態派生のしくみ−2
態派生のしくみ−2
2021年1月12日(火)
態動詞の派生に関わる接辞:-ar-, -as-, -e-, のうち、接辞 -e- の機能が
国語文法によっては明快に解釈できないと感じる。
1)受動態に -ar-, 強制態に -as-, が使われることは明白だが、
実際には受動態に -ar[-]e-, -are-, (強制)使役態に -as[-]e-, -ase-, の
ように接辞 -e- は両方(-ar-, -as-)の態に組み合わせて使われる。
この理由を国語文法は説明できない。
(-ar-, -as-, ともに下二、下一段活用の連用形で -are-, -ase-, になる
との解釈で止まってしまい、根源まで分析していない)
2)態接辞は動詞の自他交替派生にも役目を果たすが、接辞 -e- には
自他交替、他自交替のどちらにも寄与するので厄介である。
(例:立つ tat[-]u/tat[-]e[r]u 立てる、割る war[-]u/war[-]e[r]u 割
れる、のように自他両方に交替してしまう)
この理由を国語文法は説明できず、お手上げ状態らしい。
<接辞 -e- の本当の役割、機能を見抜く>
新述語文法としての解釈を記述します。
①態の接辞 -ar-, -as-, -e-, は「自他交替派生」や「態の三系四態」両方
に使われて機能を発揮します。なかでも接辞 -e- は機能が明確に把
握されないままで近世以降に大活躍しています。その理由を解明で
きないのは国語文法の力不足ですから、それを補う解釈が必要です。
②接辞 -e- の根源的な機能は自他交替や態派生の役割ではなく、別の
主要な機能があるのだと考えるべきでしょう。
③動詞活用形の一つ、已然・実現形のD[-/r]e- に使われる -e- 接辞が
その機能の正体であると洞察します。
まず、動詞活用形の歴史的変化をたどってみる。(五段はほぼ不変)
④江戸期になり二段活用:D[i]-, D[e]-,が語幹化して、Di[r]u, De[r]u の
一段活用化に収れんすると、大変革が起き始めた。
(これは一段動詞の正然・連用形の独立動詞化(起きる、食べる)に相
当する)
⑤また、一段動詞の独立化で、その已然・実現形:Di[r]e-, De[r]e-, の
形態は、五段の已然・実現形:D[-]e-, と共通一般形式で表記すれば、
D[-/r]e-, となり同等に扱えます。(書け-, 起きれ-, 食べれ-,)
⑥さらにこの已然・実現形が独立化してD[-/r]e[r]u, (書ける、起きれる、
食べれる)という発展形態に至ったのです。明治期以降、可能動詞と
して大活躍できるようになったはずです。(国語学は迷っているが)
・已然・実現形が独立して現在時制:D[-/r]e[r]u を持つことの意義は
とても大きい。現在時制ならこれから始める動作でもやれる!書け
る!食べれる!できる!可能だ!と言えるからです。
⑦先史時代に遡って考えると、先人の知恵を頼もしく感じます。
先人は已然・実現形を事然・終止形から直接的に生成できない動詞
に対して、まず終止形に [r]u を連結し再独立:D[-]u[r]uとしたうえ
で、已然・実現形 D[-]u[r]e- を生成する応急処理を施した。
先人にとっては応急処理だった二段活用が江戸期までも続くとは、
想定外だったかもしれません。国語文法はこの応急処理にも気づい
ていないようです。( D[-]ur[-]u→-ur- 接辞だと認識しているらしい)
⑧以上の歴史から動詞活用形が新しい動詞として独立する形態を順次
獲得してきた。これを整理すると、
・事然・終止形:D[-]u →D[-]u[r]u:係然・連体形へ独立、(先史二段)
・二段の正然・連用形:D[i]-, D[e]-,→ Di[r]u, De[r]u:一段の終止形、
連体形へ母音末語幹で独立、(鎌倉期〜江戸期)
・ 五段、一段の事然・終止形、係然・連体形が D[-/r]u, になり、
已然・実現形:D[-/r]e-, となって、つぎにこれも独立形:D[-/r]e[r]u
を得て可能動詞、可能態となった。(明治期)
・現代国語では、已然・実現形を仮定形:D[-/r]e+ば、(書けば、見れ
ば、食べれば、)の形態だけに限定したとらえ方で済ませている。
⑨以上、接辞-e- の歴史的な発展を調べたうえで、根源的な意味を見抜
くには、動詞活用形の已然・実現形を掘り下げる必要があります。
次回は已然の-e-接辞に集中して解説します。
〜つづく
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