態文法:未然形はあるのか?2
2018/03/13(火)
手元の古語辞典『旺文社古語辞典[改訂新版]』1988年10月20日の巻末付録、
国語・国文法用語解説を読むと、次のような解説がある。
〇文語動詞活用形の辞書解説(要約):
・未然形:「未だ実際には起きていない事実を述べるのに用いる」
後続①:助動詞・【打消】ズ、【意向】ム、【態の助動詞】ス/サス、ル/ラル、
後続②:助詞・バ、デ、終助詞・バヤ、ナム、
単独(後続なし)での文中使用例はない。【自立していない】
・已然形:「すでに(已)そうなっている事態(然)を表す」
後続①:助詞・ド、ドモ、(確定の逆接)
後続②:助詞・バ、(確定の順接)
単独①:係り助詞「コソ」の結び詞となる。
単独②:上代では単独で逆接、順接を表すこともある。
★この解説に対する不満は、
→【辞典の未然形】の説明では、未然定義が曖昧であり、「未だ然らずの様態」が規
定できていない。
・【打消】、【意向】の助動詞が膠着するなら、未然動作の様態がはっきりする。だが、
・【態の助動詞】との膠着では、未然の概念を超えて「新しい態動詞」の派生となる。
・未然形活用語尾を付加しただけでは、自立した動作様態、動作相を想起できず
、後続の詞辞を連結しなければ意味を拡張、生成することができない。
膠着語としての派生法則の明示、文法化が「かな解析」では不十分である。
(文語・口語文法ともに「かな解析」文法では、膠着音素の解析・説明が不十分で
あり、自立できない未然形が余計に問題視されやすい)
→【辞典の已然形】の定義は分かりやすい。ただ、確定条件法の意味合いに傾きす
ぎた解釈だ。
(本来、動作動詞の場合には「すでに(已)敢行する事態(然)を表す」という「敢行
形」の意味・概念が底流にある)
★前回にすでに、已然形が「敢行の意味」を含むと記して、敢行可能→可能態派生
につながり、敢行仮定→仮定形に、敢行指示→命令形に、つながるとの独自解釈
を述べた。なぜ、敢行という用語にこだわるのか、説明しておきたい。
・古語辞典:「敢へて:あへて」(副)①押し切って、積極的に、②(打消を伴い)進ん
では~しない、と、副詞の解釈は「動作の切っ掛け・意向に」集中しているが、
動詞:「敢ふ:あふ」(自・他下二)①持ちこたえる、②押し切ってする、③終りまで
~しおおせる、とあり、解釈の主眼は、「動作の持続、尽力、完遂、」にある。
(文語の助動詞:aFu:四段動詞と結合し、動作の継続、繰返しを意味する、の原
動詞だったかもしれない。例:住まふ、語らふ、戦ふ、散らふ)
・現代の国語辞典で「敢行」を引くと、「思い切って行う、強行、決行」の説明があり
、やはり「動作の切っ掛け」に意識を向けさせる。 だが、本来は「動作の完遂」を
想定した動詞であり、動詞活用の「已然形」に相当する。
★已然形に係わる動詞を一般形式:D[・/r]e-:から派生させると、
(敢行)可能態→書ける:D[・]e[r]u、食べれる:D[r]e[r]u、
(敢行)可能態・自他交替→立つ→立てる(自・可能→他):D[・]e[r]u、
(敢行)可能態・自他交替→割る→割れる(他・可能→自発):D[・]e[r]u、
(敢行)仮定形→書けば:D[・]e[+]バ、食べれば:D[r]e[+]バ、
(敢行)命令形→書け:D[・]e【[y]o】、食べろ::D[r]【e[y]】o、:【省略部分】
のように、動作の完遂を目指す意味を匂わす動詞ができ上がる。
・已然形の概念はこういう形で現代口語文法の中でも確実に機能を果している。
(残念ながら文法書に、このような「已然形の機能・効用」の解説がない)
★下記の『岩波古語辞典机上版』では:古代での已然形・仮定の「ё音」と命令形の
「e音」は異なり、「書けり」の「e音」は命令形と同じだが、意味の同一性が保証で
きるわけではない、との説明(付録:助動詞解説)がある。
今回、「敢ふ、敢えて」を図書館で調べるうちに、びっくりな発見をした。
『岩波古語辞典机上版』:大野晋・佐竹昭広・前田金五郎:1982/11/12の巻頭
の凡例に「ク語法」の解説が載るのに気がついた。(凡例に用法の具体解説が載る
とは思わず、今まで目を通したことがなかった)
・この古語辞典の利点は、動詞の見出し語形式に「連用形」を採用したこと。
古文例で検証可能な用例で多いのが連用形だからという合理的な理由による。
・辞典本文でも、辞句の派生を部分的に「ローマ字表記」して説明するという先進
的な構成だ。が、惜しまくは(←正しいク語法)動詞活用体系の考え方が「音節・
かな解析」に留まっている。
・凡例の「ク語法」解説では、接辞:aku(曰く、すべからく、老ゆらく、恐らく)の
派生について、「未然形」連結でなく「連体形」連結にするとよい、と明察する。
だが、接辞:akuを「コト」「トコロ」(動名詞形態素)としか認めないので、場当り
的で発展性がない。他の助動詞、接辞の連結法に対する見直しに役立てる気配
がない。
★次回に古語辞典の「ク語法」を検証しよう。
(当ブログはすでに、下記の2つ記事によりク語法の新解釈を記載している)
→態文法:発見!挿入音素と機能接辞の同源性、態文法:「ク語法」を現代的に解釈する
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