態文法:形状動詞にも[挿入音素]が必要か?
2017/07/29(土)
前回に提唱した「動詞派生の一般法則」や態・用言派生流れ図(完成版)のなかには
従来文法と異なる考え方の文法則がいくつかあります。
その中の1つ、
〇形状動詞の派生にも[挿入音素]を挟み込むべきだ、という法則について検証
しておきたい。
★形状動詞の派生一般式=形容詞語幹:K+[挿入音素:k]+機能接辞、を用いる
ことが妥当であるのか。
・口語体:K[k]u/K[k=0]i/K[k]ereba/K[k]a(r=0[Q])ta、
例:HAYAく/HAYAい/HAYAければ/HAYAかった、
例:TANOSIく/TANOSIい/TANOSIければ/TANOSIかった。
〇口語では終止・連体形が同形となり、過去形も異形がなくなったので、
[挿入音素]も[k]音にまとめやすい。文法的には一般式表現が通用するほうが
学習しやすい言語となる。
一方、文語体の形状動詞では、終止・連体が異形であり、過去形でも異形である。
・語幹の捉え方にも混乱があり、TANOSIを語幹とせず、TANOを語幹とする
見方が根強かった。ク活用/シク活用の二流があった。
〇一覧のため、語幹と活用語尾に分けて表記すると、
HAYA[]ku/K[]si/K[]ki/過去:K[]karisi/K[]kariki、
TANO[]siku/K[]si/K[]siki/過去:K[]sikarisi/K[]sikariki。
・仮に、TANOSIを語幹としたなら、
TANOSI[]ku/K[]0/K[]ki/過去:K[]karisi/K[]kariki、となる。
両方が母音語幹であり、ク活用とシク活用の差は本来ないに等しいのだが、
K[]si/K[]0にだけに差異が現れる。
・また仮に、TANOS-と子音語幹に見立てると、(一般式表現で)
TANOS/HAYA[i/・]ku/K[・/s]i/K[i/・]ki、
過去:TANOS/HAYA[i/・]kar[i]si/K[i/・]kar[i]ki、のように
[挿入音素]をはさんで共通接辞と連結できる。
★さて、共通接辞と見なすべき、-ku/-ki/-karisi/-kariki、の形態を検証
すると、kを除いた-u/-i/-arisi/-ariki、は動詞の派生接辞であり、形容詞
を動詞化する機能を果すものと規定できる。
・k音は、文語体、口語体ともに形容詞語幹と派生接辞の間に[挿入音素:k]とし
て配置されると法則化したい。
特に口語体では、[挿入音素]に指定しやすい配置にあり、語幹と動詞化接辞を
取り持つ位置付けが明白である。
・形状動詞の一般式では、(子音語幹、母音語幹に対応することを想定すると、)
K[・/k]u/K[・/k=0]i/K[・/k]ereba/K[・/k]a(r=0[Q])ta、となる。
口語では、形容詞は母音語幹のみなので、挿入音素:[k]の形式で簡略表記して
も紛れない。
★[挿入音素:k]は、動詞派生接辞と連結することになっても、動作動詞ではなく
「事象の性状、形容表現であることを示すための標識音である」と推察できる。
①古語:~き、~ki、過去を表す助動詞。(記憶にある状態の表現に重きがある)
②無律化接辞-ak-の変身形=[挿入音素:k]が使われている。
動作意図を表現するのではなく、動作結果状態の概念を表すため、[挿入音素:
k]をはさみこむ。この可能性が高いと推測するが、確証はない。
少し無律化について考察記述することで論証してみたい。
〇例:望む:動詞/望ましい:形容詞/望まくは:文語副詞句・・・
NOZOM[・/r]u/NOZOM[・/r]as[i](k=0)i/NOZOM[・/r]ak[]u wa
・望ましく:NOZOM・as・i・ku:強制形:望まs・i+kuという一般式で示した。
疑わしく:UTAGAW・as・i・ku、願わしく:NEGAW・as・i・ku、
羨ましく:URAYAM・as・i・ku、などを思いつく。 強制形:-as-を用いる理由
は、修飾句にすると判明する。
(望ましき解決策、疑わしき状況、願わしい回復、羨ましい限り:修飾の名詞事象
が望ましたり、疑わしたりの強制力を醸し出しているわけだ)
・「疑わしきは罰せず」の文語的法律用語の例のごとく、誰の動作意図であるのか
でなく、疑わす状態概念だけでは罰を課さないという意味である。
・辞典では、望むらく:NOZOMu・[r]ak[]u、を採録するが、正しくは、望まく:
NOZOM[・/r]ak[]u、とすべきだが、正誤の記述がない。
・願わくは、疑わくは、羨まくは、これらも言葉の使い勝手に向き不向きがある。
汎用的に使うような意味の接辞ではない。
・肝心の論証:・i・[k]u、-ak-のk音が派生の際に動詞性を中和し、無律(動作意図
を抹消する)化する機能があることを述べた。
〇さて、論証の最後になっても確証でなく、状況証拠のような事例を述べる。
例:『大言海』に見つけた単語の自他交替。
だまる:黙る/だます:黙す、の対応が自他交替だという。
だます:騙す、でなく「黙らす」:他を黙るようにするという意味で「だます」と言
っていたらしい。
・「泣く子をだます」の例文が、黙るようにする、の解釈で載っている。
・他人が自律動作で「騒ぐ」のを「だます」動詞では中々止められない。
「騒ぐ子を黙らす」の勢いが必要になるだろう。
・また、「黙らす」でなく、騙す動作を明確にするためには、と推測すると、
DAM[・/r]ak[・/s]as[]u:だまかす、を派生したのか、
(DAM[]ar[]u/DAM[]as[]uの自他交替→原動詞:DAM-か)
または、DAMA[k]as[]u:だまかす、と派生したのか、
([k]を本来的に無律[挿入音素]と見なして派生造語する例か)
〇つまり、[k]as[]uには、他者に動作の意志もない状態(無律)で、主体が自律
他動詞として「他者が絡む事象を動かす」という意味がある。
★口語体になって形状動詞の用法が整理されたことにより、k音を[挿入音素]と
見做しやすい単語構造に変った。一般化法則を適用して、形状動詞および動詞
でも用法がある[挿入音素:k]を共通の無律化機能として認定したい。
以上
(次回に続く:動詞強制形が由来の形容詞:NOZOM・as[i]Øが二次派生語幹に)
追記:だまる/だますの語源問題:
大槻文彦:『新編 大言海』:冨山房:1982年2月新編初版
だます:だまるの他動、①黙るようにする、すかす、②転じて、あざむく、だまか
す、と解釈。
藤堂明保、清水秀晃:『日本語語源辞典-日本語の誕生』:現代出版:1984年7月初版
だまる:だますからの派生。だましておきながらだまっていること。
〇両者は相反する語源説だが、動詞意味が明確なのは「黙る」であり、「だます」が
不安定で「騙す/黙す」の二義を思わせる。だから「だまかす」が必要になったの
だろう。
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