« 態文法:派生文法と「態の双対環」文法 | トップページ | 態文法:形状動詞の派生と挿入音素 »

2017/04/01

態文法:動詞派生と挿入音素の働き

2017/04/01(土)

1.動詞派生と「連結子音/連結母音」
 前回に述べたように、清瀬義三郎則府:『日本語文法体系新論―派生文法の原理
と動詞体系の歴史』:ひつじ書房 2013年12月刊行 で提起された派生文法は、
->動詞派生の法則:機能接辞が母音語頭の場合
  =動詞子音語幹+(母音語頭)機能接辞、
  =動詞母音語幹+「連結子音」・(母音語頭)機能接辞、
->動詞派生の法則:機能接辞が子音語頭の場合
  =動詞子音語幹+「連結母音」・(子音語頭)機能接辞、
  =動詞母音語幹+(子音語頭)機能接辞、 という連結組合せを想定する。
(語幹と語頭が子音・子音なら「連結母音」を挟み込み、語幹と語頭が母音・母音な
 ら「連結子音」を挟み込むという文法則を明示した。同時に語幹と語頭が子音・
 母音、または母音・子音なら「連結母音」や「連結子音」を除いて語幹と接辞が連
 結するという文法則を含む)<-
〇上例を要約すると、「連結子音」・(母音語頭)接辞、「連結母音」・(子音語頭)接辞、
 のように、機能接辞の母音・子音に従い「連結子音」・「連結母音」を付加するか、
 直接、子音語幹・母音語幹に接続するかが決まることを示している。

2.動詞派生と[挿入音素]
 一方、当ブログは、村山匡司:『日本語動詞 態文法を再生する』:ブイツーソリュ
ーション:2016/10/21刊行 を基にして、著者自身がさらに思考の進展を記
述するもので、
->動詞派生の法則:3項方程式の形式で一般化表記して、
  =動詞語幹・[挿入音素]+機能接辞、の一形式で把握できます。
->[挿入音素]は語幹と接辞の間にあり、語幹に寄り添い、機能接辞の語頭音素
  との反対調和を図ります。(接辞語頭が母音なら、挿入音素は[子音]、接辞語
  頭が子音なら、挿入音素は[母音]です)
->[挿入音素]は語幹に寄り添い、機能接辞との間で反対調和が不要であれば、
  [挿入音素]は発話されず、表記されず、直接的に語幹と接辞が連結します。
  (つまり、[挿入音素]は反対調和の目的で姿を表して発話・表記されるだけ。
  子音・母音の語幹の差を[挿入音素]で調和して、機能接辞に対応するのです)
<-
〇[挿入音素]は結果的に、派生文法で言う「連結子音」「連結母音」の概念を統合
 して、子音・母音語幹に共通に適用できる概念です。
・子音語幹、母音語幹を共通に:動詞語幹:Dとして表記して、例えば、四段活用、
 一段活用を共通一覧することができる。
〇動詞派生用法の一般式:
 D[a]nai、D[i]masu、D[r]u、D[r]u-、D[r]eba、D[r]e/o.
例:書k[a]ない、書k[i]ます、書k[]u、書k[]u-、書k[]eba、書k[]e。
例:見[]ない、見[]ます、見[r]u、見[r]u-、見[r]eba、見[r]o。
と、子音語幹・母音語幹:Dに対し共通化した記号表記ができる。

 では、前回の復習を兼ねて、音便用法の簡略表記に取り組んでみましょう。
昔の文語体では、「書きたり」、「読みたり」であったが、
現代の口語体では、「書いたり」、「読んだり」のように音便用法が現れる。
て形連用形:「書いて」「読んで」とか、た形連体形・完了形:「書いた」「読んだ」での
音便用法を簡単に表記するには、どうしたらよいだろうか。

例:まず、全用法を書き並べてみよう。(完了形:D[i]taの場合)
①母音語幹:→D[i]ta
  :考えた←考え[]ta←考え(0*[i])ta←考え[i]ta。
②子音語尾(s):→D[i]ta
  :話した←話(s+[i])ta←話s[i]ta。
★①②は通常通りの派生用法です。
③子音語尾(k/g):→D(k/g=[I])ta/da
  :書いた←書([i])ta←書(k=[i])ta←書k[i]ta。
  :泳いだ←泳([i])da←およ(g=[i])da←泳g[i]ta。
★これをイ音便という:簡略表記→[I]で示す。(一音素分のイ音)
④特例、一例のみ:行(k)の場合:「行[I]た」ではなく、
  :行った←行([Q])た←行(k=[Q])ta←行k[i]ta。
★これを促音便という:簡略表記→[Q]で示す。(一音素分の詰った声、促音)
⑤子音語尾(t/r/w):→D(t/r/w=[Q])ta
  :立った←立([Q])た←立(t=[Q])ta←立t[i]ta。
  :止った←とま([Q])た←とま(r=[Q])ta←とまr[i]ta。
  :言った←言([Q])た←言(w=[Q])た←言w[i]ta。
★これを促音便という:簡略表記→[Q]で示す。(一音素分の詰った声、促音)
⑥子音語尾(b/m/n):→D(b/m/n=[N])ta/da
  :結んだ←むす([N])だ←むす(b=[N])da←むすb[i]ta。
  :読んだ←よ([N])だ←よ(m=[N])da←読m[i])ta。
  :死んだ←死([N])だ←死(n=[N])da←死n[i]ta。
★これを撥音便という:簡略表記→[N]で示す。(一音素分のn鼻音、撥音)

 以上の①~⑥が、た/だ形:[i]ta/[i]da、て/で形:[i]te/[i]de、用法での
音便変化形です。
〇一歩進めて、この[i]系音便形態を簡単な共通一般式で表記するなら、
★D[¥]ta/daのように、[¥]一文字の[挿入音素]で表現すると定義しておくと
 便利かもしれない。これで①~⑥形態をすべて代表的に表現できるから。

〇いくぶん我田引水のような考察を述べると、
 動詞派生一般式=【動詞語幹・[挿入音素]】+機能接辞、
 と敢えて「語幹と挿入音素」を寄り添うものと考えるのは、偶然ではない。
・連結に際してこの2つが調和発声するし、相互連声して音便化もある。
 (上例①~⑥に(語尾k/g/t/r/b/m/・・=[I/Q/N])で示したものが、
 語幹と挿入音素の連結・音便化の姿形です)
・機能接辞は「接辞項」として正確に(子音・母音語幹に左右されず)記憶される、
 のが望ましい。
 (もっとも、「語幹+接辞」で派生できるケースが半分あり、接辞が語幹側に調和
 融合してしまう。旧来の文法では接辞を2種類:「接辞」と「連結音素付き接辞」:
 を割り当て続けている)
 (旧来文法の例1:読ませる↘読ま+せる↘読m・a+seru:←接辞の泣き別れ)
 (旧来文法の例2:考えさせる↘考え+させる↘考え+s・aseru:←連結音素が
 混入した接辞)
(本当の使役接辞は、「あせる:as・e[r]u」:一つの形態が意味を担っています。
 本来、D[s]ase[r]uの形式で例1、例2ともに派生されるもの)

« 態文法:派生文法と「態の双対環」文法 | トップページ | 態文法:形状動詞の派生と挿入音素 »

日本語文法」カテゴリの記事

態文法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 態文法:動詞派生と挿入音素の働き:

« 態文法:派生文法と「態の双対環」文法 | トップページ | 態文法:形状動詞の派生と挿入音素 »