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2018/04/15

態文法:日本語を研究するための道具1

2018/04/15(日)

 最近通読した本:
『重力とは何か~アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る~』:大栗
博司:幻冬舎新書:2012年5月30日第一刷、6月20日第三刷、に感銘を受けた。
宇宙を創り出す巨大時空の法則と素粒子の振舞いを支配する極小時空の法則が
連続一体の統合理論で説明・解釈できるようにするべきだという方向へ世界の
物理学者が先陣争いをしながら研究を進めている状況が、よく分る。
もちろん正確な方程式理論を自分では十分に理解できないが、重力と加速度、質
量とエネルギー、粒子の粒と波、時空の収縮と膨張など、対向性の対概念が統一
理論で説明できる時代がまもなくやってくるような研究の動きを感じられた。
 さて、物理学の世界で考察の道具として用いられるのは、動作原理を数式で表
現する方法だろう。数式の論理で説明すれば、直接、世界的な理解につながる。
当然ながら、動作原理の探求には、観測道具に望遠鏡(光学、電波)、実験道具に巨
大円形素粒子加速器や巨大重力波検出器などの巨大観測装置が建設され、それを
活用して新しい発見、理論の検証に努力してこそ、数式表現の信憑性が保証される。
一方、日本語の研究に対する考察道具は何だろうか。

 最近図書館で拾い読みした本:
・『複数の日本語~方言からはじめる言語学~』:工藤真由美、八亀裕美:講談社
 選書メチエ:2008年11月10日と、
・『しっくりこない日本語』:北原保雄:小学館新書:2017年8月6日初版、で
共通して気になったことがある。
両著書共に、いわゆる「ら抜き」、「れ足す」、「さ入れ」言葉に関する記述を選んで
読んでみたわけだが、日本語考察の道具に「音節解析:かな解析」を基本にしてい
るから、考察の精度が落ちるので曖昧な説明に終始すると感じた。
 日本語も世界の言語の一つであり、言語解析を行うには「音素:ローマ字解析」
が不可欠であり、特に音素数が1、2音の短い接辞(助動詞)を膠着させて動詞活用
(派生)形態にする言語方式なのだから、機能を正しく解釈するには「ローマ字解
析」が必須道具であるはずだ。
→★「ローマ字解析」を考察道具に用いれば、態接辞など音素の短い接辞を確実に
 切り出せる。(一般形式=動詞語幹[挿入音素]接辞語幹[挿入音素]統語接辞)
〇文語:受動接辞:ar、使役接辞:as
・書かる:kak[・]ar[・]u、書かす:kak[・]as[・]u (子音末動詞)
・食べらる:tabe[r]ar[・]u、食べさす:tabe[s]as[・]u (母音末動詞)
→結果態一般形式:D[・/r]ar[・]u (口語:結果態と命名する)
→強制態一般形式:D[・/s]as[・]u (口語:強制態と命名する)
〇口語:受動:are、使役:ase
・書かれる:kak[・]ar[・]e[r]u、書かせる:kak[・]as[・]e[r]u (子音末動詞)
・食べられる:tabe[r]ar[・]e[r]u、食べさせる:tabe[s]as[・]e[r]u、(母音末
 動詞)
→受動態一般形式:D[・/r]ar[・]e[r]u (口語:受動態=結果+可能)
→使役態一般形式:D[・/s]as[・]e[r]u (口語:使役態=強制+可能)
〇口語:可能態接辞:e、(可能動詞、自他交替接辞)
・書ける:kak[・]e[r]u、食べれる:tabe[r]e[r]u (子音末、母音末動詞)
→可能態一般形式:D[・/r]e[r]u (口語:可能態と命名する)
★当ブログ提唱の「ローマ字解析法」を用いて、態動詞を派生させれば、態接辞が
 正確に規定できるし、動詞活用表の「未然形」に態接辞を連結させるのではない
 ことが分るはずである。

 一方、「かな解析:音節解析」を考察道具にすると、態接辞のとらえ方が異形態
(五段活用/一段活用の別により)となって正しい接辞を切り出せない。
〇口語:受動:れる/られる、使役:せる/させる (未然形に連結と見なす)
・書か・れる、   書か・せる (子音末動詞)
・食べ・られる、 食べ・させる (母音末動詞)
〇口語:可能:eる/れる([r]eる)、(←★便宜的:已然形に「る」を連結と見なす)
・書け・る(子音末動詞)、食べ・れる(母音末動詞) :(なぜか「れる」を認めない)
→「かな解析」で「ら抜き」と命名したのは、「食べ・ら・れる」から「ら」を抜いたと
 の見立てが由来らしい。 だが、その見立て自体が的外れだろう。
★食べ[r]ar[・]e[r]u、のar[・]を抜いた「ar抜き」と見立てるのが妥当だ。
 「動作+ある」とは、動作結果(状態、成果)があることを端的に表現する。
 つまり「かな解析」では合成する音素を分解表示する性能が低くすぎて、本当の
 姿を切り出せない限界があり、「ar抜き」を感じとれない。
・食べ[r]e[r]u:食べる動作を完遂するという意味で、「動作可能態」である。
・食べ[r]ar[・]e[r]u:食べる「動作の結果」があるという意味で、「実績の行為、
 行為結果物」を意味する。あるいは、未来に「食べれる」動作を想定し、「食べる
 動作の完遂結果を出せる」と予測して「絶対食べられる」ということも可能だ。
・書ける、書かれるの両単語が必要であると同様、本来は、食べれる、食べられる
 の両単語が必要なのだ。

 上記の両書籍には、共通語や方言での「ら抜き、さ入れ、れ足す」言葉を「かな解
析」の立場で専門的な解説をするのだが、学校文法で習う範囲を越える視点がな
い。
・特に文意をこじらせるのは、「文法は守るべき規範ではない」とか、「音節を取り
 出し分析しても意味がない」、「文法は体系的なものであり、文法的な形は他の
 形との関係のなかで存在する」という曖昧な態度記述があることだ。
・また、専門家同志がする対談形式の文法談義で、「読ま・せていただく」を「読ま
 ・さ・せていただく」という「さ入れ」言葉の風潮を取り上げての考察が、
〇「せて」だけでは使役の意味合いが弱いので、へりくだる意味で「させて」にな
 ったのだと思う、と解説する。
→すこぶる情緒的な感覚を元にした考察であり、呆れてしまう。
→★読ませて:yom[・]as[・]e+te、と、読まさせて:yom[・]as[・]as[・]e+te、
 の態構成の違い(二重強制、強制+使役になる)に対する指摘も忠告もなしに、
 単にへりくだりの意味合いだというのには、とても同調できない。
 少なくとも、二重使役の形式で「上司から代読を命じられ、今ここで皆様のお許
 しをいただき、読ま・さ・せていただきます」という二重代読のへりくだりだと
 する解釈説明ならば、なんとか納得できるだろう。
 (ただ、「させていただく」の乱発には少々うんざりします)
→★異形態の態接辞を便宜的な言い方で少しでも改善表記すると、
〇口語:受動:aれる/られる、(便宜的な言い方:未然形に連結)
〇口語:使役:aせる/させる、(便宜的な言い方:未然形に連結)
〇口語:可能:eる/れる([r]eる)、(便宜的な言い方:已然形に「る」を連結)
・五段活用につながる「かな接辞」は、「れる、せる、る」だ。(a/e音が無表示)
・一段活用につながる「かな接辞」は、「られる、させる、れる」であり、この方が
 意味を捉えたり、伝えたりしやすいだろう。だからといって、
〇「られる、させる、れる」の方を重用し、
・「ら入れ重用:ら抜きを嫌う裏返しとして「ら付」を重用する」とか、
・「さ入れ重用」、「れ足す重用」を勧めたり、容認したり、は筋違いだろう。
→★態の一般形式:つぎの3式を基本に据えて考察の道具にしてほしい。
・使役:D[・/s]as[・]e[r]u、
・受動:D[・/r]ar[・]e[r]u、
・可能:D[・/r]e[r]u 。(口語では、3態の語尾は已然動詞化:e[r]uが付く)
★態の語尾を已然動詞化する理由は、一段活用型にする方が意味安定・弱変化に
 できるからだと推測する。

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