態文法:薬は飲む、花火は打ち上がる
態文法:薬は飲む、花火は打ち上がる
2019/01/25(金)
前回、態動詞の動作律仕方を3×3マトリクス図に整理して解説しました。
〇無律と受律については別途に残したが、ネット上に見つけた記事に触発され
て、「受律」概念を広げて考察してみようと考えた。
①例文:「この薬は食後に飲みます・のgoogle翻訳」:aurinkokunta101のホー
ムページ(吉川武時氏のHP)
②例文:「花火がドーンと・・・? 打ち上がる/打ち上げられる」:毎日新聞 校閲
センターのツイッター(ことばアンケート:結果まとめ:1/21)
の2つの例題文を読んで「受律概念」を思い起す。
2例文で共通する着眼点は、文の主格が人間以外の対象物であり、他動詞を使う
ならば受動態で表現するほうが文法的?、という指摘を想定したのだろう。
吉川武時氏は言語学者であり、日本語教育に深く携わられて『日本語文法入門』
:アルク:1989年6月20日の著書を出されている。 多言語に目を向けられてい
て、①例文を中国語と比較してgoogle翻訳アプリで英語、独語、イタリア語、フ
ィンランド語、インドネシア語、タイ語、トルコ語、韓国語などに変換して、文章
構造の違いを比較した考察を記事に掲載された。(翻訳結果:私が薬を食後に飲
む、薬が食後に飲まれる。 HP記事では各国語の翻訳の文型を比較してるが、強
い結論を提示していない。西欧語とアジア語?の異同に着眼がある)
(吉川氏の文法と当態文法とでは視点が異なるのだが、時々HPをのぞき見して
参考にしている)
②例文には、ツイッター内に閲覧者回答の集計結果が示された。
「花火が打ち上げられる:72.7%」の支持があり、
「花火が打ち上がる:27.3%」は1/4強の支持にとどまる。
(残念ながら、校閲センターの選択は多数派に傾いたようです)
→当態文法では、態動詞には動作律仕方が備わっていると定義している。
③飲む、打ち上げる、打ち上がる、他動詞・自動詞ともに能動系原形態ならば、
「自律動作」を意味する。(主体が「自律」で、対象物が「受律」動作である)
④あげる:古語:あぐ-あげる(他動詞)-あがる(自動詞)-あがれる(受動態)
・現代語:あげる(他動詞:自律)-あげれる(可能態:互律)-あげらる(結果態:
果律)-あげられる(受動態:果互律)
・現代語:あがる(自動詞:自律)-あがれる(可能態:互律)-あがらる(結果態:
果律)-あがられる(受動態:果互律)
⑤あげる:ag[]e[r]u、可能態接辞が附属し完遂互律の意味を含むが、完遂の
相棒は重力法則だから目一杯頑張って折り合いを付けるしかない。
⑥あがる:ag[]ar[]u、結果態接辞が附属するので、果律:関与実体と動作結果
との結びつき、応対を表現する。(つまり、あがるは結果を含む自動詞なのだ)
⑦「日本語に主語はいらない」から、「飲む:【わたしが、きみが、ひとが】飲む」と
いう意味を含んでいる。命令形は「【きみが】飲め」であり各国語でも主語なし
で使うのが普通です。日本語は命令形でなくても文脈に沿っていれば、主語な
しを容認する言語です。(【 】内は省略・発音せずの記号)
→①「この薬は食後に【ひとが】飲みます」と簡単に表現できるのはよいですね。
「わたしが、(あなたが、みんなが)この薬は食後に飲みます」などと毎回言いた
くない。
→②「花火がドーンと【花火が】打ち上がる」と、夜空に打ち上った花火の輝きを
見上げて歓声を上げたいですね。
「花火がドーンと【花火師によって】打ち上げられる」と、遠くの発射場を目で
探しながら、チラッと花火を見るなんてことは好まない。
〇連体修飾形式を想定してみよう。(被修飾語が無情の対象物である場合)
①「食後に飲む薬は4錠ある」→飲まれる薬と言わない。
②「今度打ち上がる花火がUFO型なんだ」「打ち上げる花火のスポンサーは?」
「打ち上げた花火/打ち上がった花火は、ほんの一瞬だったね」→が普通です。
「打ち上げられた花火」は分析的ではあるが、普通は言わない。
★③に記したように、「自律動作」をするのは人間だが、対象物は「受律動作」を
するだけ:動作を受けるだけ、の状態を「薬は飲む、飲む薬」と言う。
〇一方、有情の人と人との動作に関しての連体修飾形式には注意が必要です。
・女は殴られた男に復讐した→殴られた女が殴った男に復讐した。
・女は殴った男に復讐された→殴った女が殴られた男に復讐された。
・女は殴られて男に復讐した→連用修飾なら誤解しない。
・助けた亀に連れられて浦島太郎は竜宮城に幾年か→亀と人間で動作律が違う。
・犬が嫌いな猫が来て逃げていった→?犬を嫌う猫が逃げた/犬が嫌って猫から
逃げた、:少し曖昧さを無くす工夫が必要となる。
★日本語が主語を持たない構文で動作意味を構成できるのは、
・主体の「自律動作」に並行して、対象物も「受律動作」で対応することを同じ動詞
形態で表現できるからです。
(日本人の暗黙知が支えているようだ。早く文法則で支える時代が来てほしい)
・また、動作結果(物)が関与者に対等な形態:「結果態:果律動作」や、「受動態:果
互律動作」を提供して関与者の反応表現を誘うことができるからです。
・可能態は、まさに主体の「自律」と対象物の「受律」が合体した形態:「可能態:互
律」であり、「花子はピアノが弾ける」のように主体と対象物がそろって複主語
になり、同じ動詞形態に連結できるわけです。
〇「受律動作」の表現は誰でも日常的に使っています。
・イチゴは直売所で売ります/売っています:動詞連用形でも受律が成立する。
・イチゴがよく売れました:已然連用・可能態で強固な互律が成立します。
・朝食は毎日食べるのがよい:これも普通に成立します。
・コンニャクは【食べても】太らない:文脈依存で省略がきついが、通用する。
・報告書は毎日書くこと:(報告書を毎日書くの言い方では、すべての業務を列記
しておかないと安心できない。 仕事もする、ひる休憩をする、考える、相談す
る、連絡電話する、などの一つとして報告書を書きなさいと言うことになる)
〇日本語の態については、動作の律仕方も文法化して継承すべきだと思います。
・能動態:自律:主体/受律:対象。(主体・客体・対象それぞれの動作対応を表現)
・可能態:完遂動作で、互律:主体・対象の相互助勢。
・結果態:動作結果で、果律:主体・客体・対象の結果事態。
・受動態:動作結果に反応で、果互律:主体・客体・対象の態応、反応。
・強制態:律他:主体指示/自律:客体服従。
・使役態:律他互律:主体指示助勢/自律完遂:客体服従。
(無律:強制態を他動詞能動態化へ転向させるなどの機能、ここでは割愛する)
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