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2019/08/25

態文法:「来る、する」の曲り角:未来へ

態文法:「来る、する」の曲り角:未来へ
2019/08/25(日)
 先日来、部分読みを繰り返してる『曲り角の日本語』水谷静夫
:岩波新書:2011年4月20日第一刷、の第四章 日本語未
来図、にある考察内容が気にかかっている。
いわゆる不規則動詞の扱いである「来る」と「する」の未来変化
はどうなるのか、ということ。
  
 まず水谷本の引用(箇条書に要約)から始めます。
<水谷本:要約>
〇「する」→「~す」:訳す/訳せば、恋す/恋せば、「す」が
 漢字と結合した語幹と見做され、四段活用化に向かっている。
 また、「~ずる」→「~じる」:生じる/生じれば、信じる/
 信じれば、連用形態で語幹化して一段活用化になっている。
 (水谷本で、訳せば・恋せば・生じれば・信じれば、と已然・
 仮定形態を並べて比較する方法には何かの思い入れがあったの
 だろうか)
・「~する」→も「~しる」の連用形態で語幹化して一段活用化
 へ変化するかもしれない。
 勉強しる/勉強しれば、議論しる/議論しれば、などが通用
 「しる」時代になるのだろうか。 曲り角を回った先をどれに
 「しる」のか考えて、あらかじめ誘導「しる」こともできるは
 ず。
 (この部分の「しる」はブログ記者の独断試行です)
・「来る」の未来に対しての具体記述がない(ようだ)。
  
<新文法の視点>
〇確かに「する」の現状変化や曲り角の先が気にかかるが、ロー
 マ字解析も取り入れた正確な語幹や接辞の形態を把握したうえ
 で未来図を考察したいと思っている。
・「来る」動詞について、深層意義を理解する鍵が見つかった。
 少し突飛な解釈なので、うまく説明できるか不安だが、開示し
 たい。
  
〇「来る」の意味を解く:
 「来る」は、2つの動作点から見た描写が混在している。
①来る→きる:ki[r]u,:出発点(到達点以前)付近での動作を描
 写する。
 き一段活用:ki([]na[k0]i,[]te,[r]u,[r]u,[r]e,[r](ey)o).
 (離れた出発点から来る動作:きない、きて、きる、きれ、き
 ろ)
②来る→こる:ko[r]u,:到達点(付近)での動作を描写する。
 こ一段活用:ko([]na[k0]i,[]te,[r]u,[r]u,[r]e,[r0](eyo)i).
 (到達点での来る動作:こない、こて、こる、これ、こい)
不規則に見える「来る」動詞は①、②の一段活用形が混在して成
立しており、次のように、終止・連体には:ku[r]u,が置かれる
③活用形となる。
③来る:ko[]na[k0]i,ki[]te,ku[r]u,ku[r]eba,ko[r]e[]te,ko[]i.
 (くる:ku[r]u,は動作点を単純一点化した動作事象を表現す
 る)
 混在状態は、こない、きて、くる、くれば、これて、こい、の
 ように、語幹にko,ki,ku,3音が入り組んでいる。
  
<この考えに先週たどり着いた>
 来るには2つの描写点があることに気づいたのは先週だが、
その伏線は2年前の事例1で聞いた会話の中にあった。
〇事例1:
 「日本語構造伝達文法」自主研究会に飛び入り聴講した折りに
 動作アスペクトの関連で次のようなやりとりがあった。
・電車到着を待っているとき、遠くに電車の姿を見たら「電車が
 来た!」と言うでしょう? (先生。その他、当方も同意)
・「いいえ。見えたと言いますが、来たとは言いません」、
 「電車がホームに着けば、来たと言います」(大学非常勤講師)
ひとしきり「来る」談義があったが、結論はない。
変わった見方をする人もいるのだなと感じた。
〇事例2:
・宇都宮餃子会:きらっせ本店、の「きらっせ」をその時思い出
 した。だが、遠方への呼びかけとまでは気づかなかった。
→きらっせ:kirasse→ki[r]as[]e[]mas[]e:きらせませ→ご遠方
 から来ていただけまして(ありがとう)、と言う意味だろう。
  
・山形県「こらっせ新庄」(介護施設や子育て支援センター、
 スポーツクラブなどが入った施設)、福島県「コラッセ福島」
 (福島駅西口複合施設)など、施設名に付ける名前として「こ
 らっせ」があるようだ。
 (先週、出発点/到達点に気づいて、ネット調べで見つけた)
→こらっせ:korasse→ko[r]as[]e[]mas[]e:こらせませ→ようこ
 そご来場いただけまして、と言う意味だろう。
  
→くらっせ:kurasse→ku[r]as[]e[]mas[]e:くらせませ→ではな
 く、
 →kur[]as[]e[]mas[]e:暮せませ→「クラッセ川崎」集合住宅
 の名称だったり、classeだったりだ。
現状は、来らっせ=きらっせ/こらっせの併存状態のようだ。
 
・因みに、多義語である「いらっしゃる:行く、来る、いる、あ
 る」なら、どうか。石川県加賀市「小規模多機能ホーム いら
 っせ分校、いらっせ松が丘」などに発想豊かな施設に名付けら
 れてるようです。
→いらっせ:irasse→i[r]as[]e[]mas[]e:いらせませ→来る・い
 る両方に使える言葉だから、動作点を気にせずに使える。
 逆に日本語では空間の広がりやその中での移動状態を識別する
 ことがあり、暗黙の知識になっているのだろう。
  
・きらっせ/こらっせ、やはり広い日本地方の言葉には意味の差
 を使い分ける伝統がある。深層意義の差に気がついて、2者を
 比べて違和感は、まったく感じない。
 つまり、「遠くに電車が見えたら、きた!/ホームに電車が着
 いたら、こた!」と使い分けができるのが、言葉の達人だと呼
 ばれるか、または「遠くても、着いても、くた!/きた!/こ
 た!」で済ませるか。 将来の選択にかかっている。
・ki[r]as[]e、ko[r]as[]e、が通用するのは、①ki[r]u、②ko-
 [r]u、一段活用の語形が暗黙裡に記憶されているからだろう。
   
〇曲り角の日本語の未来に何が起きるか判らないが、来るの①、
 ②、③の活用形の意義差を伝承したいですね。
 たとえば国語辞典には何らかの注釈が読めるように多面的記録
 を載せるのが望ましい。
・なお「来る」動詞の態の三系四態では、動詞語幹:koを使う。
 態では「登場人物相互の関与表現」が注目点だから、koを使っ
 て、動作の到達点での事態を描写する。
 この点でも矛盾はない。
・×「帰ってきない」→〇「帰ってきやしない」など、連用形で
 の言回し方により「きる」もしぶとく使われるでしょう。
  
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