態文法:態の律仕方を伝える3
2017/09/23(土)
前回の記事途中にて、言いさして寸止めした「可能態接辞」について態文法に関
わる重要な部分を補足したい。
〇平安期から江戸期にわたり大規模な言語社会実験のように、動詞形態の一部が
「二段活用から一段活用への変移」した。 これを仔細に述べる能力はないので
深入りしないが、可能態接辞が果す「態の役割」実態を指摘しておきたい。
★すべての動詞(事象動詞:D[・/r]u、D[・/r]ar[]u、D[・/r]as[]u)には、
可能態接辞-e-を連結でき、「態の万能継手:ユニバーサル・ジョイント」の役割
を果すことができる。
「態の万能継手:ユニバーサル・ジョイント」を例文で示す。
★例:滝に打たれ-させ-られ-る:ut[]ar[]e-[s]as[]e-[r]ar[]e-[r]u.
(かな解釈に合せて「-記号」を挿入して区切りを示した)
→受動-使役-受動の態動詞が継手:e[r]、e[s]で連結される。
可能接辞:母音単音だから、e[r]/e[s]のように、[挿入音素]を[r]:自律、
[s]:律他のどちらにも連結でき、その意味で万能継手だ。
★例:祖父が父に私を大学に行かせ-させ-た:ik[]as[]e-[s]as[]e-[]ta.
→使役-使役、二重使役の構文。
★例:父が祖父に私を大学に行かせ-させ-られ-た:
ik[]as[]e-[s]as[]e-[r]ar[]e-[]ta. →使役-使役-受動の構文。
〇「え音」は、いわゆる動詞活用表の感覚でいうと、「四段活用の已然形、仮定形」
であり、「下二段活用、下一段活用の未然・連用形」に相当する。
少なくとも「動作に取りかかり、動作に目鼻がついた」状態を表現する機能を
発揮している。(已然形の概念を端的に表す)
→対比のため、「い音」の連用形に代えると、「取りかかったままの動作」が、いく
つも併存することなって、話し手、聞手のお互いの互律・納得の感じが進まない。
×滝に打たり-さし-らり-る:ut[]ar[i]Ø-[s]as[i]Ø-[r]ar[i]Ø-[r]u.
×大学に行かし-さし-た:ik[]as[i]Ø-[s]as[i]Ø-[]ta.
×大学に行かし-さし-らり-た:ik[]as[i]Ø-[s]as[i]Ø-[r]ar[i]Ø-[]ta.
「い音」連用形も母音単音の挿入音素:[i]と無音接辞:Øとで構成できる万能継手
であるが、自律動作の意思・意向が強く前面に出てしまい、話し手、聞手のお互い
の互律・共感が涌いてこない。
★古語時代から「ある・さす」の受動・使役動詞に対しては四段活用を用いるので
はなく、「あれ・させ」の二段・一段活用を優先してきたのは、「え音」が持つ已然
感覚と互律感覚が殊更に有用であったからなのだと思う。
→互律感覚とは、「互に勧奨・誘導し合うような意図的な動作:やろう、しよう」か
ら始まり、「動作がぶつかり合う使役・受動の動作」や「大事件の不可抗力的な動
作・被害」を含めた事態・事象に対して、「物の道理」「事の道理」「人の道理」「自然
の摂理」に則った動作・事象であると感じ取り得心できる感覚のことである。
「法の道理」は「物・事・人・自然の道理」を調整総合して成立つもので後追いの道
理であるが、言語のなかでは「文法の道理」も後追いながら同様に論理の整理に
役立つはずだ。
→冒頭に記したように、すべての動詞が可能態を派生できる。
一般式で表現すると、D[・/r]e[r]uである。
(「ら抜き」でなく、受動態から「ar抜き」したと見るのが可能態である)
例:watas[・/r]e[r]u→watas[]e[r]u:渡せる(子音幹動詞→母音幹動詞)
(渡される:渡すことができると、渡すことをされる意味もある)
nose[・/r]e[r]u→nose[r]e[r]u:乗せれる(母音幹動詞→母音幹動詞)
mi[・/r]e[r]u→mi[r]e[r]u:見れる(母音幹動詞→母音幹動詞)
sagas[・/r]e[r]u→sagas[]e[r]u:探せる(子音幹動詞→母音幹動詞)
abi[・/r]e[r]u→abi[r]e[r]u:浴びれる(母音幹動詞→母音幹動詞)
例:別の派生形式で子音幹/母音幹の動詞を試す。
〇子音幹動詞の例
・連用形:D[i/・]te:渡して、探して(-s[i]te)、
已然連用:D[・/r]ete:渡せて、探せて(-s[]ete)、
受動態:D[・/r]ar[]ete:渡されて、探されて(-s[]ar[]ete)、
〇母音幹動詞の例
・連用形:D[i/・]te:乗せて、見て、浴びて(-e/i[]te)、
已然連用:D[・/r]ete:乗せれて、見れて、浴びれて(-e/i[r]ete)
受動態:D[・/r]ar[]ete:乗せられて、見られて、浴びられて(-e/i[r]ar[]ete)
→この連用形の例で分かることは、子音幹動詞よりも母音幹動詞のほうが一段
早く已然傾向に染まっている。(当然と言えば当然だが)
・子音幹動詞の已然連用が母音幹動詞の連用形に相当し、子音幹動詞の受動態が
母音幹動詞の已然連用の形態と似たような印象になる。
(つまり、母音幹動詞の已然連用は、子音幹動詞の受動態と遜色ないほど可能態
としての機能を果せる形態である)
〇後追いながらこの「態文法の道理」も役立ときが早く来てほしいと思う。
(動詞派生を一般式表現することで新しい文法則をいくつか見つけて、投稿を
しているわけだ)
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