態派生のしくみ−3
態派生のしくみ−3
2021年1月17日(日)
態派生のしくみを分析してきて、3回目になりました。
態の接辞:-ar-, -as-, -e-, のうち、-e- 接辞はなかなか理解しにくい、
説明しにくい特有の役目を持っているようです。
まず、-e- 接辞の意味を整理します。
・接辞 -e- は動詞活用形の一つ、已然・実現形「動作を完遂する、
尽力して成し遂げる、自然条件との折り合いをつけて成就する」
という意味を発揮します。動作を完遂するという動作相・アスペ
クトを持つ。
(形容詞、名詞の述語派生での已然は:〜けれ、〜であれ:実現
想定形と解釈します)
<新述語文法の動詞活用形:五段/一段共通形式>
(動詞語幹:D、[挿入音素]、S1:否定系接辞語幹、S2:連用系接辞
語幹、注釈記号:*1,*2,)
①D[a/-]S1 未然・否定形:*1 na[k]0i, z[-]u, mai,
②D[-/y]ou 将然・促進形:←積極的な意味を提起するため改称。
③D[i/-]S2 正然・連用形:*2 mas[-]u, te/de, ta[k]0i,
④D[-/r]u 事然・終止形:
⑤D[-/r]u- 係然・連体形:
⑥D[-/r]e- 已然・実現形:←積極的な意味を提起するため改称。
⑦D[-/r]e(yo)/(ey)o 命然・命令形:
注:動詞活用形は動作の進行局面を大まかに描写する動作然相:
アスペクトと、意味の形名を並記します。
近世になって用法が大きく変化した②将然、⑥已然については形名
を改称することを提起します。
古語の②将然は、D[a/-]mu:書かむ、見む、食べむ、の未然枠で活用
していたが、近世では D[-/y]af[-]u:書かふ、見やふ、食べやふ、から
現在の D[-/y]ou:書こう、見よう、食べよう、になった。
古語の mu は心理的な意向、推量であったが、現在の [-/y]ou は -af-:
合う=やり合う、継続する=周囲条件との折り合いをつけて挑戦する
という積極的な意向、勧奨を表現する。これと呼応するのが、D[-/r]e
:書け−、見れ−、食べれ−、現在の⑥已然・実現形であり、周囲条件
と折り合いをつけて完遂するという積極的な動作相を表現する。
・特に已然・実現形が独立し、D[-/r]e[r]u:書ける、見れる、食べれ
る、となれば実現形の実現度が高まる。可能動詞とみなされるのは
その結果なのです。
・また、⑥已然・実現形の次段派生の幅が広く、*1、*2の接辞にも
直結できます。つまり、新しく下一段活用動詞になったような使い
方ができます。
・動作を完遂していけば、→可能態→結果態→受動態の「四態」に
自然にたどりつく、という感性が生じるのは新述語文法だけでしょ
うか。(いずれにしろ、已然・実現形を仮定形だけに限定する解釈
をしていたら、近代日本語の積極的な言語感性が発揮できない)
<「態の三系四態」:12通りの「述語律」>
動詞活用で態が変わって構文の主部と述部の規制関係が変化しま
す。どんな規制関係があるのかを「述語律」という概念で捉えること
が文法として重要です。
①兄がイチゴを売っている:述語律=自律(兄の自律動作)
①’イチゴが売っている:述語律=受律(無情の対象物が動作を受ける
だけの状態を表すのに使われる。売られている、よりも頻繁に使う
はずです)
②イチゴが売れている:述語律=互律(已然、兄とイチゴと周囲条件
が相互によく働いて完遂できていることを表現する)
③イチゴが売らる:述語律=(結)果律(動作実行の結果がある描写)
④イチゴが売られている:述語律=果互律(動作結果が周囲に相互反
応を現出する描写です。習慣的な状態をいうことも多い)
この5種:自律/受律、互律、果律、果互律、が果たす規制力が能動
系「四態」の「述語律」です。
・已然が示す「互律」は、単に可能であることだけでなく、
例:彼は英語が話せる、花子はピアノが弾けます:複主体構文が示す
ように、主体と対象物とが相互に文章条件、音楽条件を満足させる
達成状態であることを描写しています。(構文の読み手、聞き手も
条件にどれほど適合してるのかに注目するはずです)
・受動が示す「果互律」は、動作結果が「互律」をする:「登場人・
物と周囲条件との相互反応を現出する」表現です。
例:授業では英語が話されます:習慣的に行われてる動作と周囲条件
との規律関係を描写します。hanas- が [-]ar[-]e[-]mas[-]u という感覚
でしょうか。(自律/受律が実現してあれるという感覚)
紙幅の残りが少ないので、強制態と使役態の述語律について簡単に
記します。
・強制態:D[-/s]as[-]u が示す「律他」は主体が客体に指示・許可・
命令して、客体が自律(服従・要請)動作をするという規制関係です。
・使役態:D[-/s]as[-]e[r]u が示す「律他互律」は主体が強制するだけ
でなく実現するよう客体に助力、督励を継続する、客体は自律(服
従・要請)で動作する規制関係です。
主体と客体の両方の「述語律」を考えるのは、強制、使役だけではな
く、能動系でも主体と客体・対象物との「述語律」を無意識に考えて
います。
・能動態:D[-/r]u が示す「自律/受律」は主体・自律、対象物・受律
で平衡しますから、果律や果互律での「実績可能/受け身」も成り
立ちます。
ー
« 態派生のしくみ−2 | トップページ | 述語律を記号で表す-1 »
「日本語文法」カテゴリの記事
- 「またく心」とは「待ち焦がれる心」のこと(2024.09.15)
- 「新手法」の用語(4):活用節=(体言/用言)[連用/連体/終止](2024.08.29)
- 「新手法」の用語(3):-e[r]と-ar[-]uを分かる知恵(2024.08.28)
- 「新手法」の用語(2):主部律と述語律(2024.08.27)
- 「新手法」の用語(1):膠着方式(2024.08.26)
「態文法」カテゴリの記事
- 「またく心」とは「待ち焦がれる心」のこと(2024.09.15)
- 「新手法」の用語(4):活用節=(体言/用言)[連用/連体/終止](2024.08.29)
- 「新手法」の用語(3):-e[r]と-ar[-]uを分かる知恵(2024.08.28)
- 「新手法」の用語(2):主部律と述語律(2024.08.27)
- 「新手法」の用語(1):膠着方式(2024.08.26)
コメント