]i,D[i]mas[]u,D[r]u,D[r]u・,D[r]eba,D[r]e/o.
・動詞用法:時制の共通一般式表記:音便→[I]い音便、[Q]促音便、[N]撥音便。
 D[i]ta,D(s+[i])ta,D(k/g=[I])ta/da,
 (例外:行った:行(k=[Q])ta, 正/俗:歩いた/歩(k=[Q])ta,)
 D(t/r/w=[Q])ta,D(b/m/n=[N])da.
 D[i]mas[]u,D[i]mas[e]n,D[i]mas[i]ta,D[i]mas[y]ou.

・態動詞の派生:一般式表記:「態の双対環」原形態/可能態/結果態/受動態。
 能動系:(D:子音・母音両語幹に対応する)
  D[r]u/D[r]e[r]u/D[r]ar[]u/D[r]ar[]e[r]u.
 強制系:D[s]as:←これを新たに語幹Dとすると、(変化→子音語幹D)
  D[]u/D[]e[r]u/D[]ar[]u/D[]ar[]e[r]u.
 使役系:D[s]as[]e:←これを新たに語幹Dとすると、(変化→母音語幹D)
  D[r]u/D[r]e[r]u/D[r]ar[]u/D[r]ar[]e[r]u.

・形状動詞用法:形容詞の共通一般式表記:(楽しい、寒ければ、うれしかった)
 K[k=Ø]i,K[k]u,K[k]ereba,
 K[k]a(r=[Q])ta,K[k]ar[]ou.(肯定動詞:あるを付加して時制を表す)
・形状動詞が「ございます」に先行する用法:一般式表記:
 K(a[k]u=ou),K(i[k]u=yuu),K(u[k]u=uu),K(o[k]u=ou).
 (高こうございます、大きゅう、お寒う、遅うございます)
・打消し用法表記:(ない、なかった、ありません、ませんでした)
 na[k=Ø]i,na[k]ute,na[k]a(r=[Q])ta,na[k]ar[]ou.
 ar[i]mas[e]n,(deha=dya)ar[i]mas[e]n・des[i]ta.
・形容名詞用法:形容動詞の共通一般式表記:(きれいで、元気に、愉快な)
 KM[]de,KM[]ni,KM[]na・,
 KM[]de[]na[k=Ø]i,KM[](deha=dya)na[k=Ø]i.
 KM[]da,KM[]da(r=[Q])ta,KM[]dar[]ou.
 KM[]des[]u,KM[]des[i]ta,KM[]des[y]ou.

・名詞断定用法:共通一般式表記:(地震だ、夢だった、嘘じゃなかった)
 M[]da,M[]da(r=[Q])ta,M[]dar[]ou.
 M[]des[]u,M[]des[i]ta,M[]des[y]ou.
 M[]de[]na[k=Ø]i,M[](deha=dya)na[k]a(r=[Q])ta.

・動作事象の断定用法:共通一般式表記:(読むのだ、読んだのだ)
 D[r]u・noda,D([]/s[i]/x[I]/x[Q]/x[N])ta/da・noda,
以上。

2017/03/07

態文法:挿入音素[e]から可能態が成立

2017/03/07(火)

 「可能態動詞の成立」の由来を連続して考察しています。
前回に示した「動詞活用表:表1~表5」のうち、表1:文語活用、表2:口語活用に
対しての説明をしながら、今回の主題に迫りましょう。

動詞活用表:表1文語動詞、表2口語動詞
★表1:文語の上二段、下二段活用は、表2:口語では上一段、下一段に収れんして
 いきます。
〇下二段:受く:uk→D[e],D[e],D[]u,D[]uru,D[]ureba,D[e]yo
〇下一段:受け:uke→D[],D[],D[r]u,D[r]u,D[r]eba,D[r]o
・一段化への移行が容易だったのは、終止形と連体形が同一形態へ向うこと、
・同時に、受け:uk・e→D[e],D[e],D[e][r]u,D[e][r]u,D[e][r]eba,
 D[e][r]o、の D[e]を新しい語幹:Dとして
〇下一段:受け:uke→D[],D[],D[r]u,D[r]u,D[r]eba,D[r]o
 という一般式を日本語社会全体が探り当てたからでしょう。
・D[e][r]uの形態から→D[]e[r]u,D[r]e[r]uのように、可能態接辞:e[r]u
 が生まれたのでしょう。
 (推測する理由は実在する自他有対動詞が多数あるからです)
〇挿入音素[e]には本質的に【已然表現の機能】が備わっており、
・立つ/立t・e[r]u、割る/割r・e[r]u、など、e[r]uで動作開始の意味が深まり、
 動作を受ける対他・対物、対自の自他交替機能を果すことになる。
(動作:Dが「なる/なす」状態に変化するのを表現するのが「e[r]u」ですが、下二
 段での[e]も【已然、既然】の概念を含んで使われたものと判断できる)
〇一方、上二段のD[i]の挿入音素[i]は汎用機能を持たないし、
・過ぎる/過ごす、起きる/起こす、など、D[i][r]u、i[r]uの形態は自他交替
 接辞としての機能発揮の場面がないし、汎用的に使われない。

 ここで主張点を整理する。
★下二段の受く:uk→D[e]受け(未然、連用)の挿入音素[e]が、【已然、既然】の
 概念を含んでおり、また、終止形・連体形がD[e][r]u→徐々に(De)[r]uと見な
 されて安定した。(挿入音素[e]が語幹に組み込まれた:下一段化)
・同時に四段活用に対して、D[e]nai、D[e][r]uという新しい可能態動詞を生み
 出した。(可能の機能接辞:e[r]uの誕生です)
★だが、挿入音素[e]に備わる【已然表現の機能】について言及する文法研究が見
 当らない。
(期待する先行業績には、清瀬義三郎則府:『日本語文法体系新論―派生文法の原
理と動詞体系の歴史』:ひつじ書房 2013年12月刊行 が唯一存在すると推測し
てネット注文した)
(今泉喜一:『日本語態構造の研究-日本語構造伝達文法 発展B-』:晃洋書房:2
009年11月20日第一刷発行、も機能接辞:-e-を許容態と命名して詳述するが
【已然、既然】の視点での指摘はない)
★已然形を仮定形と呼ぶようになったのは、D[e]nai、D[e]masu、D[e][r]u、
 (De)[r]uなどと、已然形が溢れかえってきたので、-eba-形態を仮定形に限
 定したのだろう。 溢れかえる半面、皮肉なことに[e]が包含している「已然・既
 然」の語感は、日本語話者の深層意識の深い底に沈んでしまい、辛うじて無意識
 がうまく働くと「姿を現してこれる」程度なのだろう。
〇文語体では、未然形と已然形で明確にアスペクト表現をしていた。
・住まば都:これから住むなら繁華な都を目指すがよい:未然・前提条件。
・住めば都:住み慣れればここが一番住みよいところ:已然・確定条件。
・住めども:住んでいるけれども:動作既然。(住まども:未然では言わない)

 具体的に「仮定形が内包する已然・既然の概念」を思考実験してみよう。
例:子音語幹動詞
・(彼が)行けば、(私も)行きます:ik[]eba,ik[i]masu.(同一動詞活用系)
 【推奨:仮定形の「誘引:(私も)行けます」に抗して、行き/行くと対応する】
・行けば、行ける:ik[]eba,ik[]e[r]u.(可能態へ抜ける:ik・e[r]u)
 【注意:仮定形の接辞「ebaのba」を「ru」に替えたのではない。可能態選択した】
・行ければ、行きます:ike[r]eba,ik[i]masu (語幹:ike→ikの違いに注目)
 【安全:仮定条件に応答する文は源動詞へ戻る言い方が安全確実である】
?行ければ、行け×れる:ike[r]eba,ike[r](×e[r])u.(×れ足しダメ)
 【警告:可能態を二段重ねにしては意味不明となり、ダメ】
?読めれば、読め×れる:yome[r]eba,yome[r](×e[r])u.(×れ足し)
 【警告:可能態を二段重ねにしては意味不明となり、ダメ】
 
例:母音語幹動詞
・(彼が)食べれば、(私も)食べます:tabe[r]eba,tabe[]masu.(同一語幹)
 【推奨・安全:仮定形の「誘引:食べれる」に抗して、食べ/食べるに留まる】
・食べれば、食べれる:tabe[r]eba,tabe[r]e[r]u.(可能態化:tabere[r]u)
 【注意:仮定形の接辞「ebaのba」を「ru」に替えたのではない。可能態選択した】
?食べれれば、食べれ×れる:tabere[r]eba,tabere[r](×e[r])u.(×れ足し)
 【警告:可能態を二段重ねにしては意味不明となり、ダメ】
?見れれば、見れ×れる:mi[r]e[r]eba,mi[r]e[r](×e[r])u.(×れ足し)
 【警告:可能態を二段重ねにしては意味不明となり、ダメ】
 
〇母音語幹の仮定形には、「食べば、見ば」がないので、【推奨・安全】項が一つです
 が、基本的に子音語幹/母音語幹での差異はないわけです。
〇子音・母音語幹動詞の両方で、
・【注意】項に示す「可能態化」動詞は動作意図としての「可能状態」を意味します
 が、可能動作をしてしまう已然・既然の先行概念を包含している。
・【警告】項の可能仮定形が正に「可能動作:e[r]をしてしまった已然・既然:eba」
 状態を先行する確定条件として提示するものです。
→つまり、理屈上での可能仮定形:行けれれば/読めれれば/食べれれば/見れ
 れば、は先行想定の仮定形として成立するのです。
★だが、オウム返しに【二重可能態】で応答すると、【警告】発言になる。
→行けれる/読めれる/食べれれる/見れれる、が意味不明瞭な表現だと感じる
 のです。 自分で動作を再現できない言葉→ 【警告:れ足す言葉】になる。
〇可能仮定形に対する応答には、オウム返しにならないように、原動詞にもどる
 ことが肝心です。
(もっとも、通常は仮定条件と違う別の動作動詞で答えることが多い。)

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